軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

栗のイガは痛いよね

「おーい、竜を一頭連れて来た」

アリスターの声と重なるように、痛いんだ、という声が聞こえたような気がした。私は、竜に乗ったアリスター、キャロ、クライドに囲まれるように連れてこられたラグ竜の側に近寄るため、ひな壇を降りようとしたが、兄さまに止められた。

「リア。待ってください」

「どうして?」

兄さまにもラグ竜のつらそうな声は聞こえているはずだ。

「アリスター。それは先ほど先頭を走っていたラグ竜ですよね」

「いや、先頭を走っていったラグ竜には逃げられた」

ではその竜は何なのか。それはキャロが説明してくれた。

「群れがばらけた時に、調子が悪そうに立ち止まっていたのがこの竜なんだ。それと、ほとんどの竜が鞍をつけていないのに、こいつだけ鞍をつけていたから気になってな。おとなしいから、大丈夫だと思う」

「わかりました。まず私が行きます。リアは私がいいと言ってからにしてください」

「はい」

私は素直に頷いた。

兄さまに甘えるように鼻先を押し付けたラグ竜は、ぶるっと体を震わせた。

「キーエ……」

背中が痛いんだ。

「どこが痛いんです?」

兄さまがよく聞こえなかったようで、ラグ竜に尋ねているのがちょっとおかしい。それなら私が手伝ってあげよう。

「にいさま、せなかだって」

「背中? 背中には鞍がありますが……」

ここで一緒に見ていたミルとバートが、協力して鞍を外してくれている。

「よーしよし、これを外したら楽になるだろ、な?」

ミルののんびりした調子に安心したのか、少し嫌がっていた竜もおとなしく鞍を外させてくれたようだ。その時、かさりと何かが落ちたような音がした。

「おっと、これは……」

バートも気が付いたようで、すかさず拾っている。

「これ、ウェリ栗のイガじゃねえか」

「ウェリぐり」

好物の名前に思わず反応した私である。

「リア、これは栗の外側の奴で、食べられねえ」

「しってるもん」

栗のイガくらい知っている。だが、バートが見せてくれたそれは、私が知っているものよりも硬くてイガイガしていた。

「これが鞍との間に挟まっていたのか。あーあ、まだ何本かイガが刺さってんな。抜いていいか」

「キーエ!」

お願い。

ミルの言葉にラグ竜が鳴く。

私は傷のところは見ていないが、イガを抜くときにミルの腕に力が入っていたから、だいぶ深く刺さっていたに違いない。それは苦しかっただろう。

「キーエ」

痛くなくなった。

「よかったですね。でもどうしてイガが?」

人が何かして、パンって鞍を叩いたら、痛くなった。

「つらかったですね。それで走り出したんですか」

「キーエ」

そう。走っても走っても痛かった。

「そうですか」

兄さまはラグ竜の頭を抱くようにして、頬をぽんぽんと優しく叩く。

「城の竜舎で手当てをお願いしてもいいですか」

怪我をしていたラグ竜は、無事に城に連れていかれた。薬をつけて一晩落ち着かせたら、草原に放されることだろう。

「考えたくはなかったが、やはり人為的なものか」

ギルバート殿下の声には苦さが宿っていた。

「ですが兄上、今は虚族の時間です。犯人を追うわけにもいきません」

ヒューが悔しそうに答えている。それを聞いてバートが私を抱きあげ、懐かしそうに、そして少し悔しそうにつぶやいた。

「トレントフォースの襲撃事件の時も、そして道中の襲撃事件の時も、やっぱり夜で、相手を突き止めることはできなかったなあ」

「あんぜん、だいじ」

夜の準備をしてから犯行に及ぶ犯人と、被害を受けて、それを追う側とでは、まったく状況が違うのである。

「サイラスの時は、イースターが背景にあった。国が背景にあれば、それは資金が潤沢だろうな」

バートの言葉に、思わず数人がファーランド一行に目をやってしまったのは成り行き上、仕方がないだろう。

「な! まさかファーランドを疑ってはいないでしょうね。いちおう第一王子がこの場にいて、危険だったというのに」

リコシェが慌てて否定したが、そもそも誰もカルロス王子一行を疑ってはいない。カルロス王子一行は。そして私と同じことを考えていたのか、疑いを直接口に出したのは、遠慮のないアリスターだった。

「なあカルロス殿下、あんた恨まれたり、後継者争いに巻き込まれたりしていないよな」

さっきまで町の賑わいを熱心に見ていただけのカルロス王子は、それでも話の流れはつかんでいたようだった。だが、何を聞かれているのか理解できなかったようで、答えるまでに一瞬間があった。

