軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ケアリー到着

その後もあちこちの町に寄り道し、時には虚族を眺め、カルロス王子に付き合って買い物もし、ケアリーに着くころには二週間ほど経っていた。

そしてついに、ケアリーの町が見えてくる。街道には商人らしき人たちが行きかい、今までの町とはその規模が違う様子がうかがえる。

竜車に乗ってその様子を眺めながら、カルロス王子がヒューに尋ねた。

「もしかして、ケアリーはシーベルより大きな町か?」

「同じくらいだ。日中はキングダム内に出入りしやすいから、町の住人はそれほどでもないが、商人が多いな」

結界を挟んで、ケアリー南部がウェスター、ケアリー北部がキングダムにあるという、なんとも不思議な町である。ちなみに、南部と北部の町長は別であり、それぞれの国の者である。

「あえて知らせないように来たが、さて、どう出るか」

旅は急いだものではなかったので、たとえ先触れを出していなくても、旅人から噂が届いているかもしれなかった。

そういえば、兄さまたちは迎えを、カルロス王子一行はファーランドから護衛を、それぞれケアリーまで呼んでいたように思うが、もう来ているだろうか。背を伸ばしてケアリーの町を見ている私に、ギルが教えてくれた。

「なるべくゆっくり王都に行くようにと指示を出したから、迎えはまだ来ていないはずだよ。というか、ケアリー経由で帰りますと連絡しただけで、頼んではいないんだ。申し訳なかったけど、オッズ先生に頼んだから、きっとほどよい感じで帰ってくれると思うんだ」

ギルはおちゃめな顔で笑う。

私は今の今までオッズ先生のことを忘れていたことに気がついて、申し訳ない思いでいっぱいだった。ケアリーまでの道のりでは、勉強会もなかったから気がつかなかったのだ。どうりで人数が少ない気がしたわけだ。

「俺たちにとってはケアリーがウェスター滞在最後の町だ。ゆっくり楽しもうぜ」

忘れていたオッズ先生はもうしかたがない。切り替えていこう。

「リア、まどうぐのおみせ、みたい」

「ああ、寄ろうぜ」

私たちの旅はもうすぐ終わりでも、ファーランド一行にとっては、まだ旅は中間地点ですらない。大きな町で、ゆっくり体を休めるのもいいだろう。

「さてと、宿をとるか」

そんなことを言っているヒューに私は驚いた。

「ちょうちょうのいえ、とまらないの?」

トレントフォースからシーベルへの旅では、町の代表の人たちにぜひ泊まってくれと言われたものだ。王族をもてなすのが名誉でもあるし、もてなさないのは失礼に当たるという面倒くさい理由からである。

しかも、今回はケアリーの町長を探るという目的もあったはずだ。

「まあ、見ているといい。さあ、派手に行こう」

王族なのに華美な格好は苦手なヒューが、派手に行こうとは驚いた。それで今日は朝からいつもより華やかな服を着せられていたのか。

いつもひらひらしたシャツを着ているカルロス王子がふふんと胸を張った。

「私も何の役にも立てないが、派手なことと、人に迷惑をかけることについては自信があるからね。任せてくれ」

「そんなことに自信は必要ありません」

兄さまが小さい声でぶつぶつと文句を言っているので、笑い出しそうで困る。

その兄さまが、文句を言わずに華やかな服を着ているので、私も我慢してひらひらの服を着ていたのだが、ちゃんと理由があったということだ。それならば、自分の役割はきちんと果たそう

最初にラグ竜が数頭、護衛の人が警戒を兼ねて露払いである。その後に、竜に乗ったヒューとカルロス王子が並んで、それからニコと私が竜車に、その横で兄さまとギルが竜に乗って行進する。

私たちの姿がよく見えるように、兄さまたちはあえてラグ竜に乗っているのだ。

もっとも、派手にと言っている割に、旅の本来の人数より少ない気がする。なにより、アリスターやバートたちが見当たらない。

町に近づくにつれて、

「第二王子のヒューバート様だよ!珍しいなあ」

という声と共に、どんどん人が集まってくる。その時点で先頭の護衛は竜を降りて、手綱を手に取った。ヒューたちは竜に乗ったまま、その護衛に導かれるようにゆっくりと進む。

「あのお子様たちは? 紫の目、そして金……。ヒュッ」

息を呑む音と共に、私たちを認識した気配がする。

「キングダムの四侯だ!そしてキングダムの王子様だよ!」

やけにキングダムを強調するその声のほうを見ると、旅の間よく見知ったお付きの人の顔が見えた。虚族を怖がっていた人たちが、人ごみに紛れている。

「あっち側は、ファーランドの王子様だってよ!」

その声に、カルロス王子が華やかに微笑んで、小さく片手を上げた。途端にキャーッという悲鳴のような声が上がったので、やはりかっこいいことはかっこいいのだろう。私は幼児だからわからないが。

