軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

きれいな人と小さい人

ユベールが驚くのは別に構わない。しかし、私はユベールを驚かせたかったわけではないので、正直どうでもよかった。

「どうちて、きんぐだむのまーりゅらいと、ちいしゃいの?」

「どうしてと言われましても、小さいほうが魔道具が小さくて便利だからなのですが、そうですね」

正確に言うと、聞きたいのはなぜキングダムのマールライトは小さくて性能がいいのかということである。

「魔道具はたくさん使われていますが、基本はたったの三つだということはご存じでしょうか」

「あい。あかり、ねちゅ、けっかい」

「その通りです。リア様、よくできました」

おお、なかなか家庭教師らしくなってきたのではないか。私は神妙な顔をして椅子の上で足をぶらぶらさせた。作業台は大人用なので、幼児にはちょっと高すぎるのだ。顔が神妙なだけでも十分と言えるだろう。

実際、魔道具はその三種類しかなく、一番使われるのが熱を発生させる魔道具である。ウェスターにいた時のように単純にお湯を沸かすものから、調理に使うもの、暖房に使うもの等さまざまである。暖房に使うものなどは、城の結界の間のように、いくつかの魔石を組み合わせて使っていたりする。

大きい魔石はそうそう手に入らないので、小さい魔石を組み合わせて使うことを考えたのだと思う。

「魔道具の箱、つまり仕組み自体は単純で、木工の細工ができる者なら誰でも作れます。つまり辺境の魔道具師は、魔石を手に入れられる者なら、誰でもなれます」

「あい」

私はブレンデルの魔道具店の様子を思い出していた。それにバートが自分で作ったという魔道具のことも。

「ですが、キングダムの魔道具師は違います。この小さいマールライトの石板を作る力がないとなれないのです」

「まーりゅらいとを、ちゅくるちから」

私は首を傾げた。マールライトそのものは辺境もキングダムも同じ。石板の形に整える以外にどういう違いがあるのか。

「形のことではなく、つまり、その」

私のほうをちらりと見たユベールは、幼児になんと説明したものか悩んでいるのだろう。私は静かに待った。

「マールライトを効率的に使えるよう、変質させる力がないとなれないのです」

「へんしちゅ」

「ああ、やっぱりわかりませんよね。変質、うーん、なんと言い換えたらいいのか」

「リア様はわかっていらっしゃいますよ。わからなかったらきちんと聞き返してくださいます。自分だけで完結せず、ちゃんとリア様を見てください」

頭をかきむしるユベールにあきれたようにアドバイスをくれたのはナタリーだった。珍しい。

「へんしちゅ、りあ、みてみたい」

どのように変質させるのか。そこが要なのだ。私の目はキラキラしていたと思う。

「ええ……。でもですねえ。これは魔道具師の秘密というか、そうそう一般の人には見せられないものというか」

「みても、おなじこと、できないでしゅよ」

おそらく秘められた技術とかそう言うのではない。単に、魔力があって魔力の扱いが精緻なものだけがキングダムの魔道具師として活躍できるということだと私は理解した。

「確かに、同じ魔道具師でもできない人は何をしてもできませんからねえ」

「ユベール」

「は、はいっ!」

ユベールと呼びかけたのはナタリーである。跳ねるように返事をしたユベールにナタリーは静かに語りかけた。

「ユベール、あなたはお城の結界箱の件で不当な扱いを受け、とても大変でしたね」

「ナタリー。なんとお優しいことか」

ユベールは感動して涙ぐまんばかりだ。ハンスが微妙な顔をしているが、どうやら笑い出したいのを我慢しているようだ。普段からそうして我慢していればいいのに。

「そこから救い出してくれたのは」

「もちろん、ご当主です!」

「では、その愛娘であるリア様の望みは」

「もちろん、かなえます!」

ナタリーが口元に笑みを浮かべた。私はその珍しさに驚いてぽかんと口を開けるところだったが、ハンスは思いっきり口をぽかんと開けていた。間抜けだ。

「さあ、ではやることはわかっていますね」

「はい! リア様の願い通り、マールライトを変質させます。なあに、魔道具師にとっては単なる作業に過ぎませんからね」

それならもったいをつけずに最初からやればいいのにと思った私は間違っていないと思う。

ユベールはいそいそと壁に置いてあった鍵のかかった箱を持ってきた。昨日お父様が何か言っていた奴だ。確かそれは。

「げんき」

「リア様、なぜそれを……。ああ、昨日一度聞いただけで覚えていたのですか。驚いたな」

三回目の驚きである。私は冷静に頭の中で数を数えた。

「そうです。もともと各工房には、マールライトの変質の見本になるものが置いてあって、それが原器といいます。魔道具師が一人前に仕事をするためには、その原器と同じものを作れねばなりません。それと同じものを複製できるかが魔道具師の力なのです」

要するに正確にコピーする力ということなのだ。

「ですが、いくつもマールライトを変質させているうちに、その変質が自分の中であやふやになってしまうのです。ですから時々この原器に魔力を通し、自分がずれていないかどうか確かめるのが正しい魔道具師の在り方になります」

私はほんの少しがっかりした。魔道具師と言うのは日々研究を欠かさず、新しい魔道具を作ろうと努力している研究者なのかと思っていたのだ。

「私はお城の結界箱の技師になるまでは、オールバンスの工房にいて結界箱を改良する仕事をしていたんですよ。原器は大切ですが、もっと小さく、もっと効率よくと考えるべきだと思うんです。師匠には正確に模倣できることをおろそかにしてはならないと叱られましたけど」

私は即座に反省した。もちろん、マールライトの変質を正しく行える魔道具師がいるからこそ、キングダムでは庶民に至るまで明かりや熱の魔道具が買えるのだし、ユベールのように工夫をこらそうと努力している魔道具師もいるのだ。

「しゅごい」

私はユベールを褒めたたえるためにパチパチと拍手をした。

「そんな。私なんてたいしたことはないです。でも嬉しいな。オールバンスのお屋敷に来たら、きれいな人と小さい人にたくさん褒めてもらえた」

きれいな人とはナタリーのことで、小さい人とは私のことだろう。ほわほわと喜んでいるユベールには悪いが、たくさんは褒めていない。私はちらりとナタリーと目を合わせて肩をすくめた。考えていることは同じである。ここは黙って喜んでいてもらおう。

「じゃあ、さっそくみしぇてもらいたいでしゅ」

「わかりました! あれ?」

今度は快く頷いたユベールが首をかしげるより先に、ハンスがずいっと扉の前に移動した。

「お待ちください! お待ちくださいませ!」

遠くからでも聞こえる慌てた声は、ジュードのものだ。

「なに、あんないはいらぬ。おんしつのばしょはちゃんとおぼえているからな」

「いえ、そうではなく。先触れもなしに、困りますという話を……」

足音の数は複数。ハンスがため息をついて力を抜いた。

「あーあ、平和な日々は終わっちまったってことか……」

そして私のワクワクする日々が始まるかもしれない。