軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 どしたん、話聞こか?

そして今日。

城崎隼人が黒川乃愛に告白をしてしまった。

とうとうしてしまった。

まだ付き合っていないだけ。

ただ付き合っていないだけでしかない。

誰がどう見てもお似合いのカップル。

どちらかが告白をすれば付き合うのは確実。

そもそも告白なんてしなくても既に付き合っているようなものだから、放っておけばそのうち結婚するだろう。

そう思えるくらいに隼人と乃愛は仲が良かった。

「いやいや、普通に振られたって。惚気もなんもねーよ」

「………え?」

故にその言葉は明星にとって青天の霹靂だった。

ちゃんと言葉は聞こえている。

言葉の意味も理解出来る。

なのにやっぱり言葉の意味が正しく理解出来ない。

隼人が何を言っているのか理解が出来なくなった彼女はフリーズした。

悲しくて零れそうだった涙がすっと身体の奥に引っ込んで、その代わりに全身の血液が沸騰するような熱を持ち始めた。

そんな明星がフリーズしている一方。

てっきり何かきつい言葉が飛んで来ると思っていた隼人は、軽く眉をひそめて首を傾げている明星を見て気まずさから口を開いた。

「いやー……でもやっぱ空野の言ってた通り、小学生の頃から告白するかしないかとかうじうじ考えてるような男はきつかったのかもな、ははは!」

明星が教室に現れた事で急いで涙を拭いた隼人は自嘲気味にそんな事を言うと、笑ってごまかす事にした。何かきつい言葉を浴びせられる前に先に自虐をしておくことで、これ以上何かきつい言葉を投げられないように予防線を張る事にした。

明星に絶対に成功すると後押しされたから告白をしたのに、結果は玉砕。と言う事で、多少思う所が無い事も無いが、それでも乃愛に振られたのは明星の責任でもなんでもない。悪いのは振られた自分である。

