軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何ができるか

「リアはどう感じましたか?」

夕食後は、兄さまが部屋に来てくれている。

ベッドの上に二人で座り、久しぶりに魔力循環の訓練をしてみたりしている。

「カルロスは、なにかからにげているかんじがする」

少し親しくなったせいか、私たちにもちゃんと向き合おうとする姿勢は感じる。

だが、以前は怠け者と言えばすむ感じがしたが、今回は投げやりというか、何事にもどうでもいいという空気が漂っている気がするのだ。

「前は学びから逃げていましたが、今度は何からでしょうね」

兄さまも相変わらず厳しい。

「よつぎのたちばから、かな」

「ふうむ。なぜ?」

兄さまのなぜ、は私に、というより自分に問いかけるようだった。

「だいにおうじがおされたから?」

私はカルロス王子の性格を考えてみる。

「そもそもどうでもいいとおもっていたのに、とくにりゆうもなく、だいにおうじがおされはじめた。だったら、じぶんでなくてもいいんじゃないのか? とおもっているかも」

「本当に、理由がなく第二王子が推されているんでしょうか。私はそこが気になります」

そこが気になるということは、私の考えには基本的に同意ということだ。

「誰が第二王子を推しているのか。マークはその答えを持ってきているでしょうか」

兄さまは私と目を合わせた。

ここ数日、少しはカルロスと仲良くなろうと、兄さまも私も努力したと思う。

だが、カルロスは、意図してかせずしてかはわからないが、その努力をするりするりとかいくぐってくる。

「面倒になってきましたね」

「リアたち、よくがまんしたとおもう」

兄妹の気持ちは一致した。

「ではとつげき!」

「そうしますか」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」

ベッドから降りようとした兄さまと私を止めた者がいる。

「ハロルドか。どきなさい」

ハンスが止めるかと思ったが、ハロルドだった。

「突撃って、どこに行くか聞くまでは通しませんよ。まさかこのまま、カルロス王子のところに行く気ではありませんよね」

「他にどこにいくと? 虚族でも見に行きますか?」

「行きませんよ!」

焦っている焦っている。

ハロルドが兄さまともめている間に、私はベッドを降りた。

「ああ! リア様! ウロチョロしないでください!」

ウロチョロはしていない。まっすぐカルロス王子のところへ行くだけだ。

ハロルドが私に注意を向けているすきに、兄さまがベッドから滑り降りた。

「行き先は聞こえたでしょう。ではかまいませんね」

「かまいますって! ああ、ルーク様! ハンス隊長! お二人を止めないと! 相手はファーランドの第一王子ですよ! いくらこの二人がやりたい放題だからと言って、限度があるでしょう!」

ハロルドもやっと展開の速さに付いてこられるようになったようだ。

「うわあ、リア様! お前も成長したなみたいな顔で見るのはやめてくださいよ!」

察する力もなかなかである。

「あっ! ルーク様! リア様!」

連係プレーで護衛をかいくぐり部屋から出ると、廊下ではもうハロルドも騒ぐわけにはいかない。そのままカルロス王子の部屋に向かった。

部屋の入口の護衛は、廊下を急ぎ足でやってきた笑顔の私たちの子どもパワーにあっさり敗北し、王子の確認を取ったもののすぐに部屋に招き入れてくれた。

「どうしたんだい? 寝る前に魔道具の勉強はさすがに面倒なんだけど」

困惑顔のカルロス王子は、それでも椅子を勧めてくれる。

突撃はしたものの、仲良くなるために何から聞くべきか。

いや、別に仲良くならなくても、聞きたいことから聞こう。

「カルロス、ファーランドのちりと、おさめているりょうしゅをおしえて」

ニコと一緒にファーランドの地理は習っているものの、今まではあまりにも興味がなさすぎた。

カルロスの前に、まずはファーランドから知ろう。

「ルークがはわかっているだろうに。でも、いいよ。まずファーランドは、大きく分けると四つの地方に分かれているんだ」

自分の国のことならすぐに出てくるのはさすがだ。

「まず西部は、ファーランドのかなりの部分を占めるが、ウェスター、キングダム、ファーランドにまたがるウェリントン山脈が大部分のため、居住地域は少ない。ここを収めているのがスティングラーだ」

