作品タイトル不明
世界樹
無事、新居への引っ越しを終え、更に幾日かの時間が過ぎ。
「……映像でもみたけど、直接その場に来ると本当にとんでもないな 世(・) 界(・) 樹(・) 」
俺は今、るーと刹那さんと一緒に藤乃宮ダンジョンの下層迄やってきていた。
下層なので、頭上には青々した空──が広がっているハズではあるのだけど、今はその空は欠片も見えない。目に入るのは一面に広がる緑と、その中に伸びる茶色だけで、昼間であるはずなのに周囲は薄暗い。
今俺達の頭上には鬱蒼と茂った木の葉で埋め尽くされている。木々、ではなく木だ。この頭上を覆う緑はたった一本の木によって生み出されている。
この場にやってくる前にその全体像は見れたんだけど、多分前知識がなければ多分これ木だとは絶対思わない。山だよ、山。だって高さがスカイツリーよりは低いものの東京タワーよりデカいらしいんだよ? 多分高さだけで言えば千葉県で一番高い山よりでかい。とんでもない。
普通なら自重でぶっ倒れそうなもんだけど、そこは異世界の樹だからね……
世界樹なんて大層な名前が着くのも納得のスケールである。まぁこの樹がそう呼ばれているのはそれだけが理由ではないんだけど──
「それにしてもほんと人がいないな?」
下層だから階級が低い探索者はそもそもこれない場所ではあるけど、日本最大級のダンジョンだし他の探索者の姿もあるかなと思ったんだけど。今の所下層についてから他の探索者には会っていない。
「まあ入口は他にもいっぱいあるから、そっちにいるかもだけどね。でも今の状況的にここに来ているのは少ないのは間違いないけど」
「ですよねぇ」
現在主に下層を主戦場とするような一級の探索者は大抵地元に張り付いている。というのも、房総ダンジョンの一件以来大なり小なり発生していたダンジョンの活性化が、佐渡の一件以降さらに勢いづいているそうなのだ。その結果、一部のダンジョンは房総ダンジョンで起きた 次元(ディメンジョン) 位相(シフト) の様なイレギュラーな出来事が起こりやすくなっている。そのため、そういったダンジョンをホームとしている一級探索者はいざという時のためにそこからあまり離れないようにしているのが実情だ。
それと、もう一つ。同様に下層に潜れる実力を持つ準一級や二級に探索者に関しては、そういった地元待機組の他に、佐渡もしくは燕三条へ行っているのが一定数いる。理由は勿論"オラクルキューブ"──アメル達が持ち込んだキューブから出現する機体の操縦者となるためだ。
探索者のランクは順当に鍛えていれば、二級までは到達できる。だが、そこから更に準一級に上がれるのは一握りだ。更に準一級と一級の間には大きな差がある。一級の探索者の殆どは何かしら特殊な能力に目覚めたものか、MADアイテムを手に入れた者ばかりだ(中にはそういうの無しに一級になっている人もいるけど)。
修練で一級に到達できるのは突出したセンスを持つごく一握り。能力の覚醒は条件が正確には判明していないので狙って取得できるものもない。だから二級や準一級で上を目指すものはMADアイテムを手に入れようと特に探索が進んでいない新規発生のダンジョンに押し寄せるんだけど……今回の場合、そのMADアイテムである"オラクルキューブ"が入手できる可能性があるということで……まぁ上を目指している人間は押し寄せるよね、って話。アレの性能はすでに蔵元や佐渡の件で実証済みだし。更に佐渡と燕三条の特効持ちだ、そりゃ入手したいだろう。
「ま、競争相手が少ないのはいいことよ」
「そうですね」
今回この藤乃宮ダンジョンに潜る理由に関しては、刹那さんからは勿論説明を受けている。
主目的としてはMADアイテムの入手だ。
この藤乃宮ダンジョンは特殊なダンジョンで、世界樹の根元に異世界のようなものを内包している。異世界in異世界である。ようするに今の地球と同じような状態を元々持っている世界を映したと思われるダンジョンなのである。ようするに地球という世界の中にある異世界の中にある異世界(擬き)である。なんだこれ。
ちなみに佐渡ダンジョンのように妙に混ざり合っているような感じではなく、別空間があってそこに異世界(擬き)が存在している感じ。これも今の地球の状況に似ているね。
んで、この藤乃宮ダンジョンの中の異世界だけど、過去に一度世界樹が唐突に活性化して地中に伸びる根が大きく蠢き、その結果内部の世界が全くの別物になったことがある。これは"再編"と呼ばれているんだけど、世界の中身が全く変わった事もあって完全に別種のMADアイテムが見つかったのだ。
今回、その"再編"が丁度俺と刹那さんがあったののちょっと前に始まっていて、つい最近終息が確認されたのだ。だからもっと人が来ていると思ってたんだけど……ユニークじゃない量産型みたいなMADでもやっぱり高確率で入手できるのは魅力なのかねぇ。