その程度の事は隼人も理解していた。

だから明星に対しての怒りは全くない。

しかし、どちらにしても今は誰とも話しがしたくないのは確か。

「べっ! 別に! 全然全然! 全然……。いや! きついとか、なっ、ない、ないと思うよ」

「はいはい。きついきついって事で。悪かったな」

「いや! だ、だから、じゃなくて、ホントに、全然!」

「まあでもさ……今まで色々悪かったよ、マジで。空野にも無駄な時間使わせちゃったけど、これでもう終わりだからそこは安心してくれよ」

「え、終わり? 終わり? おわ、終わりって言うのは?」

「うん? いやだから……。もう乃愛の事で相談するような事もないから。悪かったよ」

「悪くないよ! 隼人は全然! ……全然、悪く、ないよ。私の方こそ、ご、ごめん。無責任な事言って。絶対いけるって思ってて、だから、あの、ごめん。ごめんなさい」

「いやいや、なんで空野が謝るんだよ。空野から見れば絶対にいけるって思ってたんだろ?」

「……思って、た。絶対成功するって、思ってた」

「だったらいいよ。女子から見て行けるって思ってたのにダメだったなら、それはもう俺の責任だろ。空野の言う通り、俺が男として終わってただけの話だからな、ははは」

「そっ! そんな事ないよ! 全然! そんな事ないと思うよ。カ、カッコイイよ、隼人! 隼人はいつも凄くカッコイイよ! ずっとカッコイイよ!」

「うん……ん? いや……うん? え? うん。まあでも、今までホント悪かったよ。これからは勘違いしないように、身の丈に合った生活を送る事にするわ」

てっきり激烈に酷い言葉が飛んで来ると思っていた隼人は、想像していたものと全然違う明星の反応に少々困惑。

困惑したが、流石の明星も振られた直後の人間に暴言は吐かないかもしれないと、納得。

「……ホ……ホントに、乃愛に振られたの?」

「だから振られたって。俺の事はそう言う対象では見れないんだとさ。もういいだろ? それじゃあな。これでもう空野にも迷惑をかける事もないから、許してくれよな」

とりあえず帰ろう。

そう考える隼人が鞄を持って教室を後にしようとしたのだが──。

「あっ! そ、相談! 相談! 相談乗るよ相談! 相談相談!」

よく分からない言葉が聞こえてきて、思わず足を止める事となった。

「……いや、もう相談する事ないんだけど?」

「あっ、だよねー! わかるぅう! あ、でも、なんか相談あるなら乗るよ?」

「いや話聞いてるか? だから相談する事がないんだって。じゃあな」

しかし、何かよくわからない事を言い出した明星に困惑したが、それも一瞬。

今度こそ教室を後にしようとした隼人だったのだが、今度はダッシュで近付いて来た明星に腕を掴まれた事で、再び足を強制的に止められてしまう。

「あ待って待って待って待って待って!」

「ぅおっ!? な、なななになになに? なに? え、なに? ど、どうした?」

「あぁ、いやぁ? いやぁ……あー、あ、なん、なんかジュース奢ってあげるよ!」

「え? いや、いいよ別に。そんなに喉も乾いてないし。え? てか、な、なに? 急にどうした?」

「や! だから、なんて言うか……。あー、っと、あ、だから、そう! そうそうそう! 記念だよ記念! 振られた記念にジュースでもどうかなって!」

「……え、っと? もしかしなくても今俺喧嘩売られてる?」

「ちがちがちが! じゃなくてじゃなくて! そう言うつもりとかなくて! そ、そうじゃなくて、いや──」

城崎隼人の胸中はグチャグチャである。

それは紛れもない事実。

だがしかし、彼と同じか或いは彼以上に空野明星の胸中もグッチャグチャになっている事もまた一つの事実。混乱した頭と身体のせいで、今は考えている事と口から飛び出す言葉が上手く結びついてくれない状態に陥っていた。

(隼人が! 乃愛に! 振られた……!?)

言葉の意味はすぐに理解出来る。

なのに、飲み込む事は難しいと言った様子。

隼人が乃愛に告白をした事に対する嫉妬はある。

だけど、もしかしたら泣いていたのかもしれない少し赤い隼人の目を見たら、振られて落ち込んでいる隼人が可哀相にも感じてしまう。

それでも、それ以上に嬉しさを抑えきれない。

そんな複雑な心境。

困惑やら嫉妬やら悲しみやら嬉しさやら。

沢山の感情がごちゃ混ぜになった明星の胸中。

それははたった今振られたばかりで悲しみ一色に染まっている隼人よりも、余程混沌を極めているかもしれない。

そんな明星の口からは上手に言葉が出て来なかったのだが、彼女の様子が明らかにいつもと違う事に気付いた隼人は大きな溜息を一つ溢すと、肩をすくめて笑いかけた。

自分の左腕を力いっぱいに掴んでいる明星。

そんな彼女に困惑する気持ちはある。

だが、目をキョロキョロと泳がせながら話す彼女を見て、何となく察したものがあったのかもしれない。何か通じる所があったのかもしれない。

「じゃあ逆に励ましてくれようとしてるとか?」

「そ! そ、そう……かも、です」

隼人に指摘された明星。

その顔はみるみる赤く染まる。

夕暮れにはまだ早い時間。

教室には朱色のさした少女の顔があった。

放課後の教室。

振られたばかりの男子の左腕をぎゅっと握るのは、学校一の美少女と名高い空野明星。そんな少女に腕を握られているのは、ずっと片想いをしていた幼馴染に振られたばかりの、傷心の城崎隼人。

顔を赤らめる美少女。

上目遣いで見つめられた少年。

放課後の教室には新しい恋の予感が──。

「え、怖いんだけど。空野ってそんなこと気にするようなキャラじゃないだろ? なんかあった? 逆に相談乗ろうか?」

──新しい恋の予感はなかった。

たった今振られた直後。

恋の予感はまだ遠かったらしい。

小学生から続いた恋が無残に砕け散った男の子。

諦めていた恋が再び動き出すのを感じた女の子。

一つの恋が終わったこの日。

隠されていたの秘密の恋が静かに動き出した。