「ファーランドには後継者争いなどない。私がこちらに遠出できるくらい現王の治世は安定しているし、私が王位を継承することに異を唱えられたことは一度もないぞ」

「野心家の弟とか妹とか、叔父とかはいないのか」

「いない。王になるなどという面倒なことは、一番上に押し付けるに限ると皆思っているようだ」

ヒューが頷きかけて慌てて顔を動かさないようにしたのを私は見てしまったが、気がつかなかったことにする。誰もが王様になりたいわけでもないようだ。

カルロス王子は、アリスターに素直に返事をしていたが、やがて何を聞かれていたのかやっと悟ったようで目を見開いた。

「もしかして、私を狙った犯行だと?」

「その可能性もあると思ってさ」

四侯の血筋と言えど、王族に対してこの物言いは本来なら不敬に当たるだろう。だが、主催者側のウェスターが、客人であるファーランド側に、お前のせいでないかとは聞きにくい。失礼な言い方をしたとしても、まだ子どもであると言い張れるアリスターはいい仕事をしたと言える。

「カルロス殿、秘書官殿も、一応心当たりがないかどうか考えておいてくれ。そしてすまないが」

ヒューが私たちのほうを見た。これには兄さまではなくギルが答えた。旅のこまごまとした責任は兄さまだが、政治向きの話は迷いなくギルに頼っているのがわかる。役割分担がしっかりしているのだ。

「ええ、私たちですね。王族に四侯、数も多いですし、心当たりは皆で出し合ってみます」

「ファーランドにしてもキングダムにしても、その可能性はほぼないとは思っているが、そうしてくれると助かる。だが、やはり犯人として有力なのは、シーベルに結界を張るということを納得できないウェスターの者だろうな」

ヒューは頭が痛いと言わんばかりだ。

「だが、結界箱の使用は民の安全のためだ。うまくいかなかった場合に、領都の民を危険にさらしかねないという以外に反対する理由はないはず。あるとすれば、ここに人が集まり発展することで損をするところ。つまり」

ヒューは具体的には何も言わなかったが、皆の頭にはケアリーという名前が浮かんだことだろう。

「だが、当の本人が巻き込まれるところにわざわざ来るだろうか。しかも、大事な跡取りを連れて」

ヒューの疑問も、同じく皆の頭に浮かんでいたことであった。

「くる」

そう言い切った私に、視線が集まった。

「だいさんおうじ、リアをさらったのに、シーベルでへいきなかおしてた」

「そうだな。まさか犯人なら、私たちの前に堂々と来たりしないだろうと、あの時は思ったのだったな」

だが、結果的に犯人は第三王子だった。

「つまり、犯人は自分ではないことをアピールするためにわざわざギリギリの時間に顔を出した可能性があるということか」

「でも、証拠がない。決めつけてもいけないでしょうね」

ギルがそうまとめた。

「ただ、闇雲に犯人を捜すのではなく、意図をもって探したほうがいい、それは確かだと思います」

結界箱の初めての発動は、民によくわかるように門の前の広場で公開された。だが、二回目以降は城の中で行われることになる。

だから、チャンスはこの一回。一番最初に評判を落とすことで、危険だという噂を流し、シーベルに人が集まらないようにする。そういう意図でこの犯行を行ったと考えるのが一番わかりやすい気がする。

「証拠がない。すぐに跡を追うわけにもいかない」

私一人がさらわれたのとはレベルが違う。たまたまバートたちが機転をきかせたから救われたが、王族や四侯に危害が及ぶかもしれなかったし、兄さまが予備の結界箱を持って来なかったら、町の人が虚族に襲われたかもしれなかったのだ。

だがそれについては後で聞いたら、大丈夫とのことらしい。結界に何かあった場合、大きな鐘の音を乱打して知らせることになっているそうだ。その場合は城も含め、大きな店、宿などが室内を開放することになっており、そこに一時的に避難することになっているという。

「訓練もしたぞ」

ヒューが鼻を高くしたのも無理はない。私はとても感心したのだった。

「とりあえず、民はそのまま結界のある夜の町を楽しんでいる。私たちも、町に繰り出そうではないか」

ギルバート王子がにっこりと笑った。

「リア、あのおんがくのところ、いきたい!」

「たべものでなくていいのか?」

ニコが大丈夫かという顔で私を見るので、思わず頬をぷうっとふくらませてしまった。そんなに食いしんぼうじゃないと言おうとしたが、その時町から肉の焼けるいい匂いがしてきたから、おなかがぐうっとなってしまった。

だが、恥ずかしくなんてない。だって幼児だもの。私は堂々と宣言した。

「たべものもいきたい」

「それでこそリアだ」

いろいろあったが、その日は音楽に合わせて皆と踊ったり、大きなお鍋で炒ったウェリ栗を食べたりと楽しく過ごすことができた。

夜に出かけるということに不安が少し残った顔の町の人もいたが、私たちが堂々と楽しんでいるところを見て、安心したようだったと聞いた。少しでも役に立ったのなら幸いである。

帰ってきてうとうとしている私とは違って、兄さまは部屋を出入りしながら、ギルと何か話し合っていた。いつもは寝るまで側にいてくれるのを寂しく思いながらも、そのくらい大変なことが起きていたのだということは理解していた私は、一人、夢の中に旅立った。