軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お屋敷の人

「リア、手」

「あい」

私は兄さまの差し出した手を握り、表情を崩してはいけないはずの門の衛兵の顔を崩れさせながら、城に向かった。時折兄さまを見上げると兄さまが見下ろしてニコッとしてくれる。私もニコッとする。そうしてさっそうと歩いていると、斜め後ろからふうふうという息と共に声がかかった。

「いつまでかかる気ですかな。さあさ、ルーク様、後ろがつかえております。リーリア様に合わせていたら日が暮れますぞ、まったく、よちよち遅いんですよ」

この瞬間、一行の全殺気がハーマンに向かったに違いない。普段ならよちよちしているという言葉を許さない私だが、ハーマンとは一言も話したくない。肩からかけているラグ竜をぎゅっとつかんで、プイッとした。

「では、リア、兄さまの抱っこで行きましょうか」

「あい」

「いや、俺が抱っこするよ」

バートがさっと出てきて私をすくいあげた。

「いえ、私が」

「気持ちはわかるが、みんな長旅だ。リアも今朝あのタヌキと一揉めあって、たぶん疲れてる」

「ハーマンと」

兄さまの目がすっと細められた。

「リアがさらわれたようすも早く知りたいだろう。今はまず、急ごう」

「わかりました」

ミルは状況に左右されないところがあるから、こういうことをするならミルかと思っていたので少し驚いたが、私はいつものようにゆったりとバートにもたれかかった。

「ずいぶんと慣れている。リアもそれが当たり前のようです」

「いくらアリスターが面倒みるって言ったって、いくらリアが自分で歩くって言ったって、辺境でハンターをしていたら、どうしても急がなきゃならねえときは多かったからなあ」

「ハンター。そう、ハンターと聞き及んでいます」

「リアもまあ、ハンターの卵みたいなもんだよな」

「あい」

「リアも」

兄さまはまさかという顔をした。

「トレントフォースまでの一ヶ月の道のりは野宿だったからな。リアには結界箱を持ってもらって頑張ったんだよな」

「あい。りあ、かちってちた」

「野外で結界箱を持ってスイッチを回したということですか」

「さすが兄貴、リアの言うことがよくわかるなあ」

バートが感心したように笑った。しかし、私はひやひやしていた。兄さまのほうから冷気が伝わってくるようだ。私の大切なリアに、虚族のいるところで、結界箱を持たせただと。そう声が聞こえてはこないか。

そもそも、バートたち四人の中で、ミルだけが少し抜けていて、空気を読まず、誰の気持ちも斟酌しないで物も言うし、行動もする。だから残りの三人が常識人に見えていただけで、実はその三人も相当神経が太いのではないかと私はやっと思い至った。

ということは、もしかしてアリスターもそうなのか。実際に、ミルやキャロと一緒に、城までの広い前庭を何の気負いもなく歩いている。

「あいつもこの旅で強くなった。もっとも、リアが来てからずっと頑張っていたからな」

「あい。ありしゅた、がんばった」

「リア、私もとても頑張ったのですよ」

兄さまがアリスターの名を聞きつけてそんなことを言いだした。

「あい。にーに、とても、がんばった」

「私にはとてもが付きましたね」

兄さまは満足したようだ。

城といっても馬車でたどらねばならぬほど門から遠くはなかった。門と城の距離を目で測り、お父様の屋敷のほうが庭は広かったような気がすると思っていると、兄さまがそれに気が付いた。

「万が一にも夜に移動しなければならなくなった時、門か城、どちらかに早くたどりつけるようにとのことで、庭は広くとっていないのだそうです。だから門そのものにも人が避難できるようになっているそうですよ」

なるほど。結界がないというのはそういうことなんだ。私たちが話しながら城にたどりつくと、城の大きな扉が自動で開いた。もちろん、誰かがタイミングよく開けたのだが。

お父様のお屋敷でさえそれほどしっかり見たことのなかった私には、辺境のお城とはいえ一国の城はやはり豪華に見え、途中にかけられている絵やタペストリー、それから複雑な形のシャンデリアなど、見るものがたくさんあった。きょろきょろしているうちに、たぶん城としてはこぢんまりとした、しかし数十人は入れるだろうという食堂のようなところに案内された。

「なんと、この部屋は個人的な集まりの部屋ではないですか。四侯がお子様とはいえ4人もそろっているのにこのような部屋では」

「ハーマン」

「しかもなぜハンターたちまでここに。ウェスターの威厳というものが」

「ハーマン、いいのだ。再会を身内で楽しめるようにという王の心配りなのだぞ」

ヒューにたしなめられてタヌキはしぶしぶ黙った。そもそも一緒にご飯を食べてくれとは言ってはいない。

私は兄さまの膝に乗せられそうになったが、ちゃんと子供用の椅子が用意されていて助かった。

テーブルを思わずバンバンしそうになるのを我慢していると、軽食と言っていたはずだが、ちゃんとスープから運ばれてきた。私のは子どもサイズの小さなカップに入っている。

「リア、私が」

兄さまがさっそく食べさせようとする。そうだ。兄さまはこうして私によく食べさせたがったものだ。

「失礼ながら、リア様はお一人で食べられます」

後ろから声がかかった。ドリーだ。使用人が口を出すのは差し出がましいことなのだろう。しかし、旅の間にすっかり私のことをわかってくれたドリーに私は感動した。

「にーに、りあ、じぶんでたべりゅ」

「リア。わかりました」

残念そうな顔をしないでほしい。今度二人だけの時ならいいかな。いや、子どもはちゃんと自立しなければならないのだ。甘やかしてはいけない。

それから、野菜をスープで優しい味に煮たものや、柔らかく煮込まれた肉などが次々と出てきたが、肉と一緒に芋のつぶしたのも出てきた。

「おいも!」

「リアはやっぱりお芋が好きなのですね」

「しゅき」

芋には柔らかく煮込まれた肉のソースがかかっていて、大変おいしゅうございました。

最後の果物までしっかり食べると、そのままもう少し小さい部屋に移動した。ここでハーマン以下、関係ないものは追い出され、部屋には王子と護衛、兄さまとギル、アリスターとバートたち4人、そして私が残り、隅にドリーが静かに控えている。

するとドアがノックされ、もう一人入ってきた。その人は私のほうを見ると、ほっとしたように優しく目を細めた。見たことがある。お屋敷にいて、時々見かけた人だ。セバスとよく話していた。セバス。

「ジュード、あなたも聞いてくれていたほうが話が早い。話に入ってくれ」

「おうちのひと。りあ、ちってる」

「お嬢様! よく覚えていてくださいました」

その人は思わず涙ぐんだようだった。でも私はそれどころではない。お屋敷の人が来ているのなら、セバスだって来ていていいはずだ。

「せばしゅ。せばしゅは?」

ジュードはほんの少し、どこかがいたいというような顔をした。

「にーに?」

「リア、セバスは来ていません。今は先に、リアの話を聞きたいのです」

「……あい」

何かある。でも確かにまず、ちゃんと私の話をしよう。ハンナのことも含めて。