軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

簡単だもの

「そのまま、べんきょうをしゅしゅめましゅ」

「はあ。はい。ではやりましょうか」

私のきりっとした指示に、ユベールは動き出した。原器の入った箱をそのままに、今度は壁からローダライトとマールライトの石板の入った箱をそれぞれテーブルの上に並べている。どちらも、私の持っているウェスター製の魔道具のものよりだいぶ小さい。

「ローダライトの性質は変わらなくて、マールライトの大きさに合わせます。そして明かりの原器はこちら」

原器の箱から大切そうに持ち上げたのは、持ってきたのと同サイズのマールライトだった。

「これに魔力を注ぎます」

ふわっと、ユベールの魔力がマールライトに吸収され、すぐに変質した魔力が放出されるのが感じられた。ユベールはそっと原器を箱に戻すと、私たちにわかりやすいように手のひらを上にしてそっと魔力を発した。

「にこ、ゆべーるのて、にぎって」

「こうか」

ユベールの左右の手をそれぞれ握って、発している魔力を確認する。その私の手にお父様の手が重なった。背中に覆いかぶさると私のお腹を左手で抱え、右手を伸ばす感じだ。背中が温かいしお父様にギュッとしてもらっているのが嬉しくて、思わずニコッとしてしまう。

しかし、ユベールは驚いてビクッとした。

「変質が安定していない。しゃっきりしろ」

「は、はい!」

同じ一族とはいえ当主にいきなり手を握られたらそれは挙動も怪しくなるというものだ。お気の毒にと私は心の中で手を合わせた。

しばらく揺らいでいたユベールの魔力は、叱られて集中したのかすっと安定した。

「ふむ。実際の過程は初めて見たな。おもしろい」

お父様がすっと手を離したので、私もニコもユベールの手を離した。お父様の反対の手は私のお腹に回ったままだ。私はその手をポンポンと叩いた。

「おとうしゃま、べんきょうちゅうでしゅ」

「だめか」

「だめでしゅ」

お父様はしぶしぶ手を離した。まったく、困ったものだ。

「ふむ、なんのべんきょうか。まりょくくんれんともちがうようだが」

ニコが作業部屋をあちこち見渡して、興味津々だ。

「まどうぐのべんきょうでしゅ」

「まどうぐか。ではこの、あおとあかのいしはなんだ」

結局基礎からの説明になったが、さすがはニコ、すぐに仕組みを理解し、ユベールに問いかけた。

「つまり、けっかいのまどうぐも、しくみはこれとおなじということか」

「驚いたな」

驚いたせいで敬語を忘れているので、警護の者が思わず身じろぎしているが、ニコはまっすぐな瞳でユベールを見ている。

「そなたのこえはきいたことがある。すがたにもみおぼえがある。けっかいのまのぎしだろう。そこからおもいついただけのことだ。なにをおどろくことがある」

ユベールは顔を蒼ざめさせると、慌てて謝罪を始めた。

「あ、あのときのことは、その」

「すでに済んだことだ。慌てるな」

そしてお父様にぴしゃりと叱られている。

「あのときはああするしかなかった。わたしもリアもちゃんとりかいしている。しんぱいするな」

「殿下……」

私もニコも、なんとよい子だろう。私はうんうんと頷いた。それはそれとして、忘れないうちに変質を試してみないと。

私は初めて自分で結界を作り出した時のことを思い出していた。自分なりに工夫を重ねてやっと結界を作れるようになった。兄さまもお父様もいきなりできたが、普通はそんなにすぐはできないものなのだ。

「まじゅ、ふつうのまりょくをだしゅ」

私はわかりやすいように声を出して、それから魔力をふわんと体の周りに出した。結界を出すときと同じだが、今度は魔力には何の色も付けない。純粋な魔力だけだ。

「それを、ゆべーるのへんしちゅに、かえりゅ」

ユベールの変質と言う言い方が自分でもおかしくて思わず笑いそうになるが、我慢する。先ほどの記憶を頼りに、すっと魔力を変質させた。

要は結界を作るのと同じ仕組みだ。明かりの変質については、魔道具に触ったのと、ユベールに触ったので二回、経験があることになる。

「できた」

私はその魔力をまとったまま、自分の明かりの魔道具の苔の部分にそっと魔力を流し込んだ。

ピカッ。

「うお! リア、まぶしいぞ」

「きゃっきゃっ」

ニコが驚いたので思わず喜んでしまったのだが、確かに明かりはついた。しかも、だいぶ明るい。

「せいこうでしゅ」

「お、驚いた」

ニコの分と合わせて驚いたのはこれで五回目です。

「リア、さっきのまりょくをまねしたのか?」

「あい。けっかいをちゅくるときみたいに、まりょくをかえていきましゅ」

「なるほどな。ちょっとこれをかしてくれないか」

「いいでしゅよ」

私は苔の詰まったところを貸してあげた。

「ふつうにまりょくをそそぐと」

ピカッ。

「あかりはそれだけでもつくのだな。そのまりょくをさきほどのぎしのてのまりょくへとかえていく。けっかいにかえるのとおなじように。こうか?」

苔の光は、ニコが魔力を調整するたびに明るくなったり暗くなったりを繰り返した。

「にこ、まりょくをぎゅっとちぢめて、ぱっとはなしゅかんじで」

「そうか、ふくざつなまりょくゆえ、どうしたものかとなやんでいたが、そういうしくみか」

ニコは私のアドバイスに納得したのか、椅子の上で少しもぞもぞとして姿勢を正すと、一度魔道具をテーブルの上に置いた。

「まりょくをだす。そのまりょくをギュッとちぢめて、パッとはなす。こうか」

そして静かに苔の部分に手を触れた。

ピカッ。

「まぶちい。ふふっ」

今度は私がやられる番だった。私はおかしくてついに笑ってしまった。

「せいこう、だな?」

「せいこうでしゅ。まぶちい」

「ああ。まぶしいな」

「殿下、失礼」

お父様がニコからすっと苔を取り上げた。苔をうまく光らせることができた私たちは十分満足である。キラキラした瞳でお父様を見上げた。

「先ほどの変質。こうか」

お父様が放出した魔力は、まさに明かりの原器のまりょくそのものだった。魔力を体の外で変質することなく、最初から変質させたものを作る。これだからできる人は違うのだ。私はちょっと悔しくなった。

ピカッ。

「ふむ。こういう仕組みか。事業はやっていても、魔道具に関しては魔道具師に任せきりだからな。ユベール、よい勉強になった」

「は、はい。ええ……」

お父様がまるで普通の勉強のようにあっさりとこなすから、ユベールだって戸惑いを隠せないではないか。

「これは魔道具師が数年かけて学ぶものでして。そもそも、変質を理解できるまでが一苦労、そしてその変質を安定させるまでがもう一苦労なんです。それをこうもあっさりと……」

ガクリとうなだれているが、仕方がない。

「王族に四侯。キングダムが安泰なわけだ」

思わず漏れた護衛の一言がすべてを表す。だが一言言っておく。

「あんたいではなかったでしゅ。わしゅれてはだめ」

この間の事件を忘れてはならないのだ。