軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リア先生

「ま、まって、待ってください。私たちが作る? 変質? 熱の変質だって、王都で修業して、覚えるのがどれだけ大変だったことか。魔道具師が少ない理由を甘く見ないでくださいよ」

まずは幼児に変質を教わるという非日常を驚いてほしいところだが、ラビは新しい変質を覚えることを不安に思っているらしい。

ということは、覚えることを前提にしている前向きな気持ちということだと私は判断する。

「みほんのマールライトはないので、リアのへんしつをさんこうにしてください。さあ、てをだして」

私はにこりと両手を差し出した。右手はショーンに、左手はラビに。

「変質? こんな幼い子が? 長年修業してやっとできるのに?」

「なぜときくまえに、やるべきことをやりましょう」

「お前たち、私の妹がわざわざ手を差し伸べているのだぞ。ためらう手などそもそも必要か?」

私の言葉にびくっと震えた二人は、兄さまの言葉に完全に震えあがった。

最近兄さまの言動が過激なので、後で注意しなきゃと思う私である。

もうすぐ四歳の三歳児と、もうすぐ一四歳の一三歳児の圧に負けて、二人はおずおずと手を差し出した。

「ねつのへんしつの、きっかりはんぶんにおさえます。こう」

私はあったかラグ竜のマールライトの変質を、正確に再現した魔力を伝える。

魔力を押し込むと具合が悪くなるから、あくまでも二人の手元に響かせる感じにする。

「マールライトに触れていないのに、変質が伝わってくるのに違和感がある。ぞわぞわする。だが、リア様の手だと思わず、これが基準のマールライトだと思えば。そうだ、目を閉じよう」

お師匠のショーンが目を閉じると、ラビもそれに倣った。

「いや、手がかわいくて集中できない。集中、集中」

呪文のように唱えている姿を見上げながら、私はコツを教えていく。

「はんぶんにおさえたままで、へんしつをこていする。じかんは、およそ五ふんほど」

五分も手を握ったままは嫌なので、時間だけ教えてそっと手を放す。

「ナタリー、マールライトはあるかしら」

「ございます」

ナタリーはエプロンのポケットからすぐにマールライトを取り出した。

私はそのマールライトを、ちょうどいい熱の変質を記憶しようと必死のショーンとラビに渡し、再びにっこりと微笑んだ。

「では、これをちょうどよくへんしつさせてみましょう」

「む、むり」

「へんしつさせてみましょう」

にっこり。

二人はしぶしぶマールライトを手に取り、目をつぶった。

私が教えたばかりの変質の魔力が、二人からふわんと立ち上る。

安定はしていない。ふらふらと行きつ戻りつしているが、やがて熱の変質のちょうど真ん中あたりで揺らぎがぴたりと止まった。

にやり。

さすがキングダムの魔道具師である。

コツをつかめばできると踏んだ私は正しかった。

私は時計を見て、五分を過ぎたところで手をパンと叩いた。

パンではなくプニッとした音だったかもしれないが、とにかく合図にはなった。

「五ふんたったよ。どう?」

二人はまるで今、目が覚めたかのようにぼうっとしている。

「ナタリー」

「はい。マールライトを私に」

ラビが別の意味でぼうっとしながらナタリーにマールライトを手渡すと、ナタリーはあったかポシェットにマールライトを差し込み、それから小さい魔石をぎゅっと押し込んだ。

「しばらくもっても、あったかいけどあつくはない。ラビ、ごうかく!」

私の拍手につられて、部屋のあちこちからパラパラと拍手が起こる。

「つぎ、ショーン」

「お願いします!」

なぜだか手を握りあわせて祈る姿勢のショーンのマールライトを、ナタリーが慎重に、あったかポシェットに入れてから魔石を押し込んでいく。

私はそれを慎重に受け取り、確認した。

「こちらもあったかいけど、あつくない。ショーン、ごうかくです!」

「やった!」

「師匠、よかったですね! って」

ラビがはっと我に返る。

「魔石! マールライトもですが、魔石ですよ! なんで明かりの魔石で、熱の魔道具ができちゃうんですか。それって、安上がりに誰でもあったかく過ごせるってことですよね……」

ナタリーの顎が少しだけ上に上がった。

とても自慢そうである。

「そうです。しかも、この一つの明かりの魔石で、丸三日以上もつんです」

「な、なんだってー!」

「しかも、現在検証中で、それ以上もつかもしれません」

そういえば、何日で魔石がきれるかは確かめていなかったような気がする。

「なんてものを作ってるんですか! この魔道具の価値を、本当にわかっていらっしゃいますか!」

さっきまで、これは魔道具ではないとかいろいろ言っていたくせに、現金なものだ。

だが、魔道具の価値などあまりわかっていない私は、素直な気持ちを述べることにする。

「だって、べんりだとおもったから」

「便利だと思って作れるなら、とっくのとうに広まってるでしょうが! 気軽に作ってみてほしいと言われるこっちに身にもなってくださいよ! 私にもできちゃったでしょうが! どうするんですか、これ」

