作品タイトル不明
勝ち取った自由
「ふむ、こういうことでしたか」
「きゃっ」
「うわっ」
頭を突き合わせていた私たちは思わずのけぞるほど驚いた。
「に、にいしゃま。どうちて? がくいんは?」
「おや、リアは喜んではくれないのですか。せっかく学院を早引けして帰って来たというのに」
「おかえりなしゃい」
驚いたことは驚いたが、兄さまに会えたのは嬉しいので手を伸ばすと、そのまま抱っこしてくれた。学院の制服のままで帰ってきたようで、かっこいい。
「殿下は俺が抱っこしようか」
「うむ。よろしくたのむ」
たとえ四歳になろうと遠慮などしないのがニコである。
「ジュードから連絡が来ましてね。リアと殿下の挙動があやしいと」
「じゅーど? きょう、あってないのに。あ」
ハンスがさっと横を向いた。
「はんす!」
「リア様、俺はリア様にお仕えしているが、給料はご当主からいただいているんでな。文句はご当主に言ってくれ」
「おとうしゃまか……ちぇっ」
「リア。言葉遣い」
「あい」
思わず令嬢らしからぬ言葉遣いをしてしまったことを反省し、口を尖らせるだけにする。
「ハハハ! やっぱりリアは面白いなあ」
ギルがニコを抱えたまま大笑いしているが、侯爵令息としてその態度はいかがなものか。
「前はニコ殿下がいてくれたらリアを止めてくれるかと思っていましたが、最近そうでもないですからね。この二人が揃うと危険なんですよ」
兄さまがぶつぶつ言っているが、要は城の者がさぼったからいけないのである。
「お父様から、リアが熱の変質までやったところは聞いていますが、さすがに結界まではやらないだろうと話していたところだったんですよ。それでも念のためにと監視を強めていたら、これです」
監視されていたとは知らなかった。
「まあ、それでもクリスを巻き込まないところは良心的だろ。こうして二人になるまで待ったんだろ」
「うむ。クリスがきょうみがあるならとおもったのだが、どうやらまどうぐにはかんしんがないようだ」
ニコが残念そうだ。確かに、クリスはもともと勉強嫌いではある。というか、六歳くらいの子どもが魔道具に興味を持たないのは普通だ。もっと大きくなっていろいろなことを知ったら興味が出てくるかもしれない。その時仲間に引き入れればよい。私は大きく頷いた。
「クリスがおおきくなりゅのを、まちゅ」
「ぶはっ」
ハンスよりも笑いの沸点が低いのがギルである。
「二歳に大きくなるのを待たれている六歳ってなんだよ。笑っちゃうだろ」
「笑い事ではありませんよ。結界の共鳴と同じです。心配事が二倍どころか何倍になるかと思うと、今から心臓がドキドキします」
「ルーク、うまいこと言うな。ハハハ」
「ギル」
ギルが兄様に叱られているが、なんにせよ、ばれてしまうのは想定済みである。そしてお父様たちがここまでやるのを見逃していたのには大きな理由があるのだ。
魔石だ。
明かりや熱の魔石は、小さくても十分役にたつ。だが結界を発動させるためには、大きい魔石が必要だ。それはバートたちハンターが一年に一度、あるいは数年に一度手に入れられるかどうかというくらい稀なものである。そしてアリスターがやっていたように、頻繁に魔力を充填するか魔石を交換せねばならないため、結界箱は購入するにも高額であり、維持するのも難しいという貴重品なのだ。
結界箱はともかく、そんな魔石を私は持っていない。正確にはお父様の魔道具部屋にあるらしいという噂は聞いているので、屋敷の中にはあるが、私の手には入らない。
つまり、いくらマールライトをいじくりまわしても、肝心の魔石がなければそれ以上のいたずらはできないのである。だが、好奇心は満足させることができた。
いつかアリスターが大きくなって魔道具を作る人になったら、私のマールライトで小さい結界箱を作ってもらおう。それをバートたちに使ってもらうのだ。
「さて、リアがまた何か考えていますが、今日はよい知らせがあるのですよ」
兄さまは私をそっと地面に下ろした。ギルもニコを下ろしたので、私たちは並んでわくわくと兄さまの言葉を待った。
「ウェスターから招待状が来ていますよ」
「うぇしゅたー?」
私は一瞬意味が解らなくて首を傾げた。
「来年の春、ついに領都シーベルに結界箱を起動させるようです」
「ああ! ひゅーがいってた!」
この間ウェスターのヒュー王子が、帰り際にそう言っていたではないか。招待状が来たとわざわざ教えてくれるからには、私も招待されているのだろうか。
「ええ、もちろん。リアも招待されています」
兄さまが優しく微笑むので、私は嬉しくて思わず飛び跳ねそうになった。だが、はっと気が付いて隣を見た。
ニコが静かな目で兄さまを見ている。四侯は成人していなければ国境を越えられる。だが、王族は成人していなくても国境は越えられないのだ。
「よい、リア。わかっている。たのしいほうこくをまっているぞ」
「にこ……」
兄さまもこんな話をニコのいる前でするべきではない。私はすっかり喜んでいたくせに、兄さまを責めるような目で見てしまった。
「私から先にお話するのも僭越ですが、ニコラス殿下」
兄さまはニコの前にそっとしゃがみこんでにっこりと笑った。
「陛下から、許可が出たようですよ」
「きょか」
ニコの口がぽかんと開いた。
「春には殿下方も、いったんイースターから戻ってくるとのことです。既に王族が国境を越えないという不文律は破られた以上、この先こだわりすぎても仕方がないだろうと。アルバート殿下をとも考えられたようですが、もういっそのこと孫殿下でよいのではないかということになったようですよ。つまり」
「どうせリアが行くのなら、問題児はまとめてしまえってことだな」
「ギル。言い方があるでしょう」
つまり、ギルの言うことが真実ということだ。だがそんなことはどうでもよい。私はぽかんとしているニコの背中をパンと叩いた。
「にこ。いっしょに、いけりゅ」
「あ、ああ。ほんとうに、いいのか」
兄さまもギルもにっこりと頷いた。
問題児とひとくくりにされようとなんだろうと、自らの心のおもむくままに行動した結果、私たちは自由を勝ち取った。そんな気持ちだった。