軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お披露目

ふわふわ揺れるスカートを楽しんで、兄さまと歩いていたら、いつの間にか緊張もせず階段についていた。

「リア!」

お父様が貴族らしくなく階段を駆け上がってくる。

「おとうしゃま!」

いつものように手を伸ばすと、お父様にさっとすくい上げられ、笑いかけられた。その途端、

「おお……」

というどよめきが階段下で響き、私ははっとなった。うっかり兄さまとの時間を楽しんでいたが、今日はお披露目だった。

「リアは抱っこされて紹介されたいか。それとも自分で立つ方がいいか」

お父様の目がこのまま抱っこで紹介がいいと言っているが、そんなのはかっこうが悪いではないか。

「おりましゅ」

「抱っこは」

「おりましゅ」

「仕方がない」

お父様は名残惜しそうに私をぎゅっと抱きしめると、そっと階段に降ろした。

「真ん中より下に下りたら、私が手を放す。そうしたら、自分で名前を言って、礼をする。それだけだ。できるね」

「あい」

大丈夫。礼だって練習したのだ。挨拶するのは階段だから、足を下げたりクロスしたりしなくていい。ちょっとひざをまげて、元に戻すだけだ。お父様が私の右手を引いて三段先を歩く。兄さまが私の左の一段前を歩く。ゆっくり進んで止まると、お父様がそっと手を放した。

前を見ると、たくさんの人がいた。パーティだ。私は嬉しくなってにっこりした。いけない、挨拶挨拶。

「りーりあ・おーるばんすでしゅ」

そしてちょっとだけ膝を曲げて、すっと背筋を伸ばした。決してぴょこりなどしていない。

わあっという声と共に温かい拍手が起きた。お父様を見上げるとよくやったというように笑っている。兄さまのほうを見るとにこやかに頷いてくれた。

拍手が収まると、お父様は私をすっと抱き上げ片手に乗せると、反対の手で兄さまの肩に手を回した。

「事情により披露目が一年遅れたが、当家の愛娘、リーリア・オールバンスの二歳の誕生日である。また、当家の跡継ぎ、ルーク・オールバンスも12歳となった。今日は共に寿いでほしい」

お父様の声が終わり、兄さまがにこやかに会釈をすると同時に、音楽が鳴りだした。人々はそれぞれ交流に戻ったり、お父様に挨拶しようとしたりと動き始めた。

「人が多いから、リアはしばらくお父様といような」

「あい」

兄さまは兄さまで、オールバンスの跡継ぎとしていろいろな人の挨拶を受けている。そして、あちらこちらのテーブルにはおいしそうな食べ物と飲み物が置いてある。

「おとうしゃま、じゅーちゅ」

「リアはさっそく食い気だなあ」

お父様が笑った。コックが取っておいてくれたとしても、隙あらばおいしいものは食べる。それが大事だ。お披露目だから人を見ろって? 多すぎてよくわからないのだ。そのうち誰かがきてくれるだろう。

そう、兄さまのところにはたくさん人が来ているのに、私とお父様のところにはまだ誰も来てくれていないのである。にこやかなお父様が珍しくてみんながためらっていたとはその時の私は思いつきもしなかった。

「ディーン!」

「ハロルド。それにマーカス」

人波がすっと割れて、二人の人が近づいてきた。親子だろうか。よく似た灰色の髪に灰色の目をしている。

「そちらが戻ってきた愛娘か。何とかわいらしい」

冬の雲のような灰色の目が優しく緩む。

「父上、まず挨拶からですよ。私はマーカスです。マーカス・モールゼイ」

「まーかしゅ」

「そうですよ。マークでよいですからね」

「まーく。りあでしゅ」

あ、違った。ちゃんと姓まで言わないと。ついつられてしまった。

「なんとマーカス。先に言うとは。私はハロルド・モールゼイ。ハルおじさんでいいぞ」

「父上、ハルおじさんって……」

マークがあきれている。まあ、いいというならいいと思う。

「はるおじしゃま。りあでしゅ」

「おじさまときたか。うん。いい……」

それをお父様が冷たい目で見ている。

「ハロルド、私にハロルドと呼ばせるのでさえためらっていたくせに、なんだそれは」

「なんだ、ディーン。ではこの愛らしい幼子に私をモールゼイと呼べというのか」

「そ、それは」

はい、お父様の負け。

「り、リア」

一方、こちらでショックを受けているのはギルのお父様である。隣でギルが片手を目にやり、あーあという表情をしている。

「お前には今さら紹介はいるまい。スタン」

「し、しかし」

ギルのお父様はせわしなく手を上げ下げしている。

「俺だって名前さえ呼んでもらったことないのに。そのうえおじさまとか。リア、俺だってスタンおじさまと呼ばれたいんだ」

兄さまとギルが、呼んでやれ、うるさいからという目をしている。

「すたんおじしゃま」

「リア!」

「手を伸ばしても駄目だ。リアは抱っこさせない」

「今日も駄目か!」

賑やかなここを目指すようにまた人波が割れた。そこを小さい子どもが急ぎ足でやってくる。

「にこ!」

「リア!」

お父様に降ろしてもらった私はニコに駆け寄る。

「リア、おたんじょうびおめでとう」

「ありがと」

「リアもにさいになったからには、もうそんなにねなくてすむな」

「しょ、しょれはわかりましぇん」

ニコは満足そうだが、二歳になったからと言って急に寝る時間が少なくなるというものではないと思う。しかし、期待を砕くのもかわいそうなので曖昧にごまかしておく。

「はじめてオールバンスのいえにきたが、にわがひろいな。リア、そとであそばないか」

「あい! ああ、むりでしゅよ」

遊ぶという言葉に心が動いたが、今日は私が主役だった。

「ニコ、無理を言うものではない。今日はリアが主役なのだよ」

「にこのおとうしゃま!」

「お誕生日おめでとう、リア。聞いていたよ。私のこともランバートおじさまと呼んでおくれ」

「らん」

「待て、リア」

お父様が私を止めた。

「殿下。一臣下の娘の誕生会に顔を出すなんて、まるでうちが王家のお気に入りみたいな行動は止めてもらえますか。迷惑なんですが」

おおっとこれはきつい。周りがいっぺんに静かになった。

「王家と四侯は対等の間柄。どちらが上も下もなく、したがってお気に入りであろうとそうでなかろうと何の関係もない。それは皆わかっているであろう」

ランバート殿下は多少声を大きくし、皆に大きく手を振ってそうアピールした。単純なものはそう言えばそうだろうと納得したようだが、そうでない者もいる。

王家と、四侯の一部が、特別に仲が良いのがよくないのか。それとも王家と四侯そのものが仲良くなることがよくないのか。どちらかだと思うのだが、私にはわからなかった。

「私は子どもの付き添いとして来ただけのただの父親にすぎぬ。皆パーティを楽しんでくれ」

ニコのお父様のその一言で、パーティにざわめきが戻った。そして私の前にしゃがみこんで、目を合わせると、小さな声でねだった。

「なあ、リア、ランおじさまと」

言うのは簡単だが、それよりニコと並んでこちらを見ていると、金色の目に金色の髪がお揃いでまぶしいくらいだ。

「にこ、おとうしゃまとにてりゅ」

「ほんとか! うむ。ちちうえだからな」

「そっくり」

私は感心して嬉しそうな二人を眺めた。

「なあ、リア」

「あい、らんおじしゃま」

私は他の人に聞こえないようにうんと小さい声で答え、三人でふふふっと笑った。

「まあ、かわいらしい。これがあなたの娘なの?」

そんな私たちに、女性の声が降ってきた。誰だ。