軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リアが基準

町に行ったカルロス王子は、お父様みたいに魔石を砂にしたりはしなかった。

「前にリアと、魔力操作の勉強しただろう? 国に返ってもちゃんとやっていたのさ」

胸を張る王子に威厳は感じられない。だが、私は一応褒めておいた。

「えらい!」

「そうだろう?」

そんなカルロス王子に、兄さまの厳しい声が飛ぶ。

「ではカルロス、今日は魔道具作りの覚悟はできていますか?」

「覚悟というか、君たちに抵抗するのは諦めたよ。いつでもやりますよ」

やれやれと言う態度だが、やる気になったらしい。

もっとも、君たちと、私まで入れるのはやめてもらいたいものだ。強引なのは、どちらかというと兄さまのほうなのだから。

それでも、ぷいっと勉強の場を飛び出した前の旅と比べるとずいぶん成長したものだ。

「リア様! 魔道具を作る許可が出たとのことで、さっそくやってまいりました!」

「やってまいりました!」

部屋で待っていたネヴィルのお抱え魔道具師、ショーンとラビが勢いよく立ち上がった。

ワクワクした顔をしているので、嬉しくなって、私からも許可を出す。

「うん。やりかたはおしえたから、すきにつくっていいよ」

「と申されましても……」

逆に、そう言われても、どうやって進めていいのかは私はよくわからないので、ちょっと困ってしまった。

「じゃあ、リアにしてほしいことはなに?」

いったい何から始めたいのか、本人たちに聞くことにしよう。

「はい。この魔道具、ええと」

まだ名前は決まっていないのだ。私が兄さまを見ると、兄さまは重々しく頷き、名前を決めてくれたいた。

「仮に、あったかポシェットとしましょう」

確かに、既にみんながそう呼んでいる現状がある。

「では、このあったかポシェットですが、作るためにはまず、マールライトを量産する必要があります」

「うん」

それはわかった。

「そして、マールライトを量産するためには、基準のマールライトを用意しなければなりません」

「リアしってる。げんき。ユベールがもってた」

「ユベールですか。つまりオールバンスのお抱え魔道具師ですね。はい、魔道具師は全員、それぞれ師匠からもらった基準マールライトである原器を持っています。ところで、いまさらですが」

年上のショーンが、今まで目に入れないようにしていたのか、決して視線を向けなかったカルロス王子のほうにおそるおそる顔を向けた。

紹介されなかったのだろうか。

カルロス王子は、気安く右手を挙げてきらりと微笑んだ。

「カルロスだ。ファーランドの第一王子をやっている」

「ひえ……」

ショーンが白目をむきそうになっているが、弟子のラビがショーンの腕をつかんでさっと立ち上がった。

「お初にお目にかかります。ネヴィルお抱えの魔道具師、こちらが師匠のショーン、私が弟子のラビと申します」

「ショーンです。お初にお目に、その、かかります」

これではどっちが師匠かわからないではないか。

「気にしなくていいよ。私のことは置物くらいに思っていていいから」

「はあ」

二人はそういうものかと納得したのか、再び椅子に座ろうとして、ラビが慌ててまた立ち上がった。

「いえ、ルーク様。我々はキングダムの魔道具師です。お客様が、たとえ王族であろうと辺境の方とわかった以上、魔道具の話をするべきではありません」

「そうですね。王族の前でも引かぬ魔道具師としての心構えを示してくれて、四侯としてありがたく思います」

兄さまはにこやかだ。

「ですが、魔道具師が辺境に出ることや、その技術が流出することを、禁じられているわけではありませんよね」

「いえ、我々は決して辺境に、あれ?」

ラビが焦ってショーンを見るが、ショーンもそういえば、という顔をしている。

「当然駄目だと思っていたが、そういえば特にそれを誓わされたことはありませんな。だが、四侯が国の外に出られないのと同じくらい、当然のこととして国民に染みついている概念ですよ、これは」

国民に染みついている概念、いいことを言うと感心する。

「私もお父様も、しょっちゅう国の外に出ていますよ。四侯ですけどね。概念なんて幻のようなもの。時代によって変わって当然です」

兄さまがいい笑顔だ。

「今回、この技術をどうするかは、開発者であるリアの保護者である、我々オールバンスに託されました。場合によってはファーランドに技術提供するかもしれず、それならその前に、まずネヴィルに許可を出しておこうと思ったのですが」

「「よろしくお願いいたします!」」

ショーンとラビの声がそろった。

「正直なところ、いくらルーク様が許可をしても、やっちゃいけないことだと心と体が抵抗してる。それでも、この技術はしっかり覚えて、少しでも早く領民に広めたいんです」

師匠のショーンが苦しそうな表情だ。

「私も昼から、この魔道具を持たせてもらっているが、これはよいものだね。じんわりと温かいのに、やけどするほど熱くない。ルーク、この技術を提供してもらえるというのは本当かい?」

