軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リーリア!(お父様視点)

「リーリア、リーリア、なぜだ! なぜ止める!」

あと少しで追いつくところだった。手の届くところに確かにリーリアはいたのに。リーリアの乗るラグ竜を止めさえすればよかったのだ。現に先行していた男は捕まえたではないか。

私を囲んでいる護衛隊は五人。この際多少ぶつかってでも囲みから抜け出そう。私が覚悟を決めて竜を駆ろうとしたその時、横から隊長が竜をぶつけてきた。

「っ、何をっ」

「失礼します」

隊長は揺らいだ私の体をつかむとそのまま竜から引きずり落した。

引きずり落した。侯爵の私をだ。守るべき護衛隊がだ。

「ご存じのはずです。護衛隊は結界を越えてはならない。それだけではない」

隊長は後ろから私を羽交い絞めにしたまま、静かにこう言った。

「貴族はともかく、四侯は決してキングダムの外に出てはならない」

「う、わー!」

30も過ぎた大人がわめき叫ぶのは恥ずかしいことなんだろう。しかしわめいても暴れても、隊長の腕が私から外れることはなかったし、護衛隊の誰かがリーリアを追いかけてくれることもなかった。

大事な娘を追いかけられなくて、侯爵でいる意味があるのか。キングダムは、それほどまでして守るべき国なのか。

「忘れないでください。あなたが失われたら、次にオールバンスを背負うのはわずか10歳のルーク様だ」

私ははっとした。ルーク。魔力循環を覚え始めたばかりのあの子が結界を維持することになったら、確実に命を縮めてしまうことになる。無理だ。ルークも失えない大切なオールバンスの跡取りだ。いや、跡取りではなくても、失えない大切な子どもなのだ。

体から力が抜けたところで、隊長はやっと私の体を離した。

「隊長、対象ですが」

報告に来た隊員の声がする。対象。リーリアではなく。

「ウォルソール沿いに走っていきました。コースから言って結界を越えたさきの森沿いで仲間と落ち合う予定だったと思われます」

「仲間の姿は」

「見えませんでした」

「竜は止まったか」

「見える範囲では。本来先行する竜に従うものなのですが、まるで我らから逃げるかのように走っていきましたな」

逃げるように。追いかけたからか。バカな。

「閣下、ラグ竜が単独でも暴走する時、それは習性から言って仲間を守るためです。おそらくリーリア様とメイドを、我らから守らなければと判断したと、推察されます」

「なぜリーリアの竜から止めなかった」

隊長は疲れたように頭に一瞬手をやり、そうしてこう答えた。

「竜が二頭以上で走っているとき、先行する竜を止めれば後ろの竜はそれに従うものです。今回のように竜が単独で判断して動くことはほとんどありません。リーリア様から止めたら、犯人は結界の外に逃げ込んでいたでしょう」

「何のための救出隊だった。犯人を捕まえるためのモノか!」

「いえ」

隊長は視線を下げた。

「二人共確保できる、と確信した我らのミスです」

「一人なら、失われてもいいと、思ってはいなかったか」

私のつぶやきに、答える義務はない。

「どちらかを選ばなければならないのであれば。閣下を」

そういうことなんだろう。

「あー!」

私の叫びは草原に吸い込まれていく。

ルーク、すまなかった。リーリアは連れて帰れなかったよ。

その日私たちは、疲れた体に鞭打って、ウェスターとの国境の町であるケイリーまで移動した。ここでは事情を知られないように、私はフード付きのマントをかぶらされ、すぐに軍の駐屯地に連れていかれた。

これでは私が犯罪者のようではないか。一晩宿舎で休んだ後、そのまま王都ガーデスターまで帰るということだった。王都から離れることが許されているのは、たった10日。

帰る。連行されるの間違いではないのか。

それでも三日間緊張し続けた体は素直に休息を求め、私は朝までぐっすり寝ていたらしい。

次の朝、王都に戻る前に私は隊長に誘われ、護衛付きで国境まで連れていかれた。

「ここが国境か」

私は呆気にとられた。そこには壁もなければ、柵もない。どこからが国境かもはっきりせず、ただ広場があるだけだった。

「歩いている人々をよく見ていてください」

そう言われて、広場を行きかう人々を観察する。国境が見えないと言っても、国と国との境目だ。主に商人らしき人が竜車を引いて行きかっている。

その商人は、手に証明書らしきものを持ち、簡易な小屋にいる役人にそれを見せ、許可を得ているようだ。しかし、それ以外のたいして荷物を持たない人々は何のチェックもされていない。

さらによく見ると、何人かに一人、一瞬歩みを止める人がいるのに気づいた。一瞬驚いたように動きが止まり、そろそろと歩き出す。それは商人も歩いている人たちも同じだ。

「そこが結界」

「そうです、閣下。見えませんが結界はあそこにあり、魔力のあるものだけがその結界を感じることができます」

確かに何も感じずに通っている人もたくさんいるようだ。そのことに私は怒りがこみ上げてくる。国境など目に見える物でもなく、こうして自由に行きかう人がいるなら、なぜあそこでリーリアをあきらめねばならなかったのだ。

「確かに通ることだけなら自由です。だが、辺境の者がキングダムに滞在することはできないのですよ」

「なぜだ」

「キングダムの身分証を持っていない者は、宿泊することができない、商売することができない、働くことができない。つまりキングダム内ではあらゆることが制限されます。特にこの国境の町では」

ではなぜこれだけの人がやってくるのか。

「日帰りで、店を通さない商売は取り締まりようがありませんのでね。逆に身分証を持っているキングダムの者は辺境への出入りは自由ですが」

それはそうだろう。

「辺境で派手に商売をしているものは、キングダム内での取引がだんだん困難になっていきます。ですから積極的に辺境と取引するものは少ない」

特権意識か。

「国境沿いに虚族が出たとき、キングダムに入り逃れるのは自由です。しかし生活するのは難しい状況になっているのです」

「なぜ私にこんなものを見せる」

「なぜ」

隊長はふと宙を見据えた。

「向こう側に警備兵がいるのがわかりますか」

広場の向こう側には、だらしない恰好ではあるが、制服を着ていると思われる武器を持った一団が確かにいた。

「あれがウェスターの国境警備隊です」

「こちらの警護隊のようなものか」

「違います」

そこはきっぱり否定された。

「今回のように要人がさらわれた場合、連絡は本来国境警備隊にすべきです。しかしもし連絡したら」

「連絡したら?」

「嬉々として探し出し、誰に売るか考えるでしょうね、奴らは」

「まさか」

「だからこそあなたの存在も隠しました。侯爵が国境に出てくる事態に、何があるのか勘ぐられたら」

「リーリアに危険が及ぶ……」

「たとえ無事であってもです。正直に言います。個人で優秀な人材に探してもらう、それしかありません」

隊長はきっぱりとそう言った。自分たちは何もしないと。そう言うことでもある。

かごの鳥であると、何のために自分はいるのかなどと考えている暇があったら、現実的な手段を考えろと。そう言われた気がした。

「お前」

「なんでしょう、閣下」

「名はなんと言う」

「は?」

私の問に、隊長は呆気に取られ、そして笑い出した。

「は、ははは、四侯の、これがつまり傲慢さ、むしろ気持ちがいいほどだ」

こんなに感情をあらわにするのを初めて見た。隊長は居住まいを正した。

「最初に挨拶したはずですが、改めて。グレイセス・レミントン。護衛隊特殊部隊、隊長です」

レミントン。四侯だが、自身は魔力なし。なるほど。

「王都に戻ります」

「言われるまでもない」

態勢を立て直し、リーリアを探し出す。