軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先手必勝ではなかった日

次の日、私は若干疲れを残しながらもさわやかに目が覚めた。初めての実用的な結界の発動だったから、もっと疲れるかと思っていたが、魔力切れにもならなかったし、意外と元気だ。

下手をすると結界を数時間はもたせないとと思っていたので、魔力をけちけちして使ったのだが、あんなに助けが早く来るとわかっていたら、もっと結界を大きく展開して、虚族なんか遠くに飛ばしてしまったらよかった。近くで虚族を見たのが一番消耗したように思うのだ。だって怖いんだもの。

そんなことを考えてベッドの上でぼーっとしていたら、アリスターが部屋に迎えに来た。

「朝ご飯だよ」

「あーい」

着替えを手伝ってもらい、一緒に一階に降りる。おはようの挨拶が飛んでくるが、いつもよりのんびりした雰囲気だ。私はミルにパンを薄く切ってもらい、もぐもぐしながら周りを見渡した。なんとなく視線が合わないような気がする。

「おちゃもくだしゃい」

ごちそうさまをして試しにお茶をいれてもらった。朝は忙しいから、お茶はお休みの日しかいれてくれない。

「はいよー」

ミルはすぐにお茶をいれてくれた。お茶をいれてから水を足す。これで薄くするのと、冷ますのと両方できる。でも、今日はお休みではないはずだ。

私はピンときた。昨日さらわれたのを怒られるのでは? お茶碗を両手で持ちながらさりげなくみんなのようすをうかがってみるが、ちょっとわからない。

こんな時はどうするか。

「ごめんなしゃい」

謝るに限る。

「おい、どうしたリア、別に昨日のことは怒ってないぞ?」

バートが慌ててそう言うが、でも何か雰囲気が変なのだ。

「んー、なにか謝るようなことでもしたのかあ?」

ミルが優しくそう聞いてくれる。

「ええと、うんと」

私はちょっとしどろもどろになりながら白状することにした。昨日のことでないなら、このところやっていた魔力の訓練だろう。

「まどうぐに、まりょく、しょしょいだの」

「ぶはっ」

「おい、汚ねえな、バート」

バートは立ってお茶を飲んでいたのだがそれを噴き出していた。

「おおお、お前、もしかしてブレンデルがくれた壊れた魔道具……」

「あい。こわれたなら、ちょくしぇちゅ、まりょく、ちゅたえる」

「直接伝えるって、魔石じゃなく、体の魔力をか?」

「あい」

「あーあ」

キャロが片手で両目を覆っている。バートがバタバタして自分の部屋から魔道具を持ち出してきた。

「これ、部屋の奴だけど、ちょっとやってみろ」

「あい」

ぴかっ。

「うおっ!」

「まぶしい!」

初めて魔道具を使って、「まぶちい」とびっくりした私と同じで、思わずキャッキャッと笑ってしまった。

「リア」

「あい。ごめんなしゃい」

でも愉快だ。バートは今度は旅用の明かりをだした。魔石を抜くと、明かりの道具を見て、ちょっと考えごとをしている。

「なあリア」

「あーい」

「これ、石板を通さずに直接魔力を通せるか? その、石板を通した時のように?」

「できりゅ」

私はバートから受け取ると、加工された青い石板を通さずに、直接苔に力を注ぐ。結界で練習したので、この手の魔力の変質ならお手の物だ。ごく少ない魔力で明るく光らせることができた。

「普段より明るいくらいだな。リア、魔力切れで苦しくなったりしていないか?」

「ちてにゃい」

それをじっと見ていたアリスターが、部屋の明かりのコケのかごを持つ。

「お、おい、アリスター。うわっ、まぶしい!」

キャロがアリスターを止めようとして、明かりの直撃を受けている。私は思わずキャッキャッと笑った。

「リア」

「ごめんなしゃい」

アリスターはにこりともせず立ち上がると二階に行って、結界箱を持って降りてきた。

テーブルの上に結界箱を置くと、ふたを開けて大きい魔石を外した。みんなは思わずごくりと唾を呑み込んだ。

「おい、まさか、それを直接……」

アリスターは青い石板に直接魔力を注ぎ始めた。少しずつ、少しずつ。注意しながら。すぐにキーンと、結界箱を中心に結界が張られたのがわかる。アリスターはそれを確認すると、ようやっと結界箱から手を外した。そして言った。

「リア」

「あい」

私は小さくなった。

「黙ってこれ、使ってみてただろ」

「……あい」

部屋にはあきれたような沈黙が広がった。

「なんでだ」

アリスターはここで引いてはくれなかった。

「たのちかったの」

「楽しいって、お前」

「ありしゅた、ちゅみき、たのちい。りあ、まりょく、かわるのたのちい。おにゃじ」

「同じじゃないだろ!」

アリスターは立ち上がって大きい声を出した。

「魔力入れすぎたら倒れるだろ。つまり、危険ってことだ。積み木は危険じゃない!」

もっともである。さあ困った。すると、ミルが頭の後ろで手を組んで、椅子に寄り掛かりながらこう言った。

「つまりさあ、リアさあ、楽しくって魔力変える遊びをしてたら、結界を自分で張れるようになってったってことか」

「……あい」

その通りです。

「昨日、助かったのは結界を張っていたからか」

「……あい」

その通りです。その答えにバートは頭をガシガシと掻いた。

「やっちゃったもんはしょうがないし、結果的に命が助かったからいいが、お前、これがばれたら家に帰るどころじゃねえ、ウェスターのあちこちの町から取り合いだぞ。わかってんのか」

あきれたように言われても仕方がないのである。私はだんだん飽きてきて足をぶらぶらさせた。

「くっ。こんな時だけ幼児みたいだから手に負えねえ」

バートはなぜか片手で顔を覆うと、すぐにまじめな顔をした。

「今日はリアと町長の娘を助けたということでお休みをもらったんだ。あとで結界について町長に報告に行かなくちゃなんねえが、まあ、さらわれて疲れたろうから、のんびりしようぜ」

「あーい」

アリスターが立ち上がった。

「なら、作業部屋で遊ぼうぜ!」

「あーい」

一階のカウンターの奥の作業部屋は、みんなでお休みの日に少しずつ片付けた。

私はアリスターに椅子から抱え降ろされ、手をつないだ。このまま、作業部屋だ。

「待て」

クライドの声に、アリスターがぎくりとした。

「アリスター、なんで結界箱を持ってる」

続けたキャロに、

「リアができるなら俺だってできる。リアが見ててくれたら魔力切れで倒れることもない。リアが遊びだって言ったんだから、遊びなんだ」

アリスターは開き直った。危険だって言ってたくせに。

「いいんじゃねえ」

ミルから援護が来た。

「リアがいれば大丈夫だろ」

それもおかしい気がするのだが。あきらめたようなバートの目に見送られて、私とアリスターは作業部屋に移動したのだった。