軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 恋が始まるとおもーじゃん?

顔を逸らした空野明星は軽く溜息を吐き出すと渋々口を開いた。

「……まあ。乃愛の気持ちが全部わかるわけじゃないけど⋯⋯それでも間違いなく行けるんじゃない。こんな相談するだけ無駄から。隼人も乃愛も昔からずっとくっついてんじゃん。……もっと、自分に自信持ってもいいんじゃないの」

酷く退屈そうな、或いは寂しさそうな。

一瞬そんな表情を浮かべた空野明星だったが、軽く首を振ると再び口を開いた。

「てか、中二の頃から何度も相談されてるけど、もういい加減ムリ。ホントムリ。あの距離感の乃愛に告白できないならもうこの先一生誰にも告白できなくない? 逆にどうやったら脈ありだって思うの? 100%成功するでしょ。頭大丈夫? さっさと告って、私への相談も二度としないでよね。鬱陶しいから」

「ま、まあ、そうだよな。悪い、悪かったよ。……うっし! だよな。俺ももう高校二年だしな。これ以上悩み過ぎても無駄か! わかった、そろそろ覚悟決めてみるわ!」

「⋯⋯どうぞ御勝手にー」

「よし、するわ! 空野がそこまで言うなら、流石に行ける気がしてきた。ありがとな!」

きつい言葉を投げられ続けたお陰で、ようやく告白する決心がついたのか。

右手で握りこぶしを作った城崎隼人が笑顔でお礼を言えば、彼のことが余程鬱陶しいのか、空野明星は退屈そうに目を伏せてしまう。

「……はいはい。じゃあ最後に特別に屋上に乃愛呼んできてあげるから、そこで待ってなって」

「お、ま、まじか。え、今から?」

「今から出来ないならもう一生出来ないでしょ、さっさと告って付き合えっての、バーカ。これで告白出来ないならマジで終わってるからね」

「それにしてもいきなりって言うか⋯⋯」

「何か隼人ってさ、優しいのを良い事みたいに思ってるけど、違うからねそれ。それって優しいんじゃなくてただ弱いだけだから。男して終わってるから」

「な、なるほどな。そうか、弱いだけか──オッケ! やるわ!」

「あっそ。じゃあね。……バイバイ」

そうして、聞こえるか聞こえないか。

ギリギリ隼人に聞こえないような小さな声で呟いた空野明星は、屋上の扉を開けて校舎に入ってしまった。

その後、空野が屋上からいなくなって十分程が経過した所で、屋上の扉が再び開いた。

「あ、ホントにいた。どしたのー、隼人―? 何か話しあるって 明星(あかり) に聞いたんだけど」

開いた扉の先から現れたのは城崎隼人の想い人である、幼馴染の黒川乃愛。

何の話をするのかまでは聞かされていないようで、伸びをしながらのんびりと隼人に近付いた彼女は当たり前のように隼人のすぐそばに立つ。

二人の距離は先程まで空野明星と城崎隼人が話していた距離よりもずっと近い。

少し動くだけで身体がぶつかる距離。

ただの他人では有り得ない距離。

だから、学校のどんな女子より、他の誰よりもずっと近くにいる黒川乃愛に、城崎隼人はこれまで彼女に抱いていた想いをぶつける事にした。

彼女の両肩に手を置いて。

目と目を合わせて。

何一つ臆することなく。

乃愛の一番の友達の空野明星の言葉を信じて。

この想いが届けと思いながら。

「──え……っと。いや、ご、ごめん、ごめんね、隼人。……隼人の事、そう言う目で見たことなかった、かも」

しかし、その結果は──。

「幼馴染として、友達として本当に大切に思ってるけど、でも、それ以上って言うのはちょっとよくわからないって言うか。そう言うの、考えた事もなくて、だから──」

告白した結果は──。

「これからも幼馴染として一緒に居るのじゃ……ダメ、かな?」

「いやいやいや! 全然ダメじゃないって! 俺の方こそ、なんか突然悪かったな、あはは!」

「あー、いやぁ、隼人が謝るのはなんか違くない? 普通私が謝るんじゃないの、この場面って」

「かもな! あはは! でもまあ、そう言う事ならこれからも仲の良い幼馴染でいようぜ。お互い変に意識するのとかは無しって事でさ。今日の事はスッパリ忘れるって方向でどう?」

