軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 もしかして:転生者(知識ゼロ)

原作の男爵令嬢マリー・ギャザウェルは転入早々パトリック王子や他の男子生徒達にすり寄り、媚を売っていく腹黒少女だ。

か弱いふりして目の前で倒れたり、「不器用だけど貴方のために精一杯頑張りました」と絆創膏だらけの手で手作りのお菓子を渡す(もちろん怪我なんかしてないし、お菓子は既製品だ)

そしてワンピース型の改造制服のせいで女子からいじめられると嘘をつき彼らの気を引こうとする───そんな奴だった。

しかし私の目の前にいるマリーはそんなことはしていないと言う。

そんな原作のマリー・ギャザウェルと違う行動を起こしているのならば、もしかして彼女は───

「……………………ギャザウェルさんって前世の記憶とか持っていたりする?」

「は?ないけど」

「ない!?本当に?異世界に転生しちゃいましたとか、そういうのない?私は絶対に味方だから正直に話して!」

「イセカイ?え、何?いきなりどうしちゃったのよ」

マリーがドン引きした目で私を見つめてくる。

そんな彼女に私はずっこけそうになってしまった。

ないのか………!普通に現地の人なのか………!

てっきり小説『悪役令嬢は優雅に微笑む』を知らない人が転生して物語に巻き込まれちゃっているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

けれどそうでなくとも、そうであっても疑問はどんどん湧いてくる。

(マリーが転生者じゃないとしたら、どうしてこんなに原作と違うの?ガーネットのブローチも付けてないし、もしかしてここってパラレルワールドだったりする?)

訳が分からなくなってきて頭を悩ませていれば、そんな私にマリーがおずおずと口を開いた。

「それよりも私、貴女に謝りたいことがあるの」

「謝りたいこと?」

「……………言うのが遅くなっちゃったけど、スカーレットから助けてくれてありがとう。それから、今まで色々と失礼なことを言ってごめんなさい」

失礼なこと。

おそらく裏庭で顔合わせした時のことを言っているのだろう。

けれど、まあ。先程マリーは「私と一緒にいるといじめられるかもしれないわよ」なんて言っていたのだ。

それもあってわざと私を遠ざけようとしてくれていたのかもしれない。

するとマリーは参ったように項垂れた。

「はあ………私だってね、皆に謝りたい気持ちはあるのよ。私、平民出だから貴族の常識とか分からなくて。多分、そういうのもあって男の子達を勘違いさせちゃったりしたのよね?」

本当に身に覚えないけど………。

そう自信なさげに眉を下げるマリーに何とも言えない気持ちになる。

だってもし彼女の言っていることが本当なら、力づくは無理でも暴走する男子を確かに止めようとしているのだ。

きちんと言葉で否定したり、徹底的に無視したりしている。

(私は去年学園にいなかったから、実際にマリーがどんな行動をとっていたか分からないけれど………)

様子のおかしい男子生徒達にも疑問が湧く。

「でも今のままじゃ私が何を言っても受け入れてくれなさそうだし………」

しゅんと落ち込むマリーに、私もどうしたものかと思う。

そして私は悩みながらも、今彼女が出来ることを絞り出した。

「………あのね、ギャザウェルさん。ギャザウェルさんの今話したことが本当かは私には分からないし、周囲の人達も多分信じるのは難しいと思う」

「そう、よね」

「でもね、他人に信じてもらったり、謝罪を受け入れてもらうには、まずある程度説得力のある姿になった方が良いんじゃないかな」

マリーが本当のことを言っているのか、嘘をついているのかは分からない。

けれどもし彼女の中で何か変わろうともがいているのであれば力になりたかった。

具体的にはそのワンピース型の改造制服や彼女のつんつんした態度だろう。

それによって心の中では深く反省していたとしても、周りからはそうは見えない可能性もあるのだ。

これ以上マリーが理不尽な私刑を受けたくないのであれば、まずは分かりやすい形で周りに示した方が良いと思う。

「正直もうこの格好に固執していないから良いけど………そんなことで良いの?」

「うん、まずはそこからだと思う」

謝罪会見で皆スーツを着るみたいに、反省していますって態度を出したいならそうした方が良いだろう。

その方が皆から「お、変わったな」って思ってもらえるし、話も信じてもらいやすいと思う。

(マリーが本当のことを言っているのか嘘をついているのか、全く分からないけど………)

けれどこれで、少しでも学園生活が穏やかなものになれば良いなと思った。

マリーは制服が乾くまで医務室に残ることにしたらしい。

もうすでに授業が始まってしまっているが、教室へ戻ろうと天井の高い学園の廊下を歩く。

するとその時、後ろからぬるりと声をかけられた。

「ハボット嬢」

「うわ!」

グレイ・キングズリーだ。

私と同じくセレスティアの指名にとって、マリーのお目付け役となった青年。

もしかして彼は遠くからマリーを見張っていたのではないだろうか。

ということは、つまり───

「まさかギャザウェルさんの着替えを覗いたりしていませんよね………?」

「そんなことするか。見張っていたのは確かだが、お前がいるからと彼女の着替えの時は目を逸らした」

心外だと言わんばかりの彼に私は「そうですよね。ごめんなさい」と謝る。

そしてグレイが口を開く。

「話したいことがある。付いてきてくれ」

今は授業中であるが、きっとお目付け役について何か話したいことがあるだろう。

あとで先生には謝るとして、グレイの言葉に頷き、彼に着いて行くことにした。