軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これから

「たりぬか? だいたいのものはこれでかえるだろうとちちうえが」

「逆だ。多過ぎんだよ。それにしても父上ときたか。仕方がないよなあ」

店主は一瞬天を仰ぐと本当に困ったようにニコの後ろを見た。いかにも貴族という子どもにどこかで両替してこいとも言いにくいのだろう。私もよく考えたらお金を持っていないし、後ろの大人に頼るしかない。

「それにしても、金貨だと釣りがねえんだよ。困ったな」

「ああ、とりあえずこれでくれ」

銀貨を一枚ポンと出してくれたのはバートだ。

「あいよー。ひとつにつき銅貨二枚だから」

「ふたつでどうか4まい。ぎんかはつまり、どうか10まいぶんくらいか。だから、おつりは6まい」

「正解だ!」

さすがニコである。では、金貨は銀貨10枚なのだろうか。私ははてなと首を傾げた。ウェスターにいた時もお金は全く触っていなかったので、知らないのだ。キングダムの地理は習っているのに、お金の使い方は習っていない二歳児である。

「リア様、違います」

静かに控えていたナタリーが、私が何も言わないのにいきなりそんな説明を始めた。なぜ考えていることがわかったのだろう。

「銀貨10枚で大銀貨1枚に。大銀貨10枚で金貨1枚になります」

「しょれをにこにもたせたの」

「そうなりますね」

銀貨一枚、1000円くらいの感覚だとすると、金貨一枚は10万円くらいということになる。それはお釣りがなくて店主も困るだろう。あったとしてもポケットから金貨を出したニコがそのお釣りをどこにしまえるというのか。

「らんおじしゃま……」

「うちの王様もなんだかずれてるけど、キングダムの王様もたいがいだよな」

王様などと大きな声で言ったら、ニコの正体がばれてしまうではないか。私は焦って周りを見たが、皆生ぬるい視線で見守っているだけだ。そういえばそもそも容姿でとっくにばれていたのだった。

「金貨は俺が預かって最後にちゃんと清算するから、とりあえずそのお釣りと銀貨をもう一枚持ってろ。お子様ならそれでも十分足りるからな」

「りあは?」

「ニコに出してもらえ」

「あい」

一応聞いてみたが遠回しに駄目だと言われた。おごるおごられるということではなく、二歳だからお金の管理は難しいということかと思い、素直に頷いた私である。ニコも同じように頷いて、銀貨と銅貨をぷくぷくとした手でいそいそとポケットにしまっている。

「リアがたべたいものがあったら、わたしにいうのだぞ」

「あい!」

いくらでも言いますとも。しかし、現実は幼児には厳しかった。肉巻きとは、薄めのパンにお肉の炒めたものを挟んでくるっと巻いたものだったのだ。つまり、

「おなかがもういっぱいだ」

「いっこをはんぶんにしゅればよかった」

ということである。しかし悔しがっていても仕方がないので、次にいくしかない。

「のみものなら、いけましゅ」

「そうだな。なにかさっぱりするものがいい。あれか!」

次は町の角の店だ。さっそく私の鼻の出番だ。

「くだもののにおいがしゅる」

「おじょうちゃん、いい鼻してるねえ。今の時期、秋の果物には少し早いから、乾燥した果物の皮が入っていい匂いのする水だよ。甘くはないけどね」

「うむ。それをひとつくれ」

「銅貨一枚だよ」

店の人は一つでいいのかという顔をしたが、何も言わずに銅貨と引き換えに大ぶりのカップで飲み物を渡してくれた。ニコはカップを慎重に受け取った。

「ほら。こぼさずにのむのだぞ」

「あい」

それをもちろん私に渡してくれるニコ、さすがである。私はカップを両手で持って、ごくごくと飲んだ。

「おいちい! あい」

半分以上残っている飲み物をニコに手渡すと、

「ああ!」

というお世話係の声が響く中、ニコはそれをやっぱりごくごくと飲んだ。

「さっぱりしていていくらでもはいりそうだな! ほら、さいごはリア」

「あい」

私が飲み干したカップを、ニコがお店に返しに行く。店の人がなんだかニコニコしてそれを受け取った。

「いいお兄ちゃんだねえ」

「おにいちゃんではないが、としうえだからな。わたしがめんどうをみないと」

ニコが当然のように頷いた。私は年下なので面倒を見てもらって満足である。

私はニコと二人でさっきから町を満喫しているが、そういえば他の人たちはどうなのか。ふと気になって後ろを見ると、皆がぞろぞろとついてきているではないか。

「みんな、しゅきにちていいのに」

別に私とニコのために町に来たのではない。特に兄さまとギルは、自分たちだって行きたいところがあるだろうに、なぜニコニコと私たちを眺めているのか。

「俺らは、寮から抜け出してよく来てるから、いてっ!」

「ギル! 今年学院を卒業するとはとうてい思えないうかつさですね」

ギルに兄さまの肘打ちが入ったのが見えた。

「それに私はギルほど外に出たりはしていませんよ。ええ、ギルほどは」

「俺ほどじゃないだけで出てるんだろ、いてっ」

懲りない男、それはギルだ。私は聞かないふりをしてあげることにした。つまり、なんだかんだ言ってみんな夜の町に出たことはあり、町のようすをよく知っているということなのだろう。

楽しそうに夜の街を歩くギルや兄さま、それに、楽しそうにしながらもあちこち観察するのに余念がないバートたちを見ていると、貴族であっても、ウェスターの人であっても、町が、人が好きなんだなというのが伝わってくる。

アンジェおばさまはこんなふうに夜の町に出てきたことがあっただろうか。四侯が結界を維持するために頑張っているから皆が笑顔で夜を楽しめるのだと、実感したことがあっただろうか。

「この笑顔を守りたいと思う人もいれば、この笑顔のために自分が犠牲になっていると思う人もいる。一方でうちのご当主は、正直町の人が笑顔かどうかすら気にしたことはないんじゃないか。人なんて、いろいろですよ、リア様」

「はんす……」

「そのせいで、リア様ほどじゃねえが、えらくめんどくさい目にあいましたからね、俺は」

ハンスは結局イースターに行きっぱなしだったのだ。

「けど、そもそもどうだったかなんて考えても、過去は変えられねえんです。これからどうしたいかですよ」

「これから」

ハンスは静かな顔で町を見渡した。キングダムの人全部のこれからを考えるなんて、二歳児には大きすぎる課題だ。

「とりあえず、これからあそこのやきがしをたべにいこう。ひとつをはんぶんこにすれば、なんとかはいるだろう」

「あい!」

だから、私のこれからはこのくらいでいい。こんなふうに毎日を一生懸命生きていけばいいのだ。元気に食べて飲んで、明日を楽しみに暮らしたら、きっといつも明るいところにいられるだろうから。