軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

町におでかけ

今日はまた夜までは用事はなかった私は、ずっとアリスターの家にいてもよかったのだが、城でニコが一人なので、ニコのために登城した。兄さまたちも本来なら用事はなかったはずなのだが、昨日の事件の後始末に呼ばれている。

後始末というより、犯人の捜査と今後の相談だ。

まずは当日その場にいた参考人の一人としてケアリー親子に事情を聞こうとしたが、既に朝早くに旅立っていたそうだ。

もちろん、後を追わせたうえで、話を聞くらしいし、ケアリーにも密かに密偵を派遣する。

シーベルの周辺のラグ竜の群れにも調査隊を出す。

本来、安全に結界を張ることだけに全力を注ぎたいだろうに、犯人は面倒くさいことをしてくれたものだ。

「そのようにギルバートどのとヒューバートどのがはなしていたな」

「なるほど」

私とニコにはそんな調査は関係ないので、子ども部屋で木の竜を交代で揺らしながら、そんな話をしていた。

「殿下、そんな話をいったいどこで聞いてきたんですかい?」

ハンスが興味津々だ。

「なに、リアがくるまでたいくつだから、そのあいだいっしょにいさせてほしいと、ギルバートどのにおねがいしておいたのだ。もっとも、まさかちょうしょくのまえからいっしょだとは思わなかったようだがな」

「はやおきしたの?」

「そうだ。はやおきして、へやまでとつげきした」

「リア、ねぼうしたのに、ニコすごい」

ハンスはあーという顔をした。

「このお子様たちの前で、うかつな話はしてはならんということを、ウェスターの方たちは知らねえからなあ」

「まったくです」

「あんたらはまず殿下が朝から突撃なんて無茶をするのを止めろ。そこからだろ」

ハンスのぼやきにうっかり返事をしたニコの護衛が叱られているが、その通りである。

私はそんな護衛たちは放っておいて、ニコにさりげなく尋ねた。

「ニコ、なにかしたいことない?」

「したいこと? なにをしてあそぶかということか?」

「ううん。そうじゃなくて」

私もニコも、招かれてウェスターに来ている。式典にも参加したし、招待客としてすべきことは全部済ませた。

だが、前半はカルロス王子のわがままに巻き込まれて、私もニコもおとなしくしていたし、ウェスターでも王族と四侯の愛らしい姿を見せるという役割もきちんと果たした。

逆にお利口にする以外、なにもしていないとも言える。私はともかく、ニコの初めての外遊がこれでいいのだろうかと疑問に思ったのだ。

「こうむ、ぜんぶおわったから、なにかウェスターで、したいことはないかなっておもったの」

「うむ。じつはある」

ニコは竜を前後に揺らしながらもっともらしく頷いた。

ほらね、やっぱり。

「あー、リア様。ちょっと待ってほしい」

「ハンス、しずかに」

ハンスがすかさず言わせないようにと牽制してくるが、私たちはお利口にしていたのだから、少しはご褒美をもらってもいいはずだ。旅をしてきたことそのものがご褒美でしょうとか、昨日、夜に町で踊ったり屋台で食べたりしたでしょうという心の声には耳を塞ぐ。

「わたしは、せっかくウェスターに来たのだから、ちゃんときょぞくが見たい」

「口に出させちゃったじゃねえか」

嘆くハンスである。

だが、確かに、キングダムと辺境の違いは虚族がいるかどうかだ。ウェスターに来たからには、虚族が見たいというのは当然のことだろう。でも、私はちょっと疑問に思う。

「ニコ、きょぞく、みたことあるはず」

これだ。

「ああ。リアとともに、れんごくとうでな。だが、かずは少なかったし、あのときよりもわたしも大きくなったからな。こころもたえられるのではないかとおもうのだ」

魚の虚族をつかもうとしたニコ。それを助けたのは私とハンス。あの時、何よりニコの幼い心の心配をしたのは私だが、それからニコが成長したのを知っているのも、私である。私は振り返って、壁際に控えていたハンスを見た。

「賛成はしねえ。だが、ルーク様がいいと言うならいい。俺はいつでもリア様は守る」

守る中にニコが入らないのがハンスである。私はうんと頷いた。

「にいさまにそうだんする」

「わたしからもたのんでみることにする」

「木の竜を揺り動かし、絵本をよんでるこのお子たちが、こんな不穏な相談をしているなんて誰も思わねえだろうなあ……」

ハンスの嘆きはともかく、私とニコはお昼ご飯の時に兄さまにしっかりとお願いしたのだった。考えておきますと言われたから、きっと許可が出るだろう。ただし、兄さまが以前、おじいさまの北の領地で経験したように、キングダムに入ってから安全な場所でウェスター側を見ましょうと言われたので、おとなしく待つことにする。

