軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再びの旅立ち

こうして護衛隊も説得し、王都に使者を送り、ケアリー経由で帰ること、そしてキングダム内の帰り道の手配をしてもらうことなどを連絡した。ニコの面倒はギルと兄さまが担当なので、城にも同様の手配をする。

「これで、城に使者がたどり着いて、城の面々が慌てている時には、私たちは既に出発済みということです」

「やったもん勝ちだな」

これが四侯とは何かと語っていた二人組とは思えない言葉だが、私はやんちゃな兄さまも好きだ。

それから兄さまたちが、ヒューとカルロス王子たちと、どのコースをたどってケアリーに行くか、何を揃えるかなどを相談している横で、私とニコは静かに遊んでいた。

どうせ後で話すことになるのだから、聞いていてもいいだろうということのようだ。実際はニコがヒューの部屋に朝早くから突撃したりしたら困るからだろうと思う。だが、どうせ旅程の話し合いに面白いことなどあるわけがない。と思っていたら、いきなりバートの声が響いた。

「ちょっと待ってくれ。そのコースには賛成できない」

「なぜだ。クレストを通るコースだから、観光という意味でも、安全という意味でもよいと思うが」

どうやら基本のコースを考えたのはヒューらしくて、声がむっとしている。

「それはわかってる。でも、これじゃあニコ殿下の希望が中途半端になるだろう」

「ニコラス殿のか。あー、つまり、虚族が見たいという、あれか」

ニコの見えない耳がぴょこんと立ち上がった。

「それなら、途中の町で宿を取った後、護衛付きで見せればいいだろう。わざわざコースを変える必要はない」

「いや、そんな甘っちょろい計画でお茶を濁すなよ」

バート、相手は王子様ですよと言ってやりたい気持ちである。ハラハラするではないか。

「お茶を濁すってお前」

ヒューも絶句してしまった。

「野宿する日が必要だ。もちろん、避難所のあるところでいい」

「野宿だと。バート、いいか、私たちが連れて行くのは王族と四侯だぞ」

二人でやりあっている。

「せっかくルークさんがいるんだ。ルークさん、あんた結界箱、けっこう持ってきてるよな」

兄さまはいきなり自分に話が振られたので驚いたようだが、素直に頷いた。

「ええ。人数が倍になっても困らない程度には」

「これを使わせてもらわない手はないだろう。魔石の充填にも困らないんだぞ」

「バート、失礼だぞ」

私としては、バートたちがなぜ第二王子付きなのかがよくわかってとても楽しい。バートたちの前ではヒューがのびのびしているからだ。

「かまいません。それからバート、そろそろ私のことはルークと呼んでください」

「俺も、アリスターの兄ちゃんじゃなく、ギルと呼んでくれ」

王子をヒューと呼んでいるのに、兄さまにさん付けは確かにおかしいと思っていた。だが、兄さまにはさん付けされてしまう雰囲気は確かにあると思う。

「じゃあ、そうさせてもらうな、ルーク、ギル」

あきらめたようにヒューは肩をすくめた。

「もういい。それではまずウーラム丘陵に向かおう」

「ヒュー、あんた、いい男だな」

バートが少し笑いを含んだ声でからかうように名前を呼んだ。

「そこで、丘陵にある岩でもなんでも観察したらいい。結界箱があれば何でもできるだろう」

気にせずちらりとこちらを見たヒューの目は、結界箱がなくてもなんとかできるだろうと言っていたが、知らんぷりをした。

いつもなら、余計なことを言ってはいけませんという兄さまも、いくら私に価値があっても、もはやさらわれる理由がないと知ったからか、何も言わずに見守ってくれた。

「ニコ」

「ああ。さっそくきょぞくがみられそうだな」

こうして、ユベールの仕事の終わりを待って、私たちはちょっと寄り道しながらケアリーを目指すことになった。

セバスとこないだ別れた時は、本当のことを言うと二度と会えないかもしれないと思っていた。

