軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第174話 次の壁

ガイルが冒険者登録をしてから、2週間ほど経った。

平日は王立学院で授業を受ける。

休みの日には、三人で冒険者ギルドへ向かう。

ガイルが加わったことで、前に出る力が一気に増えた。

一対一なら、低級魔物程度ではほとんど相手にならない。

ワイルドボアが突進してきても、ガイルは真正面から受け止める。

剣で押し返すこともあれば、腕力だけで向きを変え、地面に叩きつけることもあった。

何度見ても、普通じゃない。

だが、最初の頃は複数相手になると少し動きが硬かった。

一体を確実に潰す力がある分、どうしても意識がそこへ寄る。

さらに、魔法を使えば威力が大きい。

森では、必要以上の火力がかえって邪魔になることもある。

冒険者として経験を積み、G級からF級へ上がるころにはガイルは少しずつ変わっていった。

セレナの射線を見る。

魔物が複数出た時、最初に倒す一体ではなく、全体の位置を見る。

風魔法を撃つ時も、範囲を広げすぎず、必要な分だけに抑える。

まだ粗さはある。

だが、修正は早い。

「今のは、よかった」

ある依頼の後、俺がそう言うと、ガイルは少しだけ息を吐いた。

「まだ力が入りすぎている気はするがな」

「最初よりはだいぶ抑えられてる」

「そうか」

ガイルは自分の手を見た。

「一体を倒すだけなら、考えなくても体が動く。

だが複数になると、考えることが増える」

「森だとそうだな」

「学院とは違う」

「それ、私も言ったでしょ」

セレナが少し得意げに言う。

ガイルは横目で見る。

「何度も言わなくていい」

「先輩だから言っているのよ」

そのやり取りにも、もう少し慣れてきた。

張り合ってはいる。

だが、依頼中にそれで判断を間違えることは減っている。

そして、数度の依頼を重ねたある日。

ガイルにも昇格の話が来た。

その日も、俺たちは王都北西の森での討伐依頼を終え、冒険者ギルドへ戻っていた。

討伐部位を提出し、報告を終える。

受付の女性は書類を確認したあと、ガイルを見た。

「ガイルさん。今回の達成をもって、F級からE級への昇格が認められます」

ガイルが少しだけ目を動かした。

「もうか」

「依頼回数だけで見れば、かなり早いです。

ただ、初日から戦闘能力は十分そうでしたし、E級として活動していただいて大丈夫だと判断されました」

「そうか」

ガイルは短く答えた。

だが、少しだけ嬉しそうだった。

セレナが腕を組む。

「おめでとう。F級卒業ね」

「ああ、ありがとう」

受付の女性が少し笑った。

ギルド内でも、俺たち三人は少しずつ知られるようになっていた。

B級の俺。

D級のセレナ。

そして、登録して間もないのにE級へ上がったガイル。

年齢を考えれば、かなり目立つ。

そのうえ三人とも王立学院の生徒で、貴族家の子弟だ。

注目されない方がおかしい。

ただ、今日はそのことよりも、俺には気になっていることがあった。

ギルドを出ると、王都の空は夕方に近づいていた。

冬の風が通りを抜ける。

依頼帰りの疲れはあるが、三人とも歩く足取りは重くない。

セレナは、次の依頼について考えているようだった。

「E級になったなら、次からはもう少し範囲を広げてもいいかもしれないわね」

「確かに、ガイルも慣れてきたしな」

俺がそう言うと、ガイルも頷いた。

「もう少し複数を相手にしたい。まだ判断が遅れるところがある」

「前向きね」

セレナが言う。

「できないままにしておく理由がない」

ガイルらしい返事だった。

俺はそこで、一度足を止めた。

「いや、次の依頼は少し先にしよう」

二人がこちらを見る。

「どういうこと?」

セレナが聞く。

「そろそろ三学期の期末が近い」

その言葉で、セレナの表情が少し変わった。

「飛び級試験ね」

「ああ」

三学期は、一月と二月しかない。

長いようで短い。

気づけば、もうかなり時間が過ぎていた。