「それは……まあ……。隼人がそれでいいなら、私はいいんだけど」

「いいも何も俺達はこれまで通りでいようって事で、この話は終わっとこうぜ」

「……うん。じゃあ⋯⋯わかった! 隼人がそう言うなら、私も気にしないようにするね。私達はこれからも変わらないって事で!」

少々ぎこちないものの笑顔を浮かべた乃愛。

そんな彼女に隼人も笑顔を返した所でおしまい。

長かった片思い。

一つの恋があっさりと終わった。

告白の結果は残念ながら玉砕。

その後しばらく平静を装って会話を継続した城崎隼人と黒川乃愛は、いつも通りの会話をした所で、二人揃って屋上を後にした。

「あっと、悪い。教室に荷物おきっぱだから、取って来るわ」

「あ、じゃあ待ってよっか?」

「あーどうするかな。いや、先帰ってていいよ。他にいくつかやる事あるからさ」

「そうなんだ? オッケー」

胸の痛みを必死に抑え込んだ隼人。

誰も居ない放課後の教室に戻った彼は、自分の席に座って静かに天井を見上げた。

(振られたのかぁ……俺。乃愛に。そっか、そっか……)

椅子に背中を預けて見上げた天井。

酷く滲んで見えるいつもと違う景色。

感情が瞳から零れてしまわないように。

何度も大きな深呼吸をする。

「そ……っかぁ……」

けれど、勝手に溢れてしまう悲しさは意志だけでは止められなかった。両目からポロポロ流れる雫をそのままに、隼人がぼんやりと天井を見ていると。

「あれ、なにやってんの?」

聞き慣れた声が隼人の耳に流れ込んで来た。

ヤバイと思って慌てた彼は制服で目を擦ると、何でもないように伸びをしながら窓の外を見て誤魔化す事にした。

「いや、っと。あー別にー。まあ、そろそろ帰ろっかなーと思ったとこ」

「はー⋯⋯そういう事。あーあ。しょーもなー。やっぱり告白しなかったんだ? 折角帰ろうとしてた乃愛呼んであげたのに、もうホント相談とか御免だからね。告白なんてやめといたらいいんじゃないのー? どんだけ意気地ないんだか」

突然教室に現れたのは空野明星。

放課後の教室で一人だらけている隼人。

それを見た彼女は、どうやら彼がまた告白をしないで逃げて来たのだと考えた様子。溜息を吐き出しながらいつも通りに煽りの言葉を口にした、けれど──。

「いや、告白はしたよ」

「──え? え? し、したの? え? え、こ、告白、し、したんだ……。そ、そっか。そっか……」

隼人が告白した事を知った途端。

泣きそうな顔になった空野が下を向いてしまう。

だけど、それも一瞬の事。

次の瞬間にはきゅっと口を結んで笑顔を作った。

「お──おめでとぉ! まあ良かったじゃん、乃愛と付き合えて。あーあ、これでもうしょーもない相談されなくて済むかと思うと清々するわー。言っとくけど惚気も禁止だからねー。隼人の恋愛とかキモいし興味ないからー」

そうして、笑顔を浮かべた空野明星は微かに振るえる唇で精一杯の祝福の言葉を口にした。

「いやいや、普通に振られたって。惚気もなんもねーよ」

「……………え?」

しかし、窓の外を見ていた隼人がゆっくりと振り返った時。少し悲しそうな、寂しそうな笑顔を浮かべた彼が口にした、その言葉を聞いた瞬間。

五月蠅い程の早鐘を打ち始めた心臓の音が、空野明星の頭を瞬時に埋め尽くした。