ここまで来ると、ヒューが仕込んだということがよくわかる。お付きの人の数が少ないなと思っていたら、先行して町人のような顔で情報を流しているらしい。

おかげで、進むのが困難なくらい人が集まり、先頭の竜が止まってしまった。

「宿に行きたいのだ。前を開けてくれぬか」

ヒューの大きな声がする。

「町長のうちは、ここから右手の方向ですよ!」

親切な町の人が教えてくれ、右手に集まった人たちが大急ぎで避けてくれる。ヒューはふっと微笑むと、右手をすっと上げた。

「お忍びゆえ、町長には迷惑をかけられぬ。宿を探そうと思う。落ち着いた宿はないか」

確かに、今の行列は護衛も最小限で、こじんまりとした集団ではある。それでもお忍びというにはかなり派手だと思うが、ヒューのその言葉に、町の人はガヤガヤ騒ぎながら、

「なら、金のラグ竜亭がいいですよ! このまままっすぐ行って、右側にあります!」

と教えてくれた。と同時に、真っすぐの方向にさっと道が開いた。

「感謝する。幼子も一緒ゆえ、助かる」

ヒューが私たちのほうに振り返りながら慈愛の笑みを浮かべた。私はそのタイミングでそっとニコのほうに体を寄せた。ニコもそんな私に体を寄せて、そっとささやいた。

「どうした。おなかがすいたか?」

「ちがうもん」

ニコはこうだが、町の人は私たちを見て心配そうに叫んでいる。

「ああ、お子様たちが不安そうだぞ!早く宿へ!」

勘違いなのだが、ヒューが礼を言って前に進もうとすると、右手のほうからラグ竜が数頭、走ってきた。巻き込まれないように町の人が逃げているのが見える。

「危ないですね、町中なのに」

兄さまが眉をひそめているだろう声がした。その竜に乗った人たちは、さっと竜から降りると、急いでヒューの前にひざまずいた。

「ヒューバート殿下とお見受けします。ただいま、わが主が参りますので少々お待ちを」

きびきびした動きは気持ちいいくらいだし、私は護衛隊やオールバンスの護衛で見慣れているので何とも思わなかったが、ハンスは違ったようだ。私たちの竜車の御者をやっていたハンスが小さい声でつぶやいたのが聞こえた。

「一介の町長なのに、すぐに動ける、よく訓練された私兵を持っているってことか。今までの町にはなかったことだな」

そのハンスの警戒した声に、私のお祭り気分はしゅっと縮んだ。ここまで気楽に来たけれど、もうほんのちょっと移動すればキングダムだ。それは心強いことでもあるけれど、自由な旅が終わるということでもある。

それに、これから、もしかしたらシーベルの民を傷つけようとした、あるいは王族を害そうとした悪い人と対決することになるのかもしれないのだ。

最後の最後、気を引き締めていかなければならない。

「わが主とは誰か」

ヒューが竜の上から問いかける声が聞こえた。そう言われてはじめて、主が誰とははっきり言っていないことに気づく。

「ここケアリーを代々治める町長、シルベスター・ケアリーです」

当然のことをなぜ聞くのかという口調だ。

「けっこうだ。忍ぶ旅ゆえ、ケアリーを煩わせるわけにはいかぬからな。さあ」

ヒューはあっさり断ると、竜の頭を宿のほうに向けた。

「お待ちを!」

断られるとは思っていなかった使いの者が、慌てて竜の手綱を取ろうとした。

「無礼な!」

その手は前方にいたヒューの護衛に跳ねのけられる。

「何をする!」

「こちらはウェスターの第二王子である! 勝手に手綱を取るでない!」

しずしずと町を進んでいたはずなのに、突然の緊張をはらんだ展開であった。

「お前たち! 無礼はいかん、無礼は!」

そこに急いだ様子で竜車が一台やってきた。

転がるように走り出てきたのはケアリーの町長である。

「ヒューバート殿下、驚きましたぞ。それにこれは……」

カルロス王子を見て目を見開き、竜車の私とニコを見てもっと驚き、兄さまとギルを見て何かを諦めたかのように目を閉じた。ということは、もくろみ通り事前に到着は知られていなかったということになる。

「いったい何をなさっているのか……。シーベル観光で十分でございましょう」

「なに、私が西回りでファーランドに帰りたいとわがままを言ったのだ。残りの方々は、いわば付き添いだな。ハハハ」

ケアリーの町長の失礼な言葉を気にした様子もなく、カルロス王子が愉快そうに笑った。

トレントフォース周りでファーランドへということを知られてもいいのかと私は思ったが、むしろ情報を公開したほうが、秘かに襲われることを防げるということなのだと思う。ケアリーから先はもう秘密にする必要などないのだ。

「目立たぬように来たゆえ、ケアリーに迷惑をかけるわけにもいかぬしな。これから手分けして宿をとろうと思っているところだ」

ヒューが爽やかな顔をしてケアリーの町長に答えている。

「迷惑でないとは申しませんが、私にとっては宿を取られたほうがより迷惑ですのでな。特にこのケアリーの地で、キングダムの四侯と王族をないがしろにしたとあっては、なんと思われるか。そうだ!」

町長はぽんと手を打った。

「キングダムの方々は、向こうのケアリーに滞在なさるといい。そして昼だけこちらに来てくだされば、安心できるというものです」

できればそのまま帰ってくれという気持ちが透けて見える。意図してではないのかもしれないが、言っていることはすべて失礼であると思う。

「そうか、それでは仕方がない。ケアリーに世話になるとするか。ニコラス殿下にも、四侯の方々にも、どうせならこちら側のケアリーをしっかり見てもらいたいからな。ケアリーよ」

ヒューはその失礼さを気にした様子もなく、提案はすっぱりと無視して、顔に笑みを浮かべた。

「突然の訪問で迷惑をかけるが、正直ありがたい。ではそなたの屋敷へ向かうとするか」

「え、ええ。光栄なことでございます」

そう言うしかないケアリーの町長は少し哀れでもあった。