「はっきり言いますが、どの段階で提供できるかはファーランド次第です。でもカルロスにはまず、個人としてこの技術に慣れてほしいと思っています」

「ファーランド次第……。この魔道具も、ランバート殿下に託された大きい結界箱も、外交の札の一つということだね。では、私も真剣に取り組ませてもらうよ」

置物だったカルロス王子に命が吹き込まれた瞬間である。

「じゃあ、さっきのつづきから」

技術のことなら私の出番である。

「リアはきじゅんのマールライトはもっていないから、どうやってつくるのかしらないの。それをまず、おしえて?」

魔道具についてはユベールから教わってはいるが、正式に魔道具工房に学んだわけではない。したがって、師匠から基準のマールライトも受け取ってはいない。

「これだけの発想力とそれを実現する力がありながら、基準のマールライトの作り方を知らないとは、何ともちぐはぐですねえ、リア様は」

「ユベールとやらは、いったい何を考えて幼児にマールライトの変質を教えたのか」

「リアがやってみたいっていったの」

「あー」

四侯の娘に頼まれたら、それは断れないよねという表情である。

「すみません、話がずれました。要は、安定した品質のマールライトであること、つまり、どこのどのマールライトでも同じ変質になっているということが大事なんです。そのため同じ工房で同じ品質のマールライトを用意する」

「今のところ、それを作れるのはリア様だけです。つまり、この場合、リア様が基準のマールライト、つまり原器を作ることになります」

「リアがきじゅんでいいの?」

言ってみれば、幼児の気まぐれで作った魔道具だ。

「いいんです。この後、もっと効果的な魔道具が作られたら、その時はその時です。今は現物をたくさん作ることが大切ですから。さあ、まず、基準となるマールライトをリア様に作っていただくことから始めましょう」

マールライトはネヴィル側で用意してくれていた。

小さいサイズのマールライトに、作り慣れた、規定量の魔力を注いでいく。

真剣な目で見つめられる、気まずい時間が過ぎていくが、我慢するしかないのがちょっとつらい。

何なにか笑いを取りたくなるが、これは基準を作る大事なお仕事なので、我慢、我慢と自分に言い聞かせる。

「できた!」

「たったこれだけの時間ですか?」

私にとっては長い時間だった。

「コツは、ねつのへんしつの、しつをさげようとおもってつくることだよ」

私は丁寧に説明してあげた。

「まりょくをいちど、じぶんのなかでねつのへんしつにかえる、そのあと、はんぶんにおとす。それからはじめるといいよ」

さらに丁寧に説明すると、ラビとショーンは感心したように頷いたものの、首をその後、首を左右に振った。

「質を落とすなど、やってはいけないことです。これも頭ではやってみるべきだと思っていても、心と体が抵抗しますね。ほら」

ラビが差し出した手を見ると、小刻みに震えていた。

「品質を落としてはならない。すべての人に安定した品質の魔道具を、というのが魔道具師の思いです。ですが、その落とした品質が、すべての人を温める魔道具になる。これを言い聞かせながら、作ってみます」

「うん。しかも、なれたら、みじかいじかんでへんしつできるから、たくさんつくれるよ」

私は手のひらにマールライトを二枚取ると、今度は同時に魔力を入れ始めた。

「ああ、そんなことをしてはいけないと私の魔道具師としての常識が叫ぶが、耐えろ、耐えるんだ! 邪魔をしてはならない! リア様がやることは、きっと新しい魔道具の世界を開く」

ああ、と思わず大声を出したあとは、ショーンの声がどんどん小さくなっていく。

心の声が思わず漏れ出したが、私に配慮して邪魔をしないようにと頑張った結果だろうてくれているのだろう。

「できた!」

今度は手に集中していたせいか、視線は気にならなかった。

前の一つをもう一度手に取り、魔力を流してみるが、三つとも品質は同じ。

ここ数日、せめてお屋敷の人にだけでもと、まめに作っていたのが幸いしたのかもしれない。

というか、そんな練習をしなくてもだいたい同じものが作れるのが私である。

ショーンとラビは拝むように、カルロス王子はこわごわとマールライトを受け取った。

ショーンとラビは、さっそく魔力を流して変質の魔力を体で確かめている。

「しばらくは一回一回、基準のマールライトで確認しつつの作業になるが、並行してどういう形、どういう大きさで売り出すかも考えないと」

「リアのあったかポシェットではだめなのですか?」

兄さまがショーンに聞いている。

「駄目ではありませんが、布にじかに魔石とマールライトが入っていますよね。布だと耐久性がないし、汚れたりすり切れたりした時に、交換が面倒になりそうな気がします。それと、魔石をはめる場所ですね」

