軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雑とは

ドアを叩いた音はしたが、返事も確認せずドアをバンと開けて入ってくるのがお父様である。

「父様に黙って楽しそうなことを、おや、ギル」

「お父様……」

兄さまが残念そうな目でお父様を見た。

「そういえば今日はギルと一緒の部屋に泊まるのだったな。そうか、ここは客室か」

結界の発生元を突き止めてすぐに来てはみたが、それが兄さまや私の部屋ではないことにやっと気が付いたらしい。自分の屋敷でも客室は入ったことがないようで、お父様は部屋を物珍し気にぐるりと見渡すと、ギルに目を止めた。

「ずいぶん雑な結界だったが、まさかギルのものか?」

「は、はい」

「ギルに失礼ですよ、お父様」

「す、すまん。リアかルークが久しぶりにやったからへたくそなのかと」

まったくフォローになっていません、お父様。

「そ、それでもお父様がわかるほどはっきりした結界だったということですよ。ギル、すごいですよ」

「ぎる、しゅごい」

私たちが頑張ってフォローするしかないではないか。

「はは。ありがとう。雑、か」

ちょっと落ち込むギルのことを気にもせず、お父様はすたすたともう一つのベッドのところに歩み寄ると、すっと腰を下ろした。

「せっかくだから、雑、と言うのがどういうことか、今日自覚して、結界の精度を高めていくがいい」

結界を作ることをそのものに、よいという評価も悪いという評価もなく、できたのなら中途半端にせずきちんとすべきだと言うお父様はなんてかっこいいのだろう。私はキラキラした目でお父様を見上げた。

そしてそっと目をそらした。

私と同じキラキラした顔をしてギルを見ているお父様は、最近退屈だったからいい遊び相手ができたと思っているようにしか思えなかったからだ。

「お父様、私だけでも結界については教えられると思いますが」

「でも父様がいたほうが何かと安心だろう。私が見守っているから。スタンも視察に出かけていることだし、私が親代わりだ」

さあやるのだと両手を広げるお父様は本当に仕方がない。兄さまも思わず緩んだ口元を隠すようにして、ギルに向き合った。

「では、私が小さい結界を張ります。その小さい結界を作る魔力量と、結界の質を感じてみてください」

「ああ、わかった」

ギルが真剣に見守る中、兄さまは構えもせずすっと結界を張った。その範囲は兄さまをゆったり囲うくらい。

「さあ、結界に手を出し入れしてみてください」

「ああ。うわ」

ギルは結界に手を出し入れしてみている。

「これは携帯用の結界箱を参考にしていますから、ギルもそれを目安にするといいのですが」

「ああ、その手があったか。なるほど、俺の結界は魔力が結界に変わり切っていない、ような気がする。よし」

「ああ、ちょっと待って!」

兄さまは急いで結界を消した。

「人が作った結界は響きあって大きく広がります。ついうっかりやってしまいがちなので、結界を作るのは一度にひとり、それを徹底させないと」

「そういえばそうだったな」

ギルは旅の途中を思い出したのか神妙に頷くと、魔力を抑え気味に結界を張った。やはり魔力を出してから結界に変えるという形ではあったが、先ほどより雑味の少ないよい結界となった。

「おお、なかなかよいな。最初のリアの結界よりは劣るが」

お父様が余計なことを言う。

「最初のリアの結界ってどのくらい雑だったんだ?」

「ざつじゃありましぇん」

そもそもオリジナルで考えたのは私なのだ。ぷうと膨らませたほっぺを兄さまが指でつついた。

「お父様、そもそも結界を自分で考えたのはリアですよ。雑とか失礼です」

「すまない、リア。リアの作るものはなんだって最高なのに」

嘘だ。さっきお父様は雑だと言っていたではないか。私はプイっと顔をそむけた。

「あああ、リア」

「あの二人は放っておいて、もう少し結界を作ってみましょうか」

「ああ、何となく感覚がつかめてきたから、ちゃんとやりたい」

私はお父様に抱き上げられ、胸にきゅっと抱きしめられた。そうなったらいつまでも怒ってはいられない。

「りあもちゃんとできましゅ」

「リアもリアの結界もかわいいとも」

結界にかわいいも何もない。しかし、かわいいで思いついた。

「てのうえに、ちっちゃいけっかいちゅくりゅ」

ボールを手の上に乗せるみたいに、体の外で作れないだろうか。私は右手を伸ばしてやってみた。

「ちいちゃい、けっかい」

ぽわんと、メロンくらいの大きさの結界ができた。

「リア、なにを?」

兄さまが魔力の揺らぎを感じたのか私のほうを見た。つられてギルもこっちを見たが、

「うわあ!」

結界を作ったまま振り返ったのでギルの結界が大きく揺らいで膨らんだ。

それは私の小さい結界を巻き込み、キーンと大きく広がって、消えた。

「「「「……」」」」

部屋には気まずい沈黙が落ちた。しかし、お父様はコホンと軽くのどの調子を整えた。兄さまもだ。

「消えたのだから、なかったのと同じだな」

「そうですね。今日はこのくらいにしましょうか」

「もうねるじかんでしゅ」

「オールバンスって……」

何でもかんでもオールバンスで済ませるのはよくない気もする。そもそもギルのコントロールがよくなかったのが理由なのに、ギルが責められなかったからそれでよいではないか。

しかし、おしゃべりしながらもさっさと寝てしまった私は、理不尽なことに、次の週困った状況に陥る羽目になった。