「えへ?」

それは私の考えることではないと思う。

「まあまあ。どうするかはこれから考えるから」

お父様も割と気楽な感じである。

「普通の魔道具師にもできるということがわかればいいのです。さて、まずはおじいさまの領地から、広めてみましょうか」

兄さまの目が本気である。

「リアのあったかポシェットを見た時は衝撃が強すぎて何も言えなかったが、うちの魔道具師にも作れそうだとわかったことは大きな収穫だった」

おじいさまがこの場をまとめてくれた。

「この先、この発明をどうするかはまだ決まっていない。ショーン、ラビ、わかっているとは思うが」

「はい、決して他言はいたしません」

師匠のほうがしっかりと頷いた。

「他言はしません、しませんが」

ラビがおじいさまと私を交互に見ながら必死に訴える。

「せめて、練習させてください。マールライトを安定的に変質させるためには、王都でも長い修業が必要でした。今はたまたまできましたが、安定には程遠いです。決して外には出しませんから、変質の練習だけはどうか、させていただけないでしょうか」

魔道具師は当たり前だが、魔道具が大好きだ。

ユベールも新しい魔道具には目がない。

最初は見慣れぬ魔道具に拒否感が先に立ったとしても、それが有用であると理解できれば夢中になるのも早いだろう。

「それは少し待ちなさい。練習すれば、実際に作りたくなる。作ったら誰かに使わせたくなる。そうやっていつのまにか秘密が秘密でなくなっていく」

軽い気持ちで技術を分け与えた私には、お父様の言葉はとても重く聞こえた。

「もしこの魔道具についてなにか決まったら、一番最初に、お抱え魔道具師であるお前たちに相談すると約束する。今回は突然のことで済まなかったな」

おじいさまが魔道具師たちにそう言い聞かせて、その場は解散となった。

部屋を出ていく前に、二人は私のところにやって来てひざまずいた。

「リア様。これからは師匠と呼ばせてもらってもいいですか」

「それなら私にとっては大師匠です」

「それはやだ」

こんなに若いのに、師匠などと呼ばれたくない。

そんな一幕もあったが、お昼寝の後すぐにやってきた私のために、部屋にはすぐにお茶とおやつが用意された。

「ここに一番最初に来た時はまだ片言で、それでもたいそう賢い子だと思ったけれど、賢いだけでは言い表せないわね。おっちょこちょいのクレアの子かと思うと、不思議だわ。ルークも賢いし、才能という面では、やはりディーンから受け継いだのかしらね」

お母様の話が出るとなんとなくうきうきする私である。

「リアとルークの素晴らしさを語りたいのはよくわかるが、それよりもまず、リアのあったかポシェットの件をどうするか考えたい」

おじいさまが和やかな雰囲気の中で本題に切り込んだ。

「リアの発明したものだから、どうするかはリアが決めることだというのはわかっているが、北の地に住むおじいさまの話も聞いてはもらえまいか」

「うん」

私はこくりと頷いた。

「最初に話した通り、ネヴィルの土地はキングダムで一番寒い。雪が少ないのは幸いだが、その分寒風が吹き渡り、冬の民の暮らしは厳しい。その暮らしの中に、体を温める魔道具があったらどれほど幸せなことだろう」

それはよくわかる。ナタリーのように、ネヴィルより暖かい王都で暮らしていても、あったかラグ竜を離したくないほど温かさがほしいというのだから。

「先ほどの魔道具師も気が付いたようだが、何より優れているのは、明かりの魔石で賄えることだ。明かりの魔道具はどんなに貧しい家庭にでも普及している。オールバンスの作る小さくて性能の良い魔道具こそ高価だが、そうでなければ、マールライトに何の工夫もいらないから、比較的安い値段で手に入るし、魔石の補充や交換もそれほど高価ではない」

トレントフォースの魔道具屋にいたことのある私だから、魔道具屋とは魔道具を売るより、魔石の交換が主な仕事だということは知っている。

「リアの魔道具のマールライトは特殊だから、リアしか作れないのであれば、普及は難しいと思っていた。だが、リアが指導してすぐに成功してくれたように、キングダムの普通の魔道具師であれば、誰でも作れるのであれば」

おじいさまはそこで大きく息を吸った。

「最初こそ、熱の魔道具と同じ値段で買う必要があるかもしれない。だが維持するのに明かりの魔石と同じでいいのならば、民の冬の暮らしはだいぶ楽になるだろう」

兄さまがまずネヴィル領から広げてみようと言っていたが、どうすべきか。

おじいさまにすぐにでもいいよと言いたいが、私はすぐに答えを出せずにいた。

「お義父さん。リアも私たちも、話はわかりました。正直なところ、すぐに答えを出すのは難しい話ですから、ゆっくり考えさせてもらってもいいですか。少なくとも、今年の冬すぐにというのは無理でしょう」

お父様が代わりに話を引き取ってくれた。

「うむ、すぐにでも欲しいのはやまやまだが、リアとルークに無理をさせることになるからな。無理はいかん、無理は」

おじいさまが自分に言い聞かせるように頷いた。

なぜ無理をさせるのが私とお父様ではなく、私と兄さまなのかとちょっと疑問に思ったが、追及する前にグレイスおばさまがぐいぐいときた。

「リア、私の冷え性用に、特別に作ってはくれないかしら」

「もちろん!」

言われるまでもなく、グレイスおばさまも含めて身近な人には作るつもりだ。

遊ぶ合間に、この屋敷の人数分くらいのマールライトを変質することはたやすいだろう。

もちろん、ナタリーのあったかラグ竜は確保するとして。

必ずしもポシェットにする必要はないし、マールライトを作ってさえしまえば、魔道具の形にするのは屋敷の使用人にでもできるのではないか。

とりあえず、練習のためにもマールライトの変質をがんばろうと思う私である。