ショーンが見本のあったかポシェットから魔石を抜き出した。

「現在は、狭い場所に入れることで、マールライトと魔石を強制的に接するようにしていますが、この形だとマールライトの一部に負担がかかって割れやすいし、魔石の取り出しが非常に面倒です」

「なるほど」

やはりちゃんとした魔道具師はしっかりと物事を考えるものだ。

「今のあったかポシェットの魔石の消費はどのくらいかわかりますか?」

「明かりの魔石を使って、七日ほどたちますが、まだ魔石が切れた様子はありません」

すかさずナタリーが答えてくれる。

「ふーむ、長持ちですな。ですがリア様、これも改めて検証が必要ですな?」

「そうしてくれる?」

わいわいがやがやと時間は過ぎていく。

ひとまず案がまとまったところで、ナタリーがお茶を入れ直してくれた。

「では、私たちがファーランドから戻ってくるころには、何らかの結果が出ているとありがたいですね」

兄さまが一息つきながら、話をまとめようとしている。

「はい。努力します。ですが、実用化して広めるにはまだまだ検証が必要だということが分かりました。すぐには成果が出ないかもしれません」

ショーンが申し訳なさそうにしているが、それは仕方がないことだ。安全性も調べられていないのだし、気長にやってほしい。

「資金はネヴィルに預けていきますので、好きなように使ってください。成果については」

兄さまは苦笑した。

「今やらなければ、実現がそれだけ遅れるかもしれないんです。この出会いと、今始められたことに感謝して、できるだけ多くの人が使えるよう、努力しましょう。無理はせずに」

「はい! 身を尽くして頑張ります!」

魔道具師二人は気合を入れて立ち上がると、基準のマールライトを丁寧に布にくるみ、見本のあったかポシェットと一緒にカバンに入れ、退出していった。

「いやあ、魔道具作りとはこんなふうに白熱するものなのだね。驚いたよ」

「カルロスにも参加してもらうつもりだったんですが、時間がなくなってしまいましたね。お時間を取らせてすみませんでした」

「気にしないでくれ。ものすごく面白かったから」

カルロス王子が退屈そうなときは顔に出る。

今はとても楽しそうな顔をしているので、たぶん本当に面白かったのだろう。

「それにしても、君たちは本当に民との垣根が低いんだね。驚いたよ」

「そうでしょうか。リアはともかく、私と父も、数日前にネヴィルの町に行くまで、民のことにはほとんど興味がありませんでしたし、カルロスと大して変わらないでしょう」

「いいや、違うね。昨日、ディーン殿が大金持ちで、私が普通の金持ちだなんて言って笑っていたけれど、実際、国の力関係から言って、キングダムの四侯はファーランドの王族より地位が上だよね」

「地位は下ですよ。ですが、四侯の力が大きいのは確かです。でも、ファーランドとは仕組みが違うので一概にはこうだとは言えません……」

兄さまもどう答えてよいか戸惑っている。

実際には国がどんな大きさだろうと、王族は王族、侯爵はその下にあるものだ。だが、実際の影響力はと言えば、確かにキングダムの四侯の力は大きいのは確かだ。

「私は魔道具にも興味はないし、まして民がどう暮らしているかなど、ほとんど興味がない」

カルロス王子がそういう人だというのは知っていた。

では、キングダムの王族はどうだろうかと私は考えてしまった。

アル殿下が、少しでもキングダムをよくしたいと、あちこち視察に行っていたのを思い出す。

現陛下の考えはよくわからないけれど、結界を維持しているという一点だけをとっても、王家の存在意義は民のためであるというのは確かだ。

そして、幼いニコでさえ、自分の存在意義をわかっている。

「興味を持ってどうする? 辺境のファーランドは、何百年と生活は変わらない。豊かに暮らしているとは言えないかもしれないが、虚族がいる中でも、民は食べる物や住むところに困ることなく、平穏に生活している。不満があったとしても、それが王家に向かうほどではない」

今までファーランドという国に、正直興味を持ったことがないので、そういう視点で語られるのは新鮮に感じた。

「私に求められているのは、今の王家を維持し、次世代につないでいくことだけ。足すこともなく、引くこともなく。無茶をして、大きく資産を減らしたりしたら廃されるだろうけれどね。それに、廃されたとしても代わりはいくらでもいる」

珍しく皮肉げに語られた話は、それ以上続かなかった。

「そうやって情熱を持って、民と頭を寄せ合って語れる事がある。君たちがうらやましいよ」

いつもの兄さまなら、そう思うならやればいいではありませんかと言い切っただろう。

だが、兄さまは何も言わなかったのだった。