軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪意

お父様の重い報告を聞いてから数日後のことだった。その間、お父様と兄さまが何やら真剣な顔で相談をし、時折私のほうを見てひそひそと話をしていたのは知っていたが、私は知らないふりをしていた。

何も知らないよりは知っていたほうがいい。だが、知りすぎて身動きを取れないのもいやだ。だったら、聞かないでいるのが一番だと思ったのである。

しかし、お父様は私に話すことに決めたようだ。

「リア」

「あい」

私は聞く覚悟を決めてお父様と向き合った。

「あー。その、レミントンだが」

「くりしゅ?」

「違う」

クリスのことだけ聞きたいなあと思いつつ、黙ってお父様の話の続きを待つ。

お父様はあっちを見たりこっちを見たりしてなかなか話し出さなかったが、最後は覚悟を決めたように私のほうを向いた。

「レミントンが、というよりアンジェが、最後に四侯の皆と顔を合わせたいと言い出してな」

「よんこうのみんなに」

共に魔石に魔力を注ぎ続けてきたお父様たちには、私にはわからないつながりがあるに違いない。私は神妙に頷いた。

「いってらっちゃい」

「違うんだ」

お父様は慌てたように顔の前で手を振った。

「四侯の血を引くもの全員に会いたいと。幽閉先に行く前に」

最後の別れということだろうか。

「かぞくだけでいいのに」

「……その通りだと思う。私なら、それが今生の別れとなるのなら家族だけでいい。だが、それが最後の望みだというのならかなえようということになった。つまり」

「りあも?」

「そういうことになる。たまたま王都にいるということで、アリスターもということになった」

いったいアンジェおばさまが何をしたいのか私には理解できなかった。罪を償いに行く自分を見せて何が楽しいのだろうか。私だって、そんな悲壮な場所に行きたくはない。クリスとフェリシアと静かな語らいの時間を持てばいいだけなのに。

だが私は聞き分けのいい幼児である。

「わかりまちた」

行って、兄さまとお父様の隣で静かにしていればよい。そう思い、素直に頷いた。

お父様と兄さまに連れられてついた先は、いつも行っている王城だった。ただ行き先が王子宮ではなく、私の知らない部屋だったというだけだ。条件反射でニコを探したが、ニコは四侯ではないのでいるわけがなかった。

その代わり部屋にはクリスもフェリシアもいた。駆け寄ろうかどうか迷った私に、クリスは勢いよく飛びついてきた。

「リア、あいたかったわ」

「りあも。りあもあいたかったでしゅ」

私たちはぎゅうぎゅうと抱きしめあった。一方でフェリシアは罪悪感のこもった眼で私を見ている。自分の母親のせいで私がつらい目に遭ったということを、しっかりと自覚しているのだ。私は大丈夫というように頷いてみせた。

そのフェリシアの後ろには、守るようにスタンおじさまとギルとアリスターが立っている。そうやってみると、この三人は本当にそっくりな色合いだ。おそらく、私とお父様とお兄様も同じようにそっくりと思われていると思うと、こんな時でもなんだか笑い出しそうな気持ちになる。

でもアリスターはそんな家族のもとからすたすたと歩いてきて、私の後ろに立った。スタンおじさまとギルは一瞬寂しそうな顔をしたが、その後苦笑したのは仕方がないと思ったからだろう。

たとえ今、王都のリスバーン家に滞在していて、リスバーンの一員として過ごしていても、アリスターの中では、自分は私を半年育てた保護者という認識なのだろう。私はひたすらにそれが嬉しかった。兄さまはものすごく不満そうな顔をしながらも、横にずれてアリスターに場所を少し譲った。

そして私に近寄ることをためらうフェリシアの代わりにギルがやってくると、クリスの手を引いてリスバーンのところに連れて行った。

四侯がおさまるところにおさまり、少し居心地の悪い沈黙が続く中、私たちが入ってきたところとは違うドアが開いた。入ってきたのはアンジェおばさまと、その旦那様だ。ちゃんとした扱いを受けていたようで、いつもと変わらぬ服装にいつもと変わらぬ態度になんとなくほっとした空気が流れた。

「アンジェ。ブロード」

ささやくような声がお父様の口から漏れ出たのが背中に聞こえた。私は、クリスのお父様がブロードだというのをこの時初めて知り、そしてその目がクリスの優しいミルクティー色と同じだということも初めて知った。

「お母さま! お父さま!」

クリスが駆け寄っていく。さすがのアンジェおばさまもクリスのことをギュッと抱きしめた。

「クリス。元気そうね」

アンジェおばさまはクリスに手を回したまま顔を上げると、リスバーンの方を向いた。

「スタン。ジュリアにも、感謝するわ」

「なんでもないことだ。私たちが大事に育てる」

「ありがとう。フェリシア」

クリスと違い、自分に駆け寄ろうとはしないフェリシアをアンジェおばさまは少し寂しそうに見つめた。だがその口から出た言葉は、私たちを驚かせるに十分だった。

「なぜ私たちから離れたの」

「お母様……」

フェリシアの声にあったのは驚きだけではなかった。戸惑いと、あきれと、怒りと。アンジェおばさまの言葉は、キングダムを危険にさらしたものとして、あまりに自覚のない、そして反省のない言葉だった。

「それが正しいと思ったからです。私は、キングダムの民を守るという四侯の責務を、ないがしろにはできませんでした」

「そう。あなたもなの。馬鹿なことね」

なんでもないことのように言い捨てると、アンジェおばさまはクリスに巻いていた手をそっと離し、ブロードという人のほうに押しやった。クリスはお父様にもギュッと抱かれている。

「アンジェリーク。なぜ私たちを呼んだ」

ハロルドおじさまが静かに問いかけた。

「なぜ? 別にハロルドにもスタンにも興味はなかったわ」

後ろの兄さまが緊張するのがわかった。アリスターからは戸惑っている気配がする。

「ただ、四侯の血筋と言わなければ、オールバンスの赤子が来なかったでしょうから。いえ、この間二歳になったのだったわね」

そう、二歳のお披露目に来たではないか。私は前に出ようとするお父様の前に手を出し、その足を止めさせると、両足を少し広げて立ち直した。そして私のほうをじっと見るアンジェおばさまとしっかり目を合わせた。

「かわいくない目ね。最後に、なぜうまくいかなかったのか、もう一度原因を見てみたいと思っただけよ」

私は何も言わず、胸を張って見返した。アンジェおばさまの目は冷たかった。

「お前がウェスターから帰ってこなければ、何もかもうまくいったはずなのに」

「アンジェ! お前か!」

お父様の激高した声が響く。飛び出そうとしたお父様を兄さまが、そしてマークが止めている気配がする。

「何のことかしら。私は何をしたとも一言も言っていないわ」

悪いなどと、ひとかけらも思っていない人がそこにいた。