軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄貴分が多すぎる

兄さまは私を抱きかかえてそっと揺らすと、ふと周りがかたずをのんでその再会を見守っていたことに気づいた。私が手を伸ばして袖で涙をぬぐってあげると、

「ありがとう、リア、さ、心配してくれたみんなに挨拶しようか」

と優しく言った。優しさはにじむものの、すでに四侯の跡継ぎとしての顔に戻っている。

私は兄さまを見上げ、首に手を回してぎゅっと抱きしめたあと、片手を離し、そのまま皆のほうを見た。よく似た明るい金色の髪と、淡紫の目が二人そろって群衆を見る。ほうっ、とため息のようなどよめきが起きた。

私と兄さまはもう一度顔を合わせて、二人で手を振った。広場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

「おとうしゃま、て、ふらにゃい」

「何も言わずにリアを抱き上げて、さっさとキングダムへ帰っていますよ、お父様なら」

「あい」

ふふっと二人で笑うと、兄さまは私をまたぎゅっと抱きしめた。

「リアはお父様のことちゃんと覚えていたのですね。ああ、お父様に早く知らせてあげたい。もう、私達のことなど忘れていたかと不安で不安で」

「にーに、だいしゅき。おとうしゃま、だいしゅき。わしゅれない」

「リア!」

その感動的なシーンにあきれたような声が割り込む。

「なあ、リア、俺のことは? ねえ、俺のことは?」

ギルだ。私は兄さまにぐりぐりと押し付けていた顔を離してギルを見た。黒髪と明るい瞳の色は同じだけれど、やっぱりアリスターとは似ていないかも。

「ちりゃにゃいひと」

「ええ、そんな!」

ギルがショックでのけぞる。しょうがない人だ。

「ぎる、おぼえてる」

「だろ! まったく、リアにからかわれるとは……」

「ぎる、みて」

「ん。何を?」

「にーに、おりりゅ」

兄さまは一瞬抵抗したが、降ろしてくれた。私は降りると、ずっと見守ってくれていたアリスターを見上げた。よかったなと顔が言っている。

「ありしゅた、ぎる」

「え」

今まで他人事のように見ていたアリスターだが、現実に向き合う時間だ。

「ぎる、ありしゅた」

「君がアリスターか」

ギルはふざけていた表情を引っ込めて、きちんとアリスターの前に立った。騒いでいた群衆はまた次第に静かになっていく。そうしてギルは口を開いた。

「初めまして、叔父上」

私は叔父上と言う言葉に驚くのと同時に、あきれた目でギルを見た。年上で、貴族。自分のほうがアリスターよりずっと立場が上なのに、先制攻撃を仕掛けるとは。アリスターも突然の叔父上宣言に目を見開いて固まっている。

「私はギルバート・リスバーン。君は私の弟ではなく、私の父の弟ということになる。気の毒だが祖父、つまり君の父親は亡くなって、そこから私の父がずっと君を捜していた。見つけるのが遅れてすまなかった」

ギルは、いっぺんには受け入れにくい状況をさらりと説明すると、アリスターに手を差し出した。いつものアリスターなら、おそらく握手するのを拒んでいたと思う。ギルの大人げない態度には幼児の私でさえあきれたし、口だけの謝罪はもっとうっとうしい。

ところが、アリスターは、微笑みこそしなかったけれど、差し出された手をきちんと握った。

「アリスターです」

自分はリスバーンではない、あなたとは何の関係もないと主張するように簡潔にそう言った。一見にこやかだったが、二人は握りあった手を放さず、にらみ合っている。怖い。

しかし、それを見ていた群衆はまた歓声を上げた。この冷気が見えないのだろうか。

その二人の握った手の上から、兄さまがそっと手を重ねた。

「無事の再会、おめでとうございます。さ、詳しくは城内にて」

そうして、ギルをきっとにらむ。ギルはしぶしぶと手を緩めた。兄さまは、次にアリスターのほうを見た。口の端が上がり笑みの形を作ってはいるが、目が笑っていない。

「君がアリスターですか。私はルーク・オールバンス。リアの兄です。私の、私の大切な、大切なリアを、ずっと預かってくれていて感謝します」

「いや。俺はただ」

「ただ?」

「リアが生き方を選ぶ手伝いをしてただけだ。感謝される筋合いはない。な、リア」

アリスターは優しい目で私を見た。そうだ、アリスターは最初から私がどちらの道を選ぶか自分で選ばせてくれたのだった。

「ただ、ずっと一緒にいただけだよな。いつもいつも一緒に」

「あ、あい」

やめて! 幼児を挟んで火花を散らすのは!

「やあ、感動の再会だなあ、リア、よかったよかった! はは」

突然そんな声が割り込んできて、その声の持ち主はアリスターの背をバンバンとたたき、すぐさましゃがみこむと私の頭をわしゃわしゃとかき回した。

こんなことができるのは決まっている。

「ミル、お前、王子をさしおいて前に出るなよ!」

「だっていつまでも時間がかかってるからさあ。もう会えたんだからいいだろう」

「まあ、いいけどよ」

いいのかバート! その後ろではキャロとクライドが肩を組んで笑っている。私は兄さまに一生懸命説明した。

「にーに、みんな、りあ、たしゅけた。いちゅも、たしゅけた」

「そうか、リア、この方たちが」

兄さまは子どもっぽい対抗心を瞬時に消し去ると、四人にゆっくりと頭を下げた。

「リアを、私の妹を、助けてくれてありがとうございます。助けてくれて、本当に」

頭を下げたままそう言った兄さまの声は震えていたと思う。私は兄さまの足にぎゅっとしがみついた。

「いいって。俺たちも楽しかったからさあ」

「ミル!」

気軽に話しかけるなというバートの制止の声にもかかわらず、ミルは続けた。

「リアさ、いっつも平気な顔で、泣きもせず頑張ってたけど、熱を出した時、寝てる時、いっつもにーに、とうしゃま、ハンナって呼んでてなあ」

寝言を言っていたとは。恥ずかしい。私は兄さまの足にさらにしがみつき、兄さまを見上げると、ぎゅっとつぶった目から涙がぽたぽたと落ちている。

「あなたたちは……せっかく私が我慢していたというのに」

兄さまは乱暴に目元をぬぐうと、下げていた頭をゆっくりと元に戻した。目は赤かったけれど、もう涙はない。

「さ、私の存在はすっかり忘れられているようだが」

「殿下」

ギルと兄さまはヒューを見ると一目で王子とわかったようで、居住まいを正して軽く頭を下げた。

「まだ昼前だ。このとぼけた者、いや、失礼、リーリアもそれほど疲れてはいまい。リーリアを世話していたこの者たちも共に、まずは軽い昼食でもいかがか」

ご飯だ!

「おちろのごはん」

「ああ、リーリア、城の料理人のご飯はうまいぞ」

「あい!」

感動のはずが若干火花の散った再会は、こうして無事に済んだのだった。