軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都にて

ニコ一行、いや、アルバート殿下一行が、ファーランドとのお見合いから戻ってきた頃、王都ではすでに若葉が芽吹く季節になっていた。つまり私が戻ってきた時は春になっていたということである。

「リア!」

屋敷にお父様の声が響く。私は普通に自分の部屋にいるというのに、遠くで叫んでも仕方がないのではないか。

「おとうしゃまがさがちてりゅ! はんす!」

「はいよ。無駄だとは思いますがね」

「はやく」

「はいはい」

ハンスは私を抱え上げると、部屋をざっと見渡して、出窓の端っこにそっと下ろしてくれた。私はできるだけおなかを引っ込めると、窓のカーテンと一体化するようにまっすぐに立った。

「微妙におなかが出てます」

「ハンス!」

ハンスの失礼な言葉に怒ったのは私ではない。ナタリーだ。ナタリーも最近、自分からいろいろしてくれるようになった。もちろん、失礼なハンスをたしなめてくれたりもする。

「おなかが出ているからこそかわいらしいのです!」

「なたりー、ちっかく」

「ええ?」

むしろなぜ驚くのか。

いや、そんなことを言っている場合ではない。リアと呼ぶ声が近づいてくる。

ハンスは入口側の壁の目立たないところに下がり、ナタリーは落ちてもいないごみを探してうろうろしている。

「リア!」

ドアがバンと開いて、お父様が飛び込んできた。そもそもなぜお父様はノックをしないのか。

「リア?」

今部屋をざっと眺め、私がいなくて不思議に思っていることだろう。

「ハンス?」

「ここに控えております」

「ナタリー」

「はい。すみません、お掃除中で」

二人が何とかごまかそうとしてくれている。

しかし、そんな小細工は通用しなかった。

「リア! かくれんぼか?」

一瞬で見つかってしまった。さすがファーランドの小さい子たちとは年季が違う。

「お、おしょとにとりがいて」

隠れていたのではなく、鳥を見ていたことにしよう。

「鳥か。リアが鳥を見たいのなら、窓の外で餌付けをしてもいいが」

「ちないでしゅ。ここ、にかいでしゅよ」

防犯上の観点からバルコニーのない部屋なのである。どうやって窓の外で餌付けをするというのか。

そんなことをぼんやりと考える私をお父様はさっとすくい上げると、抱っこして部屋を出ようとした。

「ご当主、どちらに?」

ハンスが護衛らしく声をかける。

「執務室だ。リアがそばにいないと仕事にならぬ」

むしろ子どもがいたら仕事ができないと思うのだが。

私はお父様が大好きだし、できるだけ一緒にいたいと思っている。しかし、少し離れていた間に、お父様はだいぶ不安を募らせていたらしく、家にいる間は少しも私から離れようとしない。

帰ってきたばかりなので私は城にはいかず、家で体を休め、来週からまた城に行くことになっている。しかしお父様にはいつものように仕事があり、城に行かなければならない。そのせいか、いつもより早く帰ってくるし、早く帰ってきている分、仕事も持って帰ってきているようで、結局は執務室にこもることになる。

そして執務室で私がちょろちょろするのを眺めながら仕事をするというわけなのだ。

正直、面倒くさい。

「リア様、あきらめましょう」

「ハンス、何を言っているのだ?」

私にこそっと話しかけるハンスにお父様が怪訝な目を向けている。まあ、それも帰ってきた今週だけだろうと思うし、来週からはお城に行くことになるので、何とかなるだろう。幼児にも一人の時間は大切なのである。

とりあえず私はお父様の首にギュッとしがみついた。

「リアも寂しかったよな」

「あい」

いろいろあったし、夜も兄さまと一緒だったので、寂しいと思う暇がなかったとはこれっぽっちも言えないのだった。

その兄さまは幼児と違って特別休暇などもらえず、帰ってきたらすぐさま学院の寮に戻ることになった。兄さまも嘆くのかと思ったら、ごねずにちゃんと寮に戻っていった。

「私がいない間にあったことの情報収集です。他国から貴族が来るということは珍しいですし、四侯や王族が、辺境の貴族と見合いをするということも珍しい。きっといろいろな噂が飛び交っていることでしょうし」

12歳の考えることだろうか。感心して兄さまを見る私だったが、兄さまは私の頭をなでてにっこりした。

「もちろん、レミントンやモールゼイに直接会うことも考えます。その時はリアも一緒に行きましょうね」

「くりしゅ! おみやげありゅ!」

「クリスには来週会うではありませんか」

はしゃぐ私に兄さまはくすくすと笑った。兄さまの言うレミントンやモールゼイとは、フェリシアとマークのことなのだ。つまり、四侯の跡を継ぐ者ということである。

申し訳ないけれど、気楽な立場でいてよかったと思う私だった。

一週間、休んだような休まなかったような期間を経て、今日はお父様と一緒に城に出勤である。

「ふんふんふーん、ふん」

「キーエ」

竜車の外からラグ竜が返事をする。

「リアがこんなに城に行くことを楽しみにするほど、ニコラス殿下と親しくなるとは思ってもみなかったな」

お父様が苦笑している。私が楽しく過ごすのはいいが、王族に仲良しがいるということも微妙なのであろう。

私は膝の上に置いてある荷物をポンポンと叩いた。

「きょうは、くりしゅにおみやげ。たのちみ」

「そうか」

ニコに会うのはもちろん楽しいが、今日は久しぶりにクリスに会うのだ。北の領地のあちこちで集めてきたお土産を渡すのが楽しみなのである。

お城に着くと、よほど待ち遠しかったのか、苦笑しているフェリシアに連れられてクリスが先に来て待っていた。もちろん、ニコも隣にいる。

「リア!」

「くりしゅ!」

ハンスに竜車から下ろしてもらい、ニコとクリスに走り寄る。

「くりしゅ、げんきちてた?」

「もちろんよ! おみあいとかしてたのよ」

クリスが腕を組んでふふんと背をそらす。隣でフェリシアが、少し複雑な表情でクリスを見ているのが少し気になった。

「しゅごい!」

何がすごいのか自分でもわからないが、一応そう言っておく。それに、お見合いがどんなだったか話を聞きたいではないか。それに、お土産も渡したいし。

「リア、そのにもつは」

「にこ、れいのものでしゅ」

「あれらか」

「あい」

ニコは微妙な表情で私を見た。失礼な。

「まずはとしょしつにいこう。せんしゅう、べんきょうをがんばったから、オッズせんせいからきょうはべんきょうしなくていいときょかをもらったのだ」

「にこ、しゅごい!」

先週私はお父様と一緒にいただけだったのに、王子様は大変だ。ここは褒めておくに限る。

「よし! いくぞ!」

「おー!」

「まってよ!」

こうして、日常が戻ってきた。