ほくほくしている私たちに、もう一つ朗報があった。

一日目の夜を経験したのだから、二日目の夜は行かなくていいのではないかということになり、その分、昼のシーベルの町に出かけていいことになった。もちろん夜の屋台は楽しいが、やはり幼児には刺激が強すぎて、今日のように寝坊する羽目になる。昼の明るい中で、ゆっくりと店を回るほうが好みである。

「リアとニコラス殿が町を出歩くと聞いてな」

ただしファーランド一行も一緒である。

「本日は私も付き添いでございます。さあ、ドレスやアクセサリーのお店もありますのよ」

そしてドリーも一緒である。

「私はカルロス殿下の付き添いよ」

さらにジャコモも一緒である。私はふと気になって聞いてみた。

「ジャコモのお店は?」

あれだけ自分の服を押し付ける癖に、商品を見せてくれたことがない。

「ジャコモの品は、完全に注文販売ですので、お店はありませんよ」

ドリーの言葉に、私はぽかんと口を開けた。それに、私は一切注文した覚えはない。

「どうして?」

ドリーはまるで幼児に言い聞かせるように、優しい口調だ。まあ、私は幼児なのだが。

「あら、賢いリーリア様でもそんな質問をなさいますのね。いいですか、ジャコモの服を買えるのは貴族だけ。貴族は店で服を買ったりしないものです」

「そうよ。私に服をデザインしてほしいお客様はね、私の屋敷に直接来るの。そしてそこで採寸したり、デザインを相談したりするのよ」

ふふんと自慢そうなジャコモだが、私はキングダムではどうなのかと思い、ナタリーのほうを振り返った。

「王都でも、人気のデザイナーは特別なサロンのような場所を持っていますよ。町の人が気軽に入れるようなお店はありません」

「そうなの」

「ええ。もちろん、リーリア様には専属の衣装部がありますので、必要ございませんが」

ふふん具合ではジャコモに勝るとも劣らないナタリーである。

「りゅうこう、どうするの?」

「まあ、リーリア様。流行などという言葉を知っていて偉いわあ。でもね、覚えておいてね」

ジャコモは人差し指をピッと上に向けた。

「うぜえ」

「ハンス、伯爵家ですよ。控えなさい」

「わかったよ」

ハンスとナタリーがこそこそ会話しているが、私もハンスに一票入れたい気持ちだ。

「流行は、私が作るもの、なのよ」

「素晴らしいな、その考え方は」

「ありがとうございます」

どうやらカルロス殿下とは意見が合うようだが、私はいらっとした。

「だから、ジャコモのふく、きごこちがわるいんだとおもう」

「まあ」

失礼な言い草だとは私も思う。だが、ジャコモの服はいつもどこか華美で着心地が悪い。

私はジャコモに手を差し出した。

「ジャコモ、てを」

「え、ええ」

そのまま私はジャコモの手を引いて町を歩きだした。私と手をつなぐと、背の高いジャコモは少しかがまなければいけないが、仕方がない。

「みて。あのこ、スカートがリアみたいにみじかくて、うごきやすい」

スカートが長い子もいるが、短い子は下にズボンをはいており格段に動きやすそうだ。

「あっち」

今度は違うところを指さした。

「あのいろ。あんまりみたことないけど、かわったピンクいろで、きれい」

「あれは色を重ねると鮮やかな赤になるのよ。でも、一度や二度染めだとあの淡い色にしかならないの。安いので、庶民がよく使う色よ」

「でもかわいい。うえにこいいろをあわせたら、すてき。リアのすきないろ」

「それは確かに……」

デザイナーがどんな発想で、美しいデザインを生み出すのか私にはわからない。でも、人を見ずに屋敷にこもって考え出した流行なんて、あまり意味がないような気がする。

「リア様のお好きな色。買って帰らないと」

そしてナタリーの目が光っているのがちょっと怖い。

「ふくは、ひとがきるもの」

私は賑やかに行きかい、私たちを見て笑顔を浮かべるシーベルの町の人も好きだ。

「うごきやすくて、かわいいものがいい。ひとをみずに、なにがわかる?」

「リーリア殿……」

「みせは、なくてもいい。でも、もっとまちにでるといい、ジャコモ」

店があったら流行も人々の求めている物もつかみやすいと思う。

「ひとは、きぞくだけじゃないから」

私はつないだ手を一瞬ギュッと握ってから離した。

「そして、きぞくだって、うごきやすいふくがすき」

返事は、聞かなくていい。

私はすぐにニコのほうを向いた。

「ニコ、おかあさま、おとうさまに、おみやげかおう」