「ロイドとジェフ!」

私は椅子の上でびよんびよんと跳ねた。

「ああ、シエナのお見合いの時に知り合ったんだっけ」

「そう!」

知り合いとつながった話が聞けて嬉しい。

「では、次にそのシエナのいる、ネヴィルと接するハルフォード。ここは穀物が育つよ」

私はふんふんと頷いた。

「そして、北の領地がグレイソン」

「ジャスパーとローク!」

「そうだね、ジャスパーのいるところだね。山脈まではいかないものの、山地があり、そこに鉱山があり、漁業も盛んだよ」

そう説明しながら、カルロス王子は体のどこかが少し痛むいというような顔をした。

「そして領都カスターを挟んで、イースターとの国境の位置するのがエルドレッド」

「リコシェ・エルドレッド……」

今回付いてこなかったリコシェの出身地ということになる。

「そう、リコシェのところだよ。ここは鉱山もあるけれど、やはりイースターにつながる平地での農業が盛んだね」

簡単な産業まで紹介してくれてありがたい。

「キングダムのように侯爵家はなくて、基本的には四つの大きな伯爵家が領地を管理しているよ」

私向けの簡単な説明なので、兄さまはもっと詳しいところまで知っていると思う。

だが、知識を自分の知っている人と関連付けるつなげると、ファーランドがぐっと身近なものに感じるから、不思議なものだ。

「それで、カルロス」

兄さまがにこやかに爆弾を放り込んできた。

「この四つの地方の、どこが第一王子派でどこが第二王子派なんですか?」

「ルーク、君はどこまで……」

そう切り込んでいくとは思わなかった私は驚いたし、カルロス王子も驚いていて、思わず二人で顔を見合せてしまったほどだ。

「リア、君まで驚いてどうするの。ルークと共謀していたんじゃなかったのかい?」

私はふるふると首を横に振った。

現状のままでは駄目だろうと思って突撃したが、何を聞こうかあまり深くは考えてはいなかったのだ。

「ハハ、四侯にはお見通し、ってわけか。あーあ」

カルロス王子は投げやりな感じで椅子の背に体を預けた。

「こんな私でも、いちおう第一王子派っているんだよね。それがハルフォード」

シエナのところだ。

「そして、第二王子派が、エルドレッド」

「リコシェのところ……」

あんなに仲がよさそうだったのに、今回リコシェが来なかったのはそういう理由なのだろうか。

「あそこの土地は、ファーランドの穀倉地帯だからね。力が強いのさ。そしてハルフォードはキングダムと接しているから、物流が豊か」

「残りの二つは?」

「今のところ、中立ってところ。まあ、好きにすればいいと思うよ」

どうでもいいという感じは、やはり変わらない。

「こうけいあらそいはないって、いってたでしょ? みんなやりたがらないからって」

私は前聞いた話を、再確認せざるをえなかった。

あれは嘘だったのだろうか。

「よく覚えていたね。あの頃、私たち兄弟の間にはそんなものはなかったよ。もっと治世に真剣に向き合えとは、弟には言われていたけれど。あ、弟って上の方で、レオナルドね。下の弟はハイラム」

「いもうとが、テッサ」

「そう。あの子が一番王に向いてるって言われてるよ」

確かに、テッサという少女は、押し出しの強い、王族らしい振る舞いだと思った記憶がある。

「確か王妃殿下はエルドレッドから嫁がれたと記憶していますが」

さすが兄さまである。

「そうだよ。兄弟はみな、母上の子だ。つまり誰が世継ぎとなってもエルドレッドが影響力を持つことには違いはないんだよ。そういう意味ではキングダムの王家は賢いよね。王妃は力のない家から選ばれることが多い」

だんだんとカルロスを形作る背景が見えてくる。

「だから誰が王になってもいいのさ。ハイラムでもレオナルドでも、なんならテッサでもいい。私がキングダムまで来て、成果を上げる必要はどこにもないんだ」

「どうしてカルロスじゃだめなの?」

それを聞いちゃいけませんぜと、ハンスの表情が物語っている。ちなみにハロルドは、部屋に入ったカルロス王子の護衛の代わりに、外で見張り番をしている。

「どうしてだろうね」

「前回の旅では問題はなく、今回は問題があるということは」

兄さまがテーブルを人差し指でとんとんと叩いた。

その間に起こったことを頭の中で整理しているのだろう。

「一つ。わがまま放題で諸方面に迷惑をかけ、公務をさぼって旅をしてきたあげく、ファーランド国内に他国の王族や貴族を勝手に招いたうえ、自由に動き回らせた件が問題視された」

