作品タイトル不明
リアとニコの成果報告会
お父様は本当に有能だ。次の日には、ニコだけでなくオッズ先生やクリスまでも屋敷に来てしまった。
「くりしゅ!」
「リア! げんきそうね」
私がぎゅっぎゅっとクリスに抱き着くと、クリスは少しお姉さんらしくそっと抱きしめ返してくれた。もともとはお転婆なはずだが、さすがに年上の余裕である。
「それで、勉強ですが、城でやっていたように図書室で行うのですかな」
こちらは相当年上なのにそわそわとして落ち着かないオッズ先生である。
「オッズ、図書室だとあなたが落ち着かないだろう」
そしてお父様にあきれられている。結局は適度な広さがあって、余計なものがないからという理由で、ユベールの作業部屋を午前中の授業に開放することになった。
「私の作業部屋が……」
ユベールが嘆いていたが、オッズ先生のいつもの授業を少しだけ短くして、その分にユベールの魔道具講習が入ることになったので、効率がよいと言えばよい。
「ちょうどよいから、授業の進め方を殿下たちと一緒に学ぶとよい。今後何かの役にたつかもしれない」
今後どう役に立つのかわからないが、お父様に適当にあしらわれ、作業部屋で一緒に授業を受けることになったユベールである。だが、オッズ先生にしろユベールにしろ、午後は自由に自分の活動ができるのだから喜んでいいのではないか。
久しぶりに三人ちゃんと並んで、鉛筆を持ちながらの勉強はとても充実したものだった。ニコと一緒にどうオッズ先生から自主活動をもぎ取るか作戦を立てていたころには考えられなかったことだが、勉強というのはたまにきちんとやる分には楽しいものだ。
午後にはラグ竜の牧場に行ったり、外や屋敷の中で走り回ったりと、お城に勉強に行っていたころよりよほど活動的に過ごしていたが、クリスはフェリシアと過ごす日もあって、そんな日はニコと二人きりになることもあった。
そんな初冬の、風が穏やかで暖かい日のこと、ニコが少しそわそわして私に話しかけてきた。
「きょうのごごはすこしさむいが、そとのひろいところですごさないか」
私もニコと目を合わせないようにしながら返事をした。
「いいでしゅよ」
集中できていませんと、珍しくオッズ先生に叱られたりしながらも、私とニコはなんとか午前中の授業を乗り切った。そして向かったのは、いつもは走り回って遊ぶ前庭である。
私とニコは、向かい合って地面に座った。王子としても貴族令嬢としてもあるまじきことだが、私たちがそうしても注意する人は周りにはいない。既に慣れ切っているのだ。ハンスを始め、ナタリーもニコの護衛達も離れたところから私たちを見守っている。もっともハンスはといえば、私たちだけでなく、周りにも目を配っているからたいしたものだと思う。屋敷のこの場所は周りがひらけているから護衛しやすいとも言っていたので、適度に力を抜いているのだろう。
「では、いいか」
「あい」
私たちは合図しあうと、ポケットからごそごそとあるものを取り出した。マールライトだ。
「ためしてみたか」
「もちろんでしゅ」
相談していたわけではないが、きっとお互い変質を試しているだろうとは思っていた。冬の初めとはいえ、もこもこに上着を着せられた私たちは風のない暖かい庭で、マールライトをそっと地面に置いた。
「ひとつめがあかり」
「あい」
「リアはねつのマールライトをためしてみたか」
「あい。りょうりちょうにおねがいちまちた」
お父様の予想通り、私は料理長におねだりして、熱の魔道具も触らせてもらっていたのだ。もちろん、料理長がお父様に叱られないように、きちんと話は通してある。
「わたしはだめだった。ちかしいものがははうえとごえいくらいしかおらぬから、たのむばしょがなかった」
「りあがおちえましゅ」
「それをきたいしていた。ではみっつめ」
ニコが最後に別のポケットから出してきたのは、やはりマールライトだ。私もそっと反対のポケットからマールライトを取り出した。
「できたか」
「あい」
なんの変哲もないマールライトだが、これには結界の変質が付与されている。これには料理長の手助けも、ナタリーの手助けもいらない。自分の力だけで変質が可能なのだ。
私は毎晩、ひっそりと小さな結界の変質を浴びせ続けていた。
「いちにちじゅっぷん。いちゅか、かかりまちた」
「わたしはいちにちじゅうごふん。みっか、かかった。ただし、へんしつはしたが、このちからがあんていしているかはじしんがない」
明かりのマールライトも、私たちが変質させたものは、できが悪いと少しずつ力が失われてしまう。魔道具師がいつも原器を使って安定した力を与えているのには意味があるのだ。
「そとで、ひとつずつためすぶんにはもんだいあるまい。ちょうどごえいもはなれているし、どうせちいさいけっかいだ」
こういう道具類については、男の子のほうが一生懸命な気がするのはなぜだろうか。私は面白いとは思うが、ニコほどの熱意はないような気がする。
「では、こうかんちて、と」
お互いの結界のマールライトを交換する。
「まず、リアのマールライトにわたしがまりょくをとおしてみるぞ」
「あい」
ほわんと、ニコだけを覆う結界がマールライトから広がった。
「おお、みごとなものだ。リアのきらきらしたけっかいだとすぐにわかる」
初めて知ったが、どうやら私の結界はキラキラしているらしい。ニコは結界を確認するとすぐ魔力を注ぐのをやめた。
「ふたつきょうめいすると、こまるからな」
何をやっているかすぐにばれてしまう。今度は私がニコのマールライトに魔力を流してみた。
ほわんと、こちらは私とニコを覆うほどの結界だ。
「よる、ひとりでつくったからな。リアのようにちいさくしたほうがよかったか」
「だいじょうぶ」
注ぐ力の違いで大きさも変わるということがわかったのだから、これはこれでよい成果である。
「りあもわかりゅ。にこのけっかい、しじゅか」
「しずかとはなんだ」
要するに、自信に満ち、落ち着いているということである。普段のニコそのものではないか。
「ふだんのにことおなじ。ということは、りあのけっかいも?」
「ああ。ふだんのリアとおなじだぞ」
マールライトにも普段の自分がそのまま反映されるなど、ちょっと嫌かもしれない。その時後ろから声がした。
「ふむ、こういうことでしたか」