軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

みんな叱られたとさ

たいしたことをしたわけでもない。真下に落ちたのと、そこからほんの数十メートル歩いただけだ。

その前に温室をカサカサ動いていた? 何のことか記憶にない。

助けが来たときはほとんど暗くなっていたので、私はすぐに屋敷に戻され、お風呂に入れられ、部屋で食事を取らされ、そして兄さまに寝かしつけられた。

「ろーくは」

「大丈夫なようですよ」

「にことじぇふは」

「あの子たちは落ちていませんからね」

それがその日の最後の記憶である。そして次の日起き上がってみたら、さすがにあちこち体がギシギシしていたので驚いた。

それだけ落ちた衝撃が大きかったのだろうし、正直、暗闇の中はかなり精神的に厳しかった。

その中で冷静に動いた私、偉い。

「どうしたのですか。そんなに胸を張っていたらひっくり返りますよ」

別に胸を張ってなどいない。昨日の自分をほめていただけである。

「きのうは、ちゅかれまちた」

「リアは頑張りましたよね、リアは」

兄さまがベッドの私の横にぽすんと腰を下ろした。含みのある言い方だが、それが兄さまらしい。

「こどもは、おちましゅ」

「私は落ちませんでしたし、子どもが落ちた話なんてそんなには聞いたことありませんよ。リアはもっと怒っていいのです」

あそこに穴があったかどうかはわからなかったし、助かったのだから別にいいと思う私は、すでに朝ごはんのことで頭がいっぱいだった。

「きょうのー、あしゃごはんー、なーにかな」

「リアは、まったくもう」

なぜそこでぎゅっと抱きしめられてしまうのだろうか。楽しいからいいけれども。

心配してくれたギルが私たちの部屋に様子を見に来てくれて、部屋で三人で朝食をとることになった。そういえば、お見合いはどうなったのだろうか。

「あるでんか、おみあいは?」

「ううーん、まあ」

「それどころじゃなかったからなあ」

兄さまたちは顔を見合わせて苦笑している。

「アルバート殿下にはかえって良かったのかもしれないんだけどな」

ギルが少し不思議なことを言っている。

「結局は、辺境三国のどこからお相手を選んでも、どこかに角が立つだろう」

「うぇしゅたー、おみあいちない」

イースターの一行は今王都に来ているかもしれないが、ウェスターからは何も言ってこないではないか。いや、ウェスターの領都シーベルにいたときは、兄さまとかギルとかに打診があったんだったか。

「もし殿下がファーランドから誰かを迎え入れたら、その後が大変だろうということだよ。俺とかさ、アリスター絡みで絶対取り込もうとするぞ」

ギルが遠い目をした。兄さまがどうだろうという顔でギルを見た。

「あの間抜けなウェスターがそこまでしますかね」

「する。おそらく悪意なしにな」

「ああ、確かに」

兄さまとギルは私より前にシーベルにいて、いろいろとやっていたようなので、その間に何かがあったのだろう。二人で納得している。

「ありしゅた、げんきかな」

「元気だろうよ。保護者が四人もついてるんだから、心配するな」

「あい」

きっと今年の夏には、勉強もひと段落ついて、遊びに来てくれるような気がするのだ。

「なつには、もっとおおきくなってましゅ」

私はすらりとした自分を思い描いた。そして、

「リア、大きくなったなあ」

「足が速くなった」

とか言われるのだ。どうだ。

「夏になってもそんなに変わらないでしょうね」

「だな」

現実はそんなものらしい。まあ、三歳児のニコだってすらりとはしていないのだから、二歳児なんてそんなものであろう。

「リアの質問はお見合いでしたね」

兄さまがずれていた話を戻してくれた。

「お見合い自体は、というか、ファーランドの一行とはうまくいきましたよ。お見合いだけでなく、穀物や魔石のやり取りなど、実務的なことも直接会って話せば進むことも多いですしね」

「いろいろやるべきことを済ませて、最後が見合いだったんだよ。まあ、お互いいい印象を持ったらしいが、決め手に欠けるというか」

何となく想像はつく。もしこれが同じ国内であれば、あれほど和やかに対話できるのなら、お見合いは成功だろう。だが、アルバート殿下が是非にと思うような相手でなければ、これ以降は話は進まないということになる。

「結局、今回ファーランドが交流を欲張ったせいで、向こうのお子達の管理が後手に回り、昨日の事件が起きたわけだ」

「しょれは」

確かに、「とにかく顔合わせすれば何とかなるだろう」という感じで、子どもたちの相手を丸投げされて大変だったわけだし、私自身、ファーランドへの印象はあまりよくない。

しかし、それを言ったら、ウェスターの印象だってよいものではない。ヒューとは最後は仲良くなったが、本人も、国としての態度もあまりよいものではなかったし。

イースターは第三王子がいる限り論外。

そして、自分の住んでいるキングダムの印象だって、別によいものではないのである。

あれ、私、ちょっと厳しすぎない? ちょっと違うことを考えていた私に、兄さまが昨日の話をしてくれた。

「リアはすぐに寝てしまったし、今回のことは被害者でもあり功労者でもあるからいいんですが、残りの面々はそれはもう大変でしたよ」

「ちかられた?」

「はい。ニコ殿下も、後継ぎとしての自覚がないということをアル殿下に延々と説教されていましたね」

ニコは特に悪いことはないと思うのだが。

「ロークは言うに及ばず。ジェフもまったく止めようとしなかったことを。ジャスパーとロイドは、もちろん弟の管理不足を。そして何より、護衛ですよね」

兄さまの顔が厳しくなった。

「はんすは? はんすはちゃんとちてた」

「ハンスもね、一瞬目を離したそうです。だからハンスもおじいさまと叔父様にちょっと叱られていました」

「あい」

ハンスに自分が文句を言うのはいいが、他の人がハンスを叱っていると思うとなぜか嫌なのだった。

「それより」

兄さまがくすくすと笑っている。ギルもやれやれという顔だ。

「王家の護衛ですよ。もちろん、あとでアルバート殿下にも叱責されたことでしょうけれど、ハンスにがっつり説教されていて」

「はんすに?」

「リアは知らないかもしれませんね。ハンスはグレイセスと同じ、護衛隊の元隊長です」

「ええ!」

そんなすごい人だとは思わなかった。

「王都の外にも何度も出たことがあるらしいです。護衛の何たるかを延々と。この道中、他の護衛にずっと我慢していたようですからね……」

確かにいろいろあった。

「そんなわけで、お見合いまで終わったし、四侯をとんでもないことに巻き込んだということでファーランドの勢いをくじくことができたしで、まあ結果的にはよかったのです」

「にいしゃま……」

つまりは私たちは、数日中にはもう王都へ戻ってしまうということになる。ちょっとだけ残念な私である。