「ルーク、君、言いたい放題だね?」

カルロス王子が苦笑している。

「二つ。カルロス王子は扱いにくい。国外に出て国内での影響力が弱っているうちに、より言うことを聞かせられそうな王子が担ぎ上げられた」

「つまり、レオナルドおうじは、すなおでまじめなの?」

思わず口を挟んでしまった私を許してほしい。

「それじゃあ、まるで私が、ひねくれていて不真面目みたいじゃないか」

私と兄さまの視線はそろってカルロス王子に向いた。

カルロス王子はがっくりと肩を落とした。

「そうだね。ちょっとひねくれていて不真面目だね」

「人の言う通りにするのは苦手でしょう。言われれば言われるほど、やりたくなくなる」

「よくわかったね」

それは私でも、見ていればわかる。

「なるほど。二つ目の理由のために、一つ目が口実にされた、ということですね」

ウェスターの旅の初めからここまで、一年もたっていないくらいなのに、状況の変化がとても大きいと感じる。あのとき、こういう問題が存在したとしたら、ラグ竜の暴走もカルロス王子を狙ったものという線も考えなければいけなかったはずだ。

「ですが、一つ目の理由では、世継ぎを交代させるには弱すぎます。それに、カルロスは今回もそうですが、キングダムとウェスターにも既に顔がつながっており、親しいとさえ言える。そうか」

兄さまの中で何かがつながったようだ。

兄さまは、まっすぐにカルロスの目を見た。

「カルロス。国とは、結局は民のことです」

「いきなりなんだい?」

唐突な話題の変化に、カルロス王子だけでなく私も付いていけない。

「キングダムの王家と四侯は、民を結界で守るために存在する。言い方を変えれば、そのためにぜいたくを許されただけの、民の奴隷です」

「それは無茶な言い分だろう」

カルロス王子は片手をひらひらさせて兄さまの考えを振り払ったが、私は知っている。

お父様が確かにそう思って苦しんでいたことを。

「だが、その民の中に、家族があり、友だちがいる。国や民に縛られていると思うか、守っていると思うかはその人次第なのですよ」

カルロス王子からは何の言葉も帰ってこなかった。

「さ、夜も更けました。突然押しかけてしまって、ご迷惑をおかけしましたね」

兄さまはにこりと笑って私を抱き上げた。

歩いてやってきたから、歩いて帰れるのだが、こういう時の私は、お父様と兄さまにとっての精神安定剤である。

素直に兄さまの首に手を回した。

「明日も町をまわりましょうね。あ、魔道具についてはお休みでいいですよ」

「あ、ああ」

「それでは、よい夢を」

「よいゆめを」

バイバイと手を振って、私たちは部屋を出た。

時には行動こそが何なにより大切なことだ。

だが、その行動は思いもよらないほど大きな問題を、私たちに付きつけたのだった。

「リア、今日は一緒に眠りませんか」

「やった!」

兄さまと一緒だとお布団がぬくぬくである。

「にいさま?」

「なんですか、リア」

お布団でくすくすとおしゃべりをしている間に、眠気がやってくる。

「なにが、そうか、だったの?」

カルロス王子と話している時、兄さまは何かに気がついたようだったが、すぐに話をずらしてしまったのだ。それが気になって仕方のない私である。

「気がついたんです。キングダムがカルロスを推すことが、本当に彼のためになるのかどうか、考え直さなければいけない、ということに」

ニコが来るのも、私たちが付いてい行って、もしかしたら魔道具の技術を提供することになるかもしれないのも、キングダムはカルロス王子とこんなに親しいんですよとアピールするためだ。そのアピールは、ファーランドでのカルロス王子の基盤を強固にするにちがいない。

それがキングダム側の考えだ。

だが、カルロス王子にとっては、あるいはファーランドにとってはそれはよいことなのだろうか。

兄さまの言っていることは、そういうことだろうか。

眠くて要領をえない私のまとめを、一生懸命聞きとってくれた兄さまだが、最後には首を横に振った。

「違います。キングダムがカルロスを推すことが、彼の足を引っ張りはしないだろうかということです」

どんどん話が難しくなってきた。

「それに、誰がどんなに推したとしても、カルロス本人に国を、民を愛する気持ちがなければ、意味がないように思うのです。リア、寝てしまいましたか」

外に出ていた手が、そっと布団の中にしまわれる。

「難しいですよね。未来の私たちのために、今の私たちはいったい何ができるでしょう」

とりあえず、今日の私は、面倒なことは明日の私に任せてぐっすりと眠ろう。