「セバス! きっとまたくる」

「ええ、セバスはいつでもここでリーリア様をお待ちしていますよ」

だが、これからは気軽に来られそうな気がするのだ。たとえウェスターから招かれなくても、来たいと言えば来られるような気がしていた。きっと兄さまも付いてきてくれる。

「ではセバス。体を大事にするのですよ」

「ルーク様……。なんとありがたいお言葉でしょう。くれぐれもケアリーではお気をつけくださいませ」

セバスはここでちゃんと楽しく仕事をして暮らしている。もう何も心配することはない。

セバスによると、ケアリーについては、大きな町だけれどあまりいい噂を聞かないそうだ。治安が悪いので、かわいいリーリア様は特に気をつけてくださいと言われた。

シーベルも王都も、私の見たところだけかもしれないが、いい町だったので、ケアリーに行くのはちょっと怖い気もする。

「私も付いて行きたかったのですが、ケアリーから私だけ戻ることになりますのでなにかと面倒で。せっかくリーリア様と再会できたというのに」

ドリーが両手を胸の前で握り合わせている。斜め後ろからナタリーのふんという鼻息が聞こえてきたような気がしたが、気のせいだろう。

「リア、またくるから」

「お待ちしております」

こうして私は知り合いとの別れを惜しんだ。

「ケアリーなら、私も行きましたものを」

「ハーマン。付いてきたいならもっと体重を落とせ。こんな短い距離でも息が上がっているではないか」

ハーマンが横に大きい体をどたどた運びながら汗を拭いている。

「しかし、ケアリーのことをよく知っている私が行けば便利ですよ」

「機動力が大事な旅だ。足手まといはいらぬ」

ヒューが厳しく切り捨てていて驚いたが、ハーマンが来ることがないとわかって私は心の底からほっとした。

「さあ、竜車に乗り込め! 出発だ!」

シーベルの町の民に見送られ、私たちは来た時と同じようににこやかに手を振りながら、この町を去ったのだった。

それから何泊かして、街道の避難所で軽食をいただいていた時のことである。バートが一人でやってきた。

「なあ、ルーク」

兄さまに用があるようだ。と思ったら違った。

「ちょっとリアを貸してくれないかな」

「リアをですか?」

何をして遊ぶんだろうと思った私とは、兄さまは頭のできが違った。もちろん、できないほうである。

「いったい、何を企んでいるんですか」

「企むなんて、大げさだなあ」

バートは、何も企んでいませんよと言うように胸元で両方の手のひらを兄さまに見せた。

「では、なんのためにですか」

私に用があるはずなのに、私不在で話が進んでいる。私はカップを傾け、そっとスープをすすった。うん、ほどよく冷めている。

「ええと、ちょっとさ、リアとラグ竜に乗ってきたいんだよな」

バートを中心にし、波紋が広がるようにおしゃべりが止んでいった。そうして終いには、避難所に完全な沈黙が落ちた。

そして、私がカップのスープをすする音だけが響いた。もちろん、ちゃんと上品に飲んでいる。

「ちょっと何を言っているのかわかりません」

「ええと、そうだよな。なあ、リア」

バートは兄さまを飛ばして私に直接話しかけてきた。

「リアはどうだ? 一緒に竜に乗りに行かないか?」

私はスープのカップをとんと簡易テーブルの上に置いた。

「にいさまがいいっていったら、いく」

そしてふふんと胸を張った。百点満点の答えだと思う。

「リア……」

それなのに、兄さまが残念なものを見るような目で私を見るのはなぜだ。

「そこは夜だから行かない、と答えるのが正解だな」

ギルの声には笑いが含まれていた。

「じゃあ、明日。道中ならどうだ?」

「それは昼間ということですよね。ですが、リアはかごでないと竜に乗れません。隣に並んで乗るということでしょうか」

「それでいい」

それでいいということは、本当は違うということだ。私はバートが何をしたいのかよくわからなかったけれど、なにかはあるとわかってわくわくして次の日を待った。