軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

無茶

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけなら、試してみてもいいのではないか。

何か言いたそうなオッズ先生はとりあえず置いておこう。

「にこ、しゅわって?」

「こうか」

私はニコと向かい合って座った。懐かしい。前にこうした時は春の草原だった。

「てを、こう」

「こう」

両手共に手をつなぐ。魔力の流れをよく見て、ニコの魔力を、自分に移す。

「ぐっ」

「リア?」

できることはできたが、簡単ではなかった。自分とは質の違う魔力が体に流れ込んでくる。それは自分の魔力と溶け合わず、体の中で渦を巻く。気持ち悪い。

しかし、ニコの魔力はだいぶ減った。だいぶ具合はいいはずだ。

「リア、あせをかいているぞ。てもあつい。どうしたのだ」

「にこ、ぐあいは?」

「わたしのことなど! いや、もやもやしていたものがなくなった……」

「よかった」

私はくらくらしてうつぶせに倒れた。大丈夫。少しずつニコの魔力を外に出して散らす。しかし自分のものでない魔力はなかなかいうことを聞かない。

ここで結界が張れれば、魔力を結界に変換することができるが、それを絶対にやるわけにはいかないのはわかっている。

部屋にナタリーの悲鳴が響く。メイドたるもの、いつも冷静に。

「リーリア様!」

「なたりー、にゃい……」

「にゃいではありません!」

「ぐう……ましぇき、ましぇきがありぇば……」

そこにドアがバーンと開いた。私は思わずくすっと笑った。お父様だ。

「リア! いったいどうした!」

お父様はすぐに私を抱え起こした。

「にこ、まりょく、おおくて、しゅって、みたの」

「ばかな! 確かにいつものリアの魔力だけではないな! 王家め! いつも厄介ごとを」

「お、おとうしゃま、にゃい」

どうしてお父様は一言余計なのか。

「しょとに、だちてるけど、ましぇき、ほちい」

「魔石? なるほど、わかった。ライナス!」

「は、はい! リーリア様は」

「いいから、空の魔石をありったけもってこい!」

「は?」

「何度も言わせるな!」

「はい!」

怒鳴りつけたお父様の勢いに負けてライナスがまた走り出した。

「リア、リア、そうだ、お父様がリアの余分な魔力を吸い取れば」

「いけましぇん……おとうしゃま、ぐあいわりゅくなる……」

「リア!」

「だいじょぶ、だいじょぶ、しょとに、だちてる……」

少し楽になってきた。

「魔石を! 持ってきました」

「貸せ! リア!」

「ましぇき、てに……」

お父様は私に魔石を握らせた。

「ああ、そんな危ないことを!」

オッズ先生とライナスの声が聞こえる。いつもより慎重に、ニコの魔力だけを動かし、移していく。少しずつ、少しずつ。

「いったい何が起きている」

「ちちうえ!」

「殿下!」

誰か来たようだが、それどころではない。魔石がいっぱいになった。

「もうひとちゅ……」

「ああ、ほら」

もう少し、もう少しだ。

「ふう……」

私は目を開けた。

「え?」

知らない人が覗き込んでいた。黄色い瞳の。

「そなたがリアか。なるほど愛らしい」

「そんな戯言を言っている場合ではない!」

わたしを抱えていたお父様が怒鳴りつけた。おそらく本物の王子様のことを。

「りあ、だいじょうぶか」

「あい。だいじょぶ」

ニコも心配そうにのぞき込んでいる。良かった、魔力は少し多いくらいに戻っている。それにしても、少しだけ魔力を減らすつもりだったのに、思ったより大量に入ってきて驚いた。よほど魔力量が多いのだろう。そして興味深げに覗き込んでいるこの人も、魔力量がけた違いに多い。

「いったい何があった。説明できるか」

水を持ってきてもらい、少し落ち着くとお父様が静かに言った。魔力のことを言ってもいいのだろうか。私はお父様に目で問いかけた。

「特に公言してはいないが、オールバンスの一族が魔力が見えていることは王家の者は知っている。知るべきではない者は部屋から遠ざけたので大丈夫だ」

そう言われて周りを見渡すと、ニコとたぶんニコのお父様、そしてライナス以外は部屋から出ていた。

「らいなしゅは」

「話が漏れたらこの者のせいということになる。わかりやすくてよい」

「おとうしゃま……」

ライナスがびくびくしているではないか。私はお父様の膝に乗せてもらい、話し始めた。

「にこ、いちゅもより、まりょく、おおかったでしゅ」

「まりょく? りあにはみえるのか」

「あい。そのせいで、にこ、まりょく、うまくうごかにゃい、ぐあいわりゅくなる」

ニコは今一つわからないという顔をしている。ニコのお父様は顎に手を当てて思わずうなった。

「王家の直系は、幼いころ必ず不定期に具合が悪くなる。それが当たり前だから、今までそういうものだと思ってきたが、まさか魔力のせいだとは……」

「オールバンスではそういったことはありません。王家の持つ魔力は、四侯と比べてもけた違いに多い。そのせいで普通の魔力もちでは気にならない魔力の揺らぎが体調に出てしまうのではないですか」

お父様のその説明に、ニコのお父様は頷いた。

「なるほどそれなら納得できる。しかし、それではリアは何をしたのだ」

「殿下、私はリアと呼んでいいと許可した覚えはありませんが」

「息子がリアリアといつも言うので自然とそう覚えたのだ。いいではないか。心が狭いな、オールバンスは」

今はそういう話ではないと思う。お父様をぐっと詰まらせると、ニコのお父様は私に直接尋ねた。

「それで、なぜ倒れたのだ」

「おおいまりょく、しょとにだしゅ、ましぇきにうつしゅ。でも、にこ、できにゃい」

「幼児は普通はできないな。してはいけない、ともいえるのだが」

ちょっと皮肉が来た。まあいいでしょう。

「ましぇきのかわり、りあに、まりょく、うちゅした」

「なぜそんな危険なことを……」

「にこ、ちゅらい。らくに、なりゅ」

それだけのことだ。ただ、やっぱりちょっと無茶だっただけで。

「まりょく、ましぇきに、うちゅした。もうだいじょぶ」

「この子は……いったい」

あっけにとられるニコのお父様に、お父様がため息をついた。

「辺境で生き延びるため。身に着けたらしい」

「なんと痛ましい……」

正確にはさらわれる前から身に着けていたはずですが、お父様。話を盛っていないですか。

「にこ、まりょく、れんしゅう、しゅる」

「しかしなあ」

「ましぇきに、まりょく、うちゅしたら、らくになりゅ」

「ううむ」

「にーに、じょうずよ」

「ルークか」

お父様がちょっと驚いている。

「確かに、子ども同士のほうがいいかもしれぬ。私は苦手だしなあ」

ためらっていたのはそれが理由か。もしかして、ニコのお父様も訓練したほうがいいんじゃないの?

「確かに、ルークもいればリアのようすを見てもらえるし、ルークも喜ぶ……」

こうして、ニコの癇癪の原因がわかり、お父様の思惑もあり、兄さまが先生として週に一回派遣されることになったのだった。