軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一歳児だもの

「キングダムにまで連絡を……」

「真に係累のモノだった場合、知らずに協力させていたでは済まされない。しかし、それだけではない」

アリスターの呆然としたつぶやきに、王子は冷静に答えた。

「キングダムのみ結界を張っているということについては、辺境の国々にはかねてより不満があった。その結界の内側にいながら、辺境から産出される魔石に頼り切った生活についてもな」

それはそうだろう。

「だが、その辺境から魔石が十分に供給されなかったらどうなる。辺境三国の中でもウェスターは魔石の産出が最も多い。そのことを軽く匂わせ、魔石の充填に人を派遣してほしいと遠回しに要請したのだが」

王子は続けた。

「もちろん、キングダムの王家に正式に要請してある。ただし、ついでにこちらの手元にオールバンスとリスバーンがいるかもしれないということをほのめかしたに過ぎない」

誰も何も言うことができないでいた。町長はこの事態を止められない。バートたちは、私がお父様のもとに帰りたいことを、そしてアリスターがキングダムに行きたくないことを知っていて、どうするべきかわからない。

「いきましゅ」

「リア!」

私の宣言に、アリスターが悲痛な声を上げた。

「きんぐだむから、まりょくのひと、くりゅ。りあ、いりぇば、ありしゅた、いらにゃい」

私ははっきりと言った。リスバーンの子どもは来なかったが、オールバンスの子どもがいたとなれば、言い訳もたつだろう。私たちは魔力もちとして使われるというよりは、キングダムから魔力もちを呼び寄せる餌なのだ。

「ふむ。正直なところ、役に立たない幼児よりは夏青のお前のほうがいいのだが」

アリスターにそう言うと、王子は顎に手を当てて私を見た。私はしっかりと見返した。

「オールバンスがひそかに、しかし必死で娘を探しているという情報は領都にも届いている。お前だけでもまあいいか」

そうしてフッと笑った。笑ったからと言って特にかっこよさが増したわけではない。しかし、冷たい印象は少し消えた。

「菓子の屑が顔についているぞ」

やっぱり、嫌な奴だと思う。

「だが、夏青の者よ」

王子は顔を引き締めるとアリスターを見た。

「この結界箱の計画は我ら兄弟が大きな魔力もちだとわかった幼い頃から、少しずつ練り上げられたもの。11歳の今なら、保護者の名のもとに要請を断ることはできる。しかし、18歳になり成人したら嫌でも領都に来ることになるんだ。それは自覚しろ」

アリスターは歯を食いしばって下を向いた。

「それが結局はトレントフォースのためになる」

その言葉にハッと顔を上げた。

「王子さんよ、それは卑怯だろう」

黙っていたバートがこれには口を開いた。

「成人するまで毎年領都から使者は来る。ただでさえ結界内で暮らせていてうらやまれているこの町の評判はどうなる」

「だから、卑怯だぞ!」

「事実を言っているに過ぎない。辺境は魔力もちを放置しておくほど豊かなわけではない」

これにはみんなぐっと詰まった。これではきりがない。

「じかん、ひちゅよう」

「リア、そうだな」

バートは私の言葉にハッとすると、アリスターの代わりに答えた。

「要請は確かに聞いた。だが今は俺たち4人が保護者代わりだ。アリスターは迷っているし、リアは本人の言うことが正しいとは限らねえ」

私は驚いてバートを見上げたが、バートは軽く頷くだけだった。自分でちゃんと決められるのに。

「きちんと悩んで決めさせたい。まさか明日にも連れていきたいというわけではないだろう」

「ふむ。本当は明日にも連れていきたいのだが」

「ありえねえ。待てないのなら俺たちが連れて行くから先に帰れ」

仮にも王子に向かって帰れとか、ちょっとそれはあんまりな言い方ではないだろうか。私はハラハラしながらバートと王子をかわるがわる見た。

「ふう」

王子は王子らしからぬため息をついた。

「そもそも、我らとは違ってあくどいことをたくらむ奴らがいると聞いて、その後の行方を追ってこのように遅くなってしまったのに、その言い草か」

「なんだと」

私をさらおうとした犯人のことか。王子はあきれたような顔をまじめな顔に戻した。

「話を聞きたいか」

「もちろんだ」

「では、なるべく早く返事を聞きたい」

「仕方ない。努力はする」

薄暗い取引がされたようだ。

「キングダムでは、どうやらどうしてもその子供をキングダムに戻したくない勢力がいるようだな」

「それは調べがついたのか」

王子は首を振った。

「推測に過ぎない。レミントンをわざわざ名乗っていたことから、逆に四侯ではないだろうということは推測できる。それに、キングダムの今の王子が二歳であり、これも強い魔力もちであることを考えるとな」

王子はそこで言葉をいったん止めた。キングダムに王子がいたとか知らなかった。一歳児には知らないことがたくさんあるのだ。

「そのとぼけた幼児が」

ついにとぼけた幼児まで格下げされたようだ。

「ちょうどいい年頃であるのを懸念する奴らと言うことだろうな」

ほう。二歳児と一歳児? ないわー。思わず遠くを見た。

その話を黙って聞いていたバートが立ちあがった。他の皆も立ち上がり、アリスターが私を椅子から降ろした。まだお菓子が残っていたのに。ちょっと残念な私だった。

「菓子を包んでやれ」

「あ、はい!」

王子の言葉に、使用人があわててテーブルに残ったお菓子を手に持てるように包んでくれた。実はちょっといい人かもしれない。

「ありがと」

「どういたしまして」

お礼を言った私に使用人は微笑むと、そっと頭をなでてくれた。

「私にはお礼はなしか?」

片手をアリスターとつなぎ、反対側でおやつを抱えて帰ろうとしていた私は、王子の言葉にくるりと振り向いた。

「ありがと」

にっこり笑うと、王子は驚いた顔をして固まった。何を驚くことがある。笑って損はない。スマイルはゼロ円ですから。