軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 極秘の調査

「君をマリー・ギャザウェルの監視役から外したいとセレスティア嬢に頼んだが断られた。男である俺だけでは、ギャザウェル嬢の監視に限界があるだろう、とのことだ」

グレイが連れてきたのは、人の全くいない 小宮(パヴィリオン) だった。

学園が主催する舞踏会やパーティーが開かれるパヴィリオンの中庭にて、グレイが「力になれなくてすまん」と謝罪してくれる。

「謝らないでください。…………それに、私もギャザウェルさんについて少し気になることがあって、もう少し彼女のそばにいたいと思っていましたから」

「気になること?」

私の言葉にグレイが怪訝そうにする。

原作とは違うマリーの性格。

様子のおかしい男子生徒達。

もしマリーが私に話してくれた話が事実で、彼女が演技していないのであれば今回の騒動は不可解な点が多すぎる。

「……………先程ギャザウェルさんとお話ししたのですが、周りから聞いていた印象と違ったので驚きました。もし私が抱く彼女の印象が事実であれば、去年の騒動は起きないんじゃないかな、と」

自分の感じた違和感をやんわりとグレイに話す。

何が真実なのかは分からないけれど、もう少しだけ自分の目で確かめたかった。

それに何故マリーが原作とは違う行動をとっているのかも気になる。

するとグレイはしばらく黙り込んだ後、口を開いた。

「お前がお目付け役としてしばらく彼女のそばにいるというのなら、話しておいた方が良いだろう」

「何を、ですか?」

「───マリー・ギャザウェルは何者かによって嵌められた可能性が高いということだ」

その言葉に固まってしまう。

そしてそんな私を気にしつつ、グレイは静かに続けた。

「婚約破棄騒動後、学園に介入した調査機関によるとマリー・ギャザウェルのブローチが《魅了の魔石》であったことが判明した」

「……………《魅了の魔石》」

《魅了の魔石》とは、対象者を魅力的に見せ、周囲に好意や執着心を強制的に芽生えさせる呪いの石。

この国の王族が代々魔石の管理をしており、王家の血を受け継いでいる者しか入れない『地下の間』で厳重に管理されている。

それを何故、マリーが。

「だが、彼女自身に身は覚えがなく、魔術による精神鑑定でも虚偽の反応はなかった。またそもそも王家管理の魔石を平民出の彼女が手に入れる手段はなく、疑いは一時的に薄れたが………」

原作にもあったマリーのガーネットのブローチ。

しかしあれが《魅了の魔石》だなんて描写は一度もされていなかった。

「しかし容疑は残ったままだ。また調査の結果、ブローチの入れ替えは昨年夏の学園舞踏会と推定された」

「学園舞踏会?」

「マリー・ギャザウェルの証言と他生徒達の証言を照らし合わせた結果、その日の翌日から学園の男共の様子が変わったからな」

去年の夏にあったとされる学園主催の舞踏会。

もしマリーが誰かに陥れられているとしたら、彼女が肌身離さず持っているブローチのすり替えは、そこででしか出来ないと言う。

「その舞踏会で犯行ができるのは唯一マリー・ギャザウェルのそばにいたパトリック第一王子に、その婚約者であるセレスティア・リュベル。そして彼女のエスコートを任された王立騎士団団長の子息アーサー・ホークウッドだ」

「それは………」

「この3人は魔石を管理している『地下の間』に侵入できる。パトリック王子は当然として、他二人の生家にも王家から降嫁した姫君達がいるからな」

グレイの話に言葉を失ってしまう。

第一王子パトリック

侯爵令嬢セレスティア・リュベル。

騎士団長の子息アーサー・ホークウッド。

今挙げられた容疑者達の名前を聞いて、この騒動の全容とマリーの置かれている状況を理解してしまったのだ。

そして私はグレイに確かめるべく尋ねる。

「…………調査はまだ続いているんですか?」

「ああ」

それに私は項垂れてしまいそうになった。

今グレイが上げた3人の容疑者の内、パトリック王子は王族であり、他二人は国の中枢を支える名家の出の者達だ。

そんな彼らが何の証拠もなく《魅了の魔石》を盗み出し、マリーを陥れた可能性があるだなんてとても公表できない。

セレスティアやアーサーが犯人であればマリーを利用し王子を失墜しようとした国家転覆計画を立てていたと思われても仕方ないだろうし、パトリック王子がもし犯人であれば王族としての責任能力を問われる。

それならばまだ美しい令嬢に魅了されたと言った方がましだ。

動機は全く分からないし、誰がどうしてこんなことをしたのかも分からない。

けれどこの三人の生徒達を容疑者として調査するために表向きは事件を解決させたとして、裏でグレイの言った調査機関が調べ上げているのだろう。

───マリーを、犠牲にする形で。

(だからマリーはあんなことをしたにも関わらず、短期間での修道院送りで済んだんだ。真犯人を泳がせるため、あえて)

