軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅の始まり(リーリア視点に戻る)

お昼も無事に終わり、最初の町に着いた。トレントフォースのような結界はないので、町の人は夜は出歩かない。宿屋に泊まる者も、宿屋からは出ない。したがって、夜はずっと同じところにいる。

私とアリスターは、その町の一番いい宿屋にいた。そして私はアリスターに抱きかかえられている。

「いやだ」

「リスバーン、小さいとはいえ、とぼけているとはいえ、それは一応女なんだ」

小さいも女も合っているが、一応言っておこう。

「りーりあでしゅ」

とぼけてはいないし、それでもない。しかし王子は無視した。

「ドリーと同室にして、面倒を見させる。貴族の男女が同じ部屋など、ありえない」

「いやだ。ずっと俺がリアの面倒を見て来たんだ。それに俺はリスバーンじゃない。ただのアリスターだ」

王子は始末に負えないという顔をしてバートを見るが、彼らも目を合わせないようにしている。私も一人でできるもんと言いたいところだが、着替えのボタンとめとか、髪を洗うとかまだ自分ではちゃんとできないところはいっぱいある。

「きがえ、ちたら、ありしゅたのとこ、いく」

ここら辺が落としどころだろう。

「リーリア」

王子がお前もかという目で見るが、そもそも私が幼児で、私がわがままを言う立場なのだから、当然のことを言ったまでだ。しかもお風呂と着替えはちゃんと別でいいと言っているのに。

行くとは言ったが、王子のやり方に合わせるとは一言も言ったつもりはないし、慣れないところに連れていかれる子どもの気持ちをまず考えるべきだろう。

しかしこのことを言おうとするとさすがに声が出ない。正直なところどうでもいい膠着状態が続く中、声を出してくれたのはキャロだ。

「王子さん、間違えるなよ。リーリアもアリスターも、あんたたちが来いと言うから仕方なく来てるんだ。最初から全部自分たちに合わせようとするなよ」

クライドも頷いている。一瞬何も言えないでいる王子は、恐らく下々の者が平気で文句を言うことそのものに驚いているのだろう。

その間にミルがのんびりとやってきて、アリスターから私を受け取った。そして誰に聞かせるともなく話し始めた。

「リアはさー、貴族だろ? でも、俺たちと一緒になって、最初はいきなり一か月のキャンプ生活だったんだ」

「おいたわしい」

口元に手を当てて声を震わせているのはドリーである。

「でもさー、着替えについても、食べ物についても、移動についても、何にも文句を言ったことはなかったんだぜ」

文句を言ったって仕方がない。精一杯のことをしてくれたのだから。

「それなのに、あんたたちが来てからのほうが文句が多い。なんでだろうなー」

そう言って覗き込むミルのほっぺを両手でぎゅっと挟む。変な顔になった。

「あにをひゅるー」

ミルの不平に、私は手を放してきゃっきゃっと笑った。

「あんたたちのしていることが、余計なことだからじゃねえのか」

ミルの言う通り、きれいな服も、快適な暮らしも、貴族だから、女だからというすべてのくくりも窮屈でしょうがない。自分のうちにいた時はそんなこと感じたこともなかったのにな。

そんな膠着状態を打開するためだろうか。

「男女別とか一人一部屋とかじゃなくてさ、王子さん」

バートがまじめな顔をして言った。

「安全を考えて部屋割りしねえか。気が付いてたとは思うが、移動中ずっと遠くからついてきていた人の気配があったぞ」

王子側がざわっとした。どうやら気が付いていなかったらしい。それならもっと早く言えばいいのに。私がちょっと非難を込めて見ると、バートはすまないという顔をした。しかし、こう続けた。

「ハンターじゃねえから遠くの気配がわからなかったかもしれないが、そういうこと。俺たちは虚族になら対応できる。けど、人にはあんたたちのほうが適役だろ」

結局アリスターが粘ったからではなく、一緒に守りやすいからという理由で私とアリスターは一緒の部屋になったのだった。

ちゃんとドリーにお風呂に入れてもらって寝巻に着替えた私は、アリスターと一緒のベッドに座って魔道具箱をいじっている。部屋の中に一人、廊下に一人、護衛の人がいる。

二人で寝る前に魔力の訓練をしていると、護衛の人が興味津々で話しかけてきた。

「何やってるんですか?」

アリスターはプイっと横を向いた。どうやら、朝の着替えからずっと、いろいろなことを息苦しく思っているらしい。仕方がないので、私は魔道具箱を見せて、魔石なしで光らせて見せた。

「うおっ、まぶしい!」

私は思わずキャッキャッと笑った。みんなまぶしがるのだ。

「魔力を直接流してるんですか。さすがだな」

そう言う護衛の人も、辺境には珍しく薄くだが魔力をまとっている。

「やってみりゅ?」

「俺がですか? 俺、魔力もちじゃないから」

護衛は顔の前で左右に手を振った。

私は不思議に思う。魔力ならあるのに。そもそも、みんなどうやって魔力もちかどうか判断しているのだろう。

「ありしゅた」

アリスターは渋々と私のほうを見た。

「まりょく、どうわかりゅ?」

「そうだな」

アリスターは護衛のほうをちらりと見た。護衛の人はアリスターに配慮して話に参加しないようにしているが、耳だけこちらに向けている気配がする。

「キングダムではそもそも基本が魔力もちだろ。やっぱり子供のころ、魔石に魔力を流してみたいって誰でも思うんだよ。それで、いたずらして魔力が入れられたら多めの魔力もち。将来その道で食えるかもしれないってこと。親や親戚が魔力もちの仕事をしている家では、積極的にそうやって調べることもある」

「うぇしゅたーでは」

ウェスターはなかなか言いにくい。護衛がぷっと噴き出した。聞こえてるんだからね。

「それは聞いたことなかった。リアは」

「にゃに?」

「そいつに、聞いてみたらいいだろ」

アリスターはまたプイっと顔を背けた。まったく子どもなんだから。

「おにいしゃん」

「ぐはっ」

ぐはってなんだ。一瞬悶絶した護衛の人は、話を聞いていたようで、

「そもそも俺たちは魔力を持っていないことが前提だから、あえて調べようとは思わないんです。それでも、キングダムとの国境を出入りすることもあるわけで、その時に何か感じたら魔力もち、ってことになるかなあ」

国境から遠い人もいるだろうに。

「親が魔力もちならやっぱり魔力もちが多いし。そんな子はアリスター様が言ったように、魔石で魔力が入れられるかどうか試すんです」

「おにいしゃんは」

「うっ、俺はそもそも調べなかったし、大きくなって結界を越えてみた時もあまり何も感じなかったので」

魔力が少ないと結界を感じないんだろうか。私は首を傾げて護衛の人をじっと見た。

「うう、リーリア様、そんなにこっちを見ないでください。さあ、リーリア様も、アリスター様も、今日はもうお休みください」

「アリスター様じゃない。アリスターだ」

そう言って薄い布団を頭からかぶるアリスターに、私は首を振った。ほんとに仕方ないんだから。私も護衛の人にもう一つのベッドに乗せてもらって、布団をかけてもらう。

「おやしゅみにゃしゃい」

「おやすみなさい。いい夢を」

暗くした部屋の中で、やがて窓の外に現れた人の気配に護衛が目を光らせていたことも、その後夜の街路で追跡劇があったことも、私たちは知らないままだった。