今回の期末は、ただの期末試験ではない。

指定された三科目で八十点以上を取れば、飛び級の対象になる。

俺は二人を見た。

「セレナは飛び級を狙う気だろ」

「当然だわ」

即答だった。

それは分かっていた。

「ガイルは?」

ガイルは少しの間も置かなかった。

「狙う」

こちらも即答だった。

ただし、その顔には少しだけ重いものがあった。

「なら、三学期が終わるまでは冒険者活動を休もう」

セレナは少しだけ黙った。

冒険者活動は、彼女にとってかなり実りのあるものだったはずだ。

森での実戦を通じて、魔法の使い方も変わった。

ギルドでの実績も積んだ。

だが、今優先すべきことははっきりしている。

「……そうね。飛び級を狙うなら、試験を優先するべきだわ」

セレナは納得したように頷いた。

ガイルも短く言う。

「異論はない」

だが、その声には少しだけ不安が混じっていた。

「ガイル、筆記はどうだ?」

俺が聞くと、ガイルははっきり顔をしかめた。

「危うい」

セレナが少し目を丸くする。

「はっきり言うのね」

「分からないものを分かったふりしても、点は上がらないだろう」

ガイルは淡々と言った。

こういうところは、本当にまっすぐだ。

「放課後、ナディアが勉強を見てくれている。だから授業には何とかついていけている」

「ナディアが?」

「ああ。かなり助けられている」

ガイルは素直にそう言った。

「だが、八十点以上となると簡単じゃない。特に筆記は、少しでも抜けると落とす」

実技なら、ガイルは問題ない。

むしろ上位に入るだろう。

だが、飛び級の条件は三科目すべてで八十点以上。

どれか一つだけ得意でも駄目だ。

リオンは、おそらく取れる。

セレナも、かなり高い確率で合格圏に入るだろう。

問題はガイルだった。

「なら、今回も勉強会をしよう」

俺が言うと、セレナもすぐに頷いた。

「それがいいわ。飛び級を狙うなら、全員で詰めた方がいい」

ガイルは少しだけ表情を緩めた。

「助かる」

「ナディアにも声をかけよう。ガイルの苦手なところは、ナディアが一番分かってるかもしれない」

「ああ」

「ヴィクトルも呼んだ方がいいな。あいつは要点を整理するのが上手い」

セレナが言う。

「エドガーもいた方がいいわ。あまり喋らないけど、指摘は鋭いもの」

「そうだな」

結局、いつもの面々で勉強会を開くことになりそうだった。

セレナは魔法理論が強い。

ナディアは総合力が高く説明も丁寧で、ガイルへの教え方も上手い。

ヴィクトルは試験範囲の整理や、出そうなところを見抜くのが得意だ。

エドガーは寡黙だが、理解は早く、要点を外さない。

俺も、全体を整理するくらいならできる。

「冒険者の依頼では、少しずつ分かるようになってきた」

ガイルがぽつりと言った。

「だが、筆記はまだ見えない」

「冒険者の依頼と同じだよ」

俺が言うと、ガイルはこちらを見る。

「同じか?」

「何が問われているかを見る。どこで失敗しやすいかを見る。

全部を力で押すんじゃなくて、順番に処理する」

セレナが少し笑った。

「問題も、正面から突進すればいいわけじゃないってことね」

ガイルは少しだけ苦い顔をした。

「耳が痛いな」

「でも、合ってるでしょ」

「ああ」

ガイルは頷いた。

「また見る場所が増えるのか」

「そういうことだな」

俺が答えると、ガイルは小さく息を吐いた。

「なら、見るしかないな」

その言い方に、少しだけ笑ってしまった。

ガイルは戦う時も、学ぶ時も、結局まっすぐだ。

その日、俺たちは三学期期末試験が終わるまで冒険者活動を休むことに決めた。

セレナは少し名残惜しそうだった。

ガイルも、もう少し続けたそうではあった。

だが、二人とも分かっている。

今は試験が近い。

飛び級を本気で狙うなら、ここで気を抜くわけにはいかない。

森で魔物を倒す力だけでは、飛び級はできない。

セレナは冒険者活動で、自分の型を見つけ始めた。

ガイルも、一対一の強さだけではない戦い方を覚え始めた。

けれど、次の壁は机の上にある。