マリーが身に付けているはずのガーネットのブローチも、だから無かったのか。

そこでようやく点と点が繋がる。

「………もちろんマリー・ギャザウェルが何らかの方法で魔石を盗み出したという可能性もある。それも含めて現在秘密裏に調査を続けている」

「………貴方は何故そんなにも事情を詳しく知っているのですか?」

「身内に調査機関の者がいて、俺も学園内部から探るよう命令された。魔石への耐性もあるしな」

そういえば去年の騒動でグレイは唯一マリーの毒牙にかからなかったとセレスティアが言っていた。

あれは魔石への耐性があったから、魅了されなかったのだろう。

そのせいで、今回の事件に巻き込まれていることに同情するが。

「この先マリー・ギャザウェルのお目付け役を続けなくてはならないのなら、否が応でも彼女の側にいなければならないだろう。であればパトリック王子やセレスティア、そしてアーサーには気を付けてくれ」

「…………はい」

「それから、このことは他言しないように」

「……………」

きっとこの人は、優しいのだろう。

ぶっきらぼうで何を考えているか分からないけれど、マリーやセレスティアに私が告げ口すれば、調査は全て水の泡となる。

しかし今回私が『お目付役』を続行することとなり、セレスティアやマリーとの距離が近くなるという危険性を踏まえて教えてくれたのだ。

もしかしたら私を調査に引き入れたいという目的もあるだろうが、それ以前に彼は私を今回の件から遠ざけようとしてくれている。

そんなグレイに申し訳ない気持ちになった。

「キングズリー様、私は誓って貴方の邪魔をいたしません」

そう言えば、グレイは「ありがとう」とこぼす。

そして彼はしばらくして、私の前から去っていった。

グレイがいなくなったパヴィリオンの中庭にて。

何だかどっと疲れてしまい、それでも教室に戻らなきゃとのろのろと足を進めた。

まだ午前中だというのに色々ありすぎて、気持ちが重くなる。

マリーは冤罪の可能性が高くて、容疑者が三人もいる。

グレイ曰く調査機関の方であらゆる可能性を探っているらしいため、もちろんパトリック王子達以外にも容疑者はいるのだろう。

(もしかしたら他の生徒かもしれないし、それこそ学園関係者かもしれない。それに冤罪の可能性が高いとはいえ、マリー本人にも容疑の疑いがある)

原作小説の裏側がまさかこんなことになっていたとは………と項垂れてしまう。

するとその瞬間、不意に足先が芝生のわずかな窪みに引っ掛かってしまった。

「うわッ!」

声を上げた時にはもう遅く、私は生垣に突っ込むように倒れ込む。

枝や葉が肌を叩きつけ、頬や腕がちくちくと痛んだ。

「いったたた………」

呻きながら身を起こすと、倒れ込んだ部分の生垣が見事にへこんでしまっている。

これは後で先生に事情を説明して、業者を呼ぶ羽目になるだろう。

自分の不注意を恨みつつ謝罪の言葉を考えていると、ふと視線が止まった。

生垣の根元、土の盛り上がり方が妙に不自然なのだ。

よく見ると幹も黒ずんで、腐りかけているように見える。

まるで中途半端に埋め戻した工事現場の跡みたいに、そこだけが庭園の美しさから浮いていた。

(何だろう。いや、それどころじゃないか………謝りに行かないと。授業も始まっているのに………)

もう、マリーの事件や極秘の調査でもういっぱいいっぱいなのに。

深いため息を吐きながら、私は重たい足を引きずって職員室へ向かった。

職員室の先生にパヴィリオンの生垣をへこませたことを謝れば、めちゃくちゃめんどくさそうな顔をされてしまった。

普通貴族の令嬢が生垣に突っ込むなんてまずあり得ないため、マリー関係で何かトラブルにでも巻き込まれているのでは?と思われたのだ。

「何かあったのかい?ギャザウェルさん関係で何らかのトラブルが?」

「あ、いえ。ただの立ちくらみで生垣に倒れてしまっただけで………」

そう言えば、眼鏡をかけた中年の男性教師があからさまにほっとした顔をする。

去年マリーの件で色々あったため、先生達もナイーブになっているのだろう。

普通の教育機関と違って王族から平民の子が通う王立学園は何かとしがらみが多く、教師の立場も弱い。

「体調が悪いのなら医務室へ行くように。それとパヴィリオンの中庭は今度業者を呼ぶ予定だったから丁度良かったよ」

「そうなんですか?」

「あそこの生垣の真下に穴が空いている部分が見つかって、去年の秋に慌てて整備したんだ。だから突貫工事になっていて、今回きちんと業者に整備してもらおうと思っていたんだよ」

そうなのか。それならば先生の言う通りタイミングが良かったかもしれない。

けれど生垣に突っ込むという私の令嬢レベルの低さが露呈されてしまい(もちろん私が悪いのだけれど)微妙な気持ちになったのは言うまでもなかった。