軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【閑話】ようこそ牧場へ!

「くくく」

ピンクのポンチョが冬の終わりの風を受けてはためく。幼児一人、牧場に立つ。

「わたしもいる。それに、うで、くめてないぞ」

「くめてましゅ」

私は今、おじいさまのラグ竜の牧場に来ている。王都のオールバンスの牧場とは比べ物にならないほど広大である。そもそも、柵がない。

「柵がないことによく気が付いたなあ。リアは賢いぞ。こんなに広い場所では柵を作っても意味がない。ラグ竜も私達といたほうが安心だと分かっているので、野生の群れなんだかうちの群れなんだかさっぱり区別がつかないくらいだ」

おじいさまがはははと豪快に笑った。

そのおじいさまに連れられて、私とニコだけでなく、兄さまやギル、それにファーランドの子どもたちが牧場に見学にきている。

「この規模はファーランドでも見たことがない」

「ファーランドでは各町ごとに必ず小さめの牧場があるけどな」

「それはキングダムでも同じだな」

大きい兄さん組が何か話している。

思い返してみれば、タッカー伯の領地でも牧場は大きかったし、おじいさまのこの牧場も大きい。しかし、ウェスターでは、確かにあまり大きな牧場を見たことはなかった。それどころか野生のラグ竜の群れもあまり見なかったような気がする。

「虚族がいないというのは、こういうことなんだな」

「夜の命の危険がないから、どんなところにでも牧場ができる」

それはその通りだろう。だが、それならばなぜラグ竜はみな結界の内側で暮らさないのか。野性のラグ竜なら安全を求めて、結界の内側に自然に入ってくるものではないのか。生き物の生態はなかなか難しい。

しかし、私の今日の目的はミニーである。せっかく生まれ故郷に帰ってきたミニーが仲間たちと楽しく過ごしているのを眺め、あわよくば他のラグ竜にも乗ってみようと、そういうわけなのだ。ついでに友達にも自慢したいという気持ちもないわけではない。

「みにー!」

「キーエ!」

本当はすぐそばにいてくれたのだが、ちょっと格好をつけるために呼んでみた。ミニーもたぶんわかって答えてくれている、いいラグ竜なのである。

「すげえ。こんなちっちゃいラグりゅう初めて見た」

「ファーランドでは見たことない」

ロークとジェフが驚いている。私とニコはそれを聞いて心持ち胸を張った。ちょっと待て、なぜニコも胸を張るのだ。

「ミニーはキングダムのいいものだ。キングダムのいいものなら、わたしがじまんにおもうのもとうぜんだ」

そう言われるとそんな気もする。

「おじいしゃま、かごをちゅけてくだしゃい」

「おうおう、もちろんだとも」

おじいさまがにこにこと、かごをこちらへという指示を出す。

「試作したかごがいくつか残っているから、そっちの大きい坊主たちも乗ってみるか?」

「うん!」

「はい!」

そして用意されたかごはミニーの分の他に、左右振り分け一組が二つ。つまり、四人乗れるということである。

「私達もいいんですか」

「もちろん。ラグ竜は小さいが、大人二人がかごに乗っても一応大丈夫なように作ってあるからな」

ジャスパーとロイドは自分たちも乗れるのかと驚いたが、とてもうれしそうだ。ロークとジェフの小さい子組など、そわそわして落ち着かない。ここは私が見本を見せないといけないのではないか。

私はすーっと息を吸い込んだ。

「りあ、のりまーしゅ」

「あっ、リア様! やられた!」

時すでに遅し。ハンス、敗れる。

ラグ竜が私の前ににゅっと頭を出してくれている。私はラグ竜の頭にギュッとしがみついた。

「ああ、殿下まで!」

殿下の護衛の悲鳴のような声も聞こえる。そして私たちはまんまとミニーのかごにスポッとおさまった。ジャストフィットである。

「はーやーくー」

「はーやーくー」

私とニコの声にせかされるように、しかし苦笑しながら兄さまとギルが自分のラグ竜にまたがった。二人は最初からかごに乗るつもりはなかったらしい。

「こうか?」

「こう?」

ロークとジェフが両手を広げて、竜の頭に抱き着こうとして護衛に止められている。

「リア様は悪い影響しか与えねえ」

そんなことないもん。ハンスの声は聞かなかったことにする。

結局大きい人たちは台から、ロークとジェフは脇を抱えられてかごの中におさまった。

「いいですかな、それでは私たちが先導しますから」

「キーエ」

「キーエ」

「ごほん。私たちが」

「キーエ!」

「キーエ!」

おじいさまの声に、自分たちだけで大丈夫よ、と竜たちが騒ぐ。そもそもミニーの育った場所なんだし、それなら大丈夫だろう。

「よち。しゅっぱーちゅ!」

「キーエ!」

「キーエ!」

「あ、これ! リア! 勝手に」

とっとっと竜が走り出す。兄さまとギルが少し離れて横をついてくる。冬の終わりの風は寒いが、そこここに見える緑の草が春の気配も感じさせる。

「すげー!」

「気持ちいいな!」

「キーエ」

そうだろうそうだろう。兄さまは11歳で竜に乗り始めたけれど、普通はそれでも早いのだそうだ。つまり、小さい子供はラグ竜と触れ合おうと思っても、竜車に乗るしか手段がない。手で触れられるくらい近くにラグ竜がいて、ラグ竜が走っている視界を共有できる、こんなわくわくすることがあるだろうか。

私はいつも持っている笛をごそごそと出した。お父様がくれた笛だ。

「プー」

「キーエ!」

「プー」

「キーエ!」

「みんなでぐるっとはちろう!」

「キーエ!」

走るのはラグ竜だけれども。

私たちとラグ竜は大はしゃぎしながらみんなでぐるぐると牧場を回り、あとでしこたまおじいさまから叱られたのだった。

ラグ竜は知らん顔で逃げていた。

「こんどまたいっしょにラグりゅうにのろうな」

ロークがこっそり耳元でささやいた。

「うん」

「やくそくだぞ」

うなずく私に、ジェフもそうささやいた。

「うむ」

ニコが代わりに力強くうなずいた。

四侯とファーランドの貴族がまた会うことは実際はとても難しいだろう。

でも、きっとまた会えるような気がしたのだ。