軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私とアリスター(←一山越えました)

「おい、かわいそうだがこいつどうする」

「最終的にはキングダムに戻すべきなんだが、今引き渡しに行ったら、まあ俺らが犯人扱いだろうな」

「じゃあ辺境の警備隊に渡して素直に国に返すと思うか」

「いや、転売だろうな」

どんな国だ、ここは。さすがに泣き疲れて、ぐずぐずしているだけの私の耳にこんな声が聞こえる。

「いっそのこと捨てていくか」

なんだと! それなら転売してくれ!

「冗談はやめろよ、バート」

「はは、まあお前と同じお目目だしなあ、アリスター」

「うるせえ」

うるせえと言ったのはさっきの少年だ。私は涙と鼻水で汚れた顔を袖でごしごしこすった。その私に、さっきの少年が近づいてきた。少年は座り込んでいる私の前にしゃがみこみ、私の目を見た。

黒い髪に、真夏の空の瞳。兄さまと同じくらいの年頃の少年だ。私はこの目をよく知っている。

「ギル?」

「ギル? ちがう。俺はアリスター」

「ありしゅた」

「ちが、まあ、それでいい。お前は」

「りーりあ」

「りーりか」

「りーりあ」

「リーリアだな」

それでいい。しかし、この少年はこれから何を言おうとしているのか。私は口をつぐんで、まっすぐにアリスターと名乗った少年を見た。

「お前はさらわれた。ここはお前の住んでいたキングダムではない。辺境の地ウェスターだ」

少年はそうゆっくりと私に言い聞かせた。キングダム。ウェスター。聞いたことのない言葉だ。

「赤んぼに何言っていやがる」

周りではからかう声が聞こえる。

「家に帰してやりたいが、難しい」

私は頷いた。少年はほっとした顔をしたが、周りでは

「わかってるわけないだろうに」

と相変わらずはやす声がする。

「大人になれば、自力で帰る道もある。だからな」

少年は一言一言、言い聞かせるようにゆっくりと言った。

「道は二つある。一つは、金持ちに買われて、そこの嫁になること。たぶん、買われても、いい暮らしができる」

私は目を見開いたまま少年の話を聞く。

「もう一つは、俺と一緒に来ること。暮らしは楽じゃないけど、大きくなったら、自分で道を選べるようにしてやる」

「俺が最初にアリスターに言ってやったことだな」

聞いていた男が自慢げに顎に手をやる。

「けど、赤子に言ったってわからないだろうに」

しかしアリスターはそれを無視して、私にこう言った。

「金持ちにもらわれたければそのままで。俺と来るならこの手を取れ」

そうして、私に右手を差し出した。どちらに転んでも生き残ることはできそうだ。でも、私は兄さまとお父様のもとに帰りたかった。そのためには。

私は少年の手を取った。少年はそのまま私を起こすと抱え上げ、わたしをみんなに向けた。すごい力だ。

「俺、ハンター見習いアリスターがこの子を引き取る! 文句のあるものは前に出ろ!」

少年の高い声が草原に響く。早春の地面を、ダン、ダンと足で踏み鳴らす音がした。異議なしの意味らしい。

「二人分の食い扶持を稼ぐのは大変だぞ」

バートと呼ばれた男がそう言った。

「こないだまで母さんと二人暮らす分稼いでいたんだ。何とかなる。でも、助けてくれ!」

「はは、相変わらず人に頼ることをためらわないな、お前は。さてと、さっそく食い扶持を稼ぐ機会が来たようだぜえ」

アリスターをからかったバートは、アリスターの後ろを見てそう言った。ヴンと、あの音がする。

「味を占めやがったな。人型に、ラグ竜型。昨日の夜の虚族だろう。そのちびは後ろにやっとけ。できれば目をふさいでおけ」

バートがそう言うと、私は後ろを見ないように運ばれ、ポンチョの帽子を深くかぶらされた。

「俺たちは虚族のハンターだ。心配するな。そして目を閉じてろ」

アリスターはそうささやくと、ヴンと音のしたほうに走っていった。男たちは五人。ラグ竜から降りて、剣を構えている。私はポンチョの帽子をかぶり、座り込んだまましっかり目を見開いた。男たちの見せたくなかったものは何か、虚族とは何か、見極めなければならないのだ。

朝の光の中で、男たちの対峙しているものは10体。しっかり地面を歩いている人とラグ竜のように思われる。ヴン、という音は、その姿が少し揺らぐときにするようだ。その中にハンナもいる。

「はんな」

その目が私を見ることはもうない。

「はんな」

その顔が私に微笑むことはない。男たちの掲げる剣は、まるで陶器のように白く、わずかに薄紅色に輝いているかのようだ。男たちはためらうことなく、その人や竜の姿をした虚族に向かっていく。

ヴン、と切り裂かれたそれは、切れ目から黒いもやへと変わり、やがて一つにまとまり小さくなって消えていった。

「はんな」

ハンナの姿をしたものも消えていった。消えたところから男たちは何かを拾うと戻ってくる。

「お前、見てたのか」

アリスターが私を見て目を見開いた。

「はんな」

「ハンナって言ったのか」

「もう、いにゃい」

少年は黙って私の頭を撫でた。周りで男たちが気まずそうにそれを見ている。

「今回の目的はハントではなかったが、まあ余分な収入はいつでも歓迎だ。さ、帰るぞ」

しかし男たちのラグ竜には余分なものを乗せる場所はなかった。

「仕方ない、荷物をまとめて荷物の上だな」

そうして私は、荷物用のラグ竜のかごの、野菜やら布の上にちょんと乗せられて男たちの住む町に連れていかれることになったのだった。