軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大事なことだから

立ち上がっていた王子の前に、改めて椅子が用意された。王子は当然のように一人椅子に座ると、

「さて、それでは私から事情を話そう」

と語り始めた。私たちには椅子もないのだろうか。

「いしゅ、くだしゃい」

部屋に沈黙が落ちた。ミルがのんびりとこう言ったが、私は断った。

「リア、抱っこするか?」

「にゃい。みんにゃ、しゅわる、いしゅ、ほちい」

さらに部屋には沈黙が落ちた。町長は眉間に手をやると、深いため息をついて提案した。

「ヒューバート殿下。申し訳ないが、場所を会議室に変えてもらっていいですか」

「……かまわない」

多少は苛立ったのだろう。少し間が開いたが、王子様は鷹揚にそう答えた。急いで指示が出され、バタバタと別の部屋が用意された。

そこは小さめの会議室で、6人掛けほどのテーブルが二つおいてあり、正面にゆったり座れるテーブルといすが置いてある。これが話をする側の席なのだろう。

その中に急いで探されてきた、エイミーが小さいころ座っていただろう椅子が運ばれてきた。王子と二人の付き人は片眉を上げてそれを見ていたが、大事な話を聞くのに誰かの膝の上では集中できないではないか。ありがたい配慮である。

アリスターの隣に椅子を置いてもらい、二人でちんまり座ると、

「椅子も用意したことだし、話しても大丈夫か」

と王子が尋ねたのは多分皮肉だろう。私たちは神妙に頷いた。

「さて、お前たちは町を覆う規模の結界箱を知っているか」

「聞いたことはある。しかしそれはおとぎ話のようなものだろう」

バートがそう答えた。私は思った。王子様は王子様らしく、ちょっぴり偉そうだが、町長もバートも、言葉遣いが少し丁寧なだけで、偉い人と話している感じがしない。

それによく見るとバートと王子様は、ほとんど同じ年のように見える。言ってみれば、王子が文官ならバートが武官という程度の違いだ。面白い。あと子ども用の椅子は、足がぶらぶらする。ぶらぶら。

「リア」

「あい」

アリスターのたしなめるような小さい声に私はびくっとした。いけないいけない。すぐ幼児の体と心に引きずられてしまう。

「おとぎ話ではない。現に領都には存在するし、各地の視察で、結界箱を持っている町が多いのも確認している。トレントフォースは結界のある特殊な町だから、むしろ緊急用の小さい結界箱しかないのも国は把握している」

町長はその言葉に頷いている。ひそかに持っているものではないらしい。

「しかし町用の結界箱の作りは特殊でしかも魔石が大きい。そもそもその魔石に魔力を充填するのに、町中の魔力もちを総動員して足りるかと言うくらいだ。だから存在していても伝説と言われているのだ」

そんな事情だったとは。私はほう、と言う顔をした。それにしても少しお腹がすいた。そろそろおやつの時間ではないだろうか。ついきょろきょろしていたのかもしれない。

「リア」

「あい」

アリスターのたしなめる声に、町長は使用人を呼ぶと、何やら指示を出した。使用人は頷くと部屋を出ていく。ちょっと王子の目が冷たいかもしれない。私は微妙に目が合わないようにした。

「しかし、わが兄アルバートは、ことのほか魔力量が多く生まれてきた。私も兄ほどではないが、今までのウェスターの血筋にしては格段に多い魔力量を有している」

少し誇らしげだ。

「それに加え、領都の魔力もちを集めたところ、6割、いや、実質8割の魔力は確保できるだろうという算段になった」

「つまり、伝説ではなく」

「ほぼ実現可能、ということになる」

部屋がなんとなくざわざわしている。伝説と言われていた結界箱が起動するということが、やはりロマンと言うことなのだろう。その時、とんとんとドアを叩く音がした。

「入れ」

町長の声に入ってきたのはワゴンを押した使用人で、そのワゴンの上にはお茶の他にたぶんだが肉を挟んだパンや、小さいお菓子が山積みされていた。

私は足をぶらぶらさせてテーブルをぱんぱんと叩いた。

「リア」

「あい」

さっきつい泣き出してから、どうも幼児がえりをしてしまっているようだ。私は気を引き締め、ついでにテーブルの上の手もきちんとそろえ、顔も引き締めた。冷ましたお茶と軽食の皿をもらった時は、ちゃんと、

「ありがと」

と言った。

「ブッフォ」

「きゃろ……」

「すまねえ。つい」

毎日ちゃんとありがとうは言っているではないか。私は取ってもらったパンをつかんでもぐもぐと食べ始めた。なぜか私に視線が集中している。

「まあいい。幼児に何を言ってもな」

王子の一言に場が緩み、王子がお茶に手をつけるとみんなが一斉に食べたり飲んだりし始めた。私はもぐもぐしながら考えた。はて、確か前世では、高貴な場では女性から先に食事に手をつけるのではなかったか。それは物語の世界だっただろうか。ここでは私が唯一の女性だから先に食べてもいいのではないか?まあいいだろう。もぐもぐ。

「幼児を待っていてはきりがないので、続きを話すぞ」

お茶を飲んでいた王子が話し始めた。もぐもぐ。

「ちっ。調子が狂うな」

王子は私を見て少し顔をしかめると前髪をかきあげた。まあ、ちょっとハンサムだからそんな仕草もかっこよくないこともない。しかし舌打ちは高貴ではないな。もぐもぐ。

「そこで残りの二割だ。アリスター・リスバーン」

「俺はただのアリスターだ」

「しかし現に夏青の瞳の、魔力もちだ」

アリスターは強い目で王子をにらんだ。しかし王子は平然と続けた。

「キングダムに戻るという選択肢もあるだろう。しかし、ウェスターに住んでいる以上、ウェスターの住民のためにその力を尽くせ」

アリスターはぐっと詰まった。ここトレントフォースを離れなければならないのは嫌だ。しかし、住んでいるからと言われれば、それは。

「それから、その様子では全く役に立つとも思えないが、淡紫がいるならそれも連れて来いということだ。役に立つとは思えないがな」

大事なことですか。役に立たないと二回も言ったな。まああんまり役には立たないけれども。次はお菓子をもらおう。もぐもぐ。

「リアはまだ一歳だぞ!」

アリスターは立ち上がって言った。

「アリスターとやら、お前とその者をすぐに使うとは言ってはいない。それに、その者にも利はある」

利、だと。私はお菓子を食べる手を止めた。

「淡紫の幼児と、夏青の子どもがウェスターにいると。領都に呼び寄せるので、どうか四侯を派遣してほしいと、既に使者を出してある」

お菓子が手からぽろっと落ちた。既にお父様には私のことが知られているかもしれない。領都に行けば、お父様が迎えを寄こしてくれるかもしれない。お父様のもとに帰れるかもしれないのだ。