軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

癇癪

ラグ竜とも遊んで、疲れてもう一度たっぷりお昼寝した私は、次の日からも基本的に毎日お城に通った。つまり幼稚園のようなものだ。一週間そうして、問題が多かったり、負担が大きかったりするようなら、次の週から通う日を減らしていこうということになったようだ。

普通は少しずつ増やしていくものじゃないのかな。午前中は休憩を挟みながらニコと一緒に勉強、お昼はそれぞれで、午後からは一緒に絵本を読んだり、外で走り回ったりする。私がお昼寝を終わる頃、お父様と一緒にお家に帰るのだ。

勉強はちょっとつまらないが、ニコがわからないところを手伝ったりして、勉強がどんどん進んでいくのは楽しい。兄さまも恐ろしく賢いと思うが、三歳児とはこのように物分かりがよかっただろうかというほど、ニコも賢くて感心してばかりいる。

城の庭も整えられているのは自分の屋敷と一緒だが、それでも二人で走り回っているのは一人でいるよりずっと楽しい。

「リーリア様は走ってませんがね」

とハンスは言うが、確かに私は走っていると思う。ちょっとニコが一歳とちょっと足が速いだけだ。お昼を食べて走り回ったら、いつでも眠くなるのがちょっと残念である。

「どうしてりあはいつもそうたくさんねるのだ」

とニコも文句を言うのだが、仕方ない。

「よくねると、おおきくなりましゅ」

そうとしか言えない。

「わたしはちいさいころもそんなにねむらなかった」

と言われても、私は小さいころからよく寝てばかりだったので本当に仕方ないのである。

そうして一週間が過ぎ、

「私だってリアとそんなに遊んだことがなかったのに」

と兄さまに悔しがられ、目いっぱい週末遊んだ、次の週のことだった。

お父様を城の入り口に降ろして、護衛を乗り込ませた後、竜車でそのままゆっくりとニコのもとに向かう。最初の何回かはライナスも見に来ていたが、今ではメイドと護衛と、午前中は家庭教師のオッズ先生がいるだけになっていたはずだった。

しかし、その日はライナスが待っていた。

「ライナス殿、珍しいな」

気軽に声をかけているのはハンスである。城の護衛なら身分的にはライナスより下なのでこのような言い方はできないが、ハンスのつかえているのはオールバンス家なので、執事のライナスとは対等なのだというハンスの言い分である。よくわからないがはっきりものを言ってくれる人がいるのは助かる。

「ハンス殿、ですからあなたは」

ライナスはこめかみに手を当てている。この人はどうも堅苦しい。

「いえ、今日はせっかく来ていただいたのですが、殿下の調子が悪くて」

「例の癇癪か」

癇癪? 二人で話は通じているようだが、何のことだろうか。

「らいなしゅ、にこ、ぐあいわりゅい?」

「そういうわけではないのですが」

ライナスは私のほうに体を傾けた。しゃがみこんだりはしないのだが、こうして少しは幼児に近い所で話してくれようとするようになったのは進歩だと思う。

「殿下は時々ですが、なぜかイライラがひどい日があって、そんな時は癇癪を起こしてしまい、つい手が出たりと、一緒に遊ぶには大変なことがあるのですよ。今日はそんな日なので、リーリア様にはせっかく来ていただいたのですが、お帰りいただいた方がいいかと」

それならお父様に言って先に帰ったほうがよいだろうか。私はナタリーとハンスを見上げた。

「なにをしている! りあ、はやくこい!」

「殿下、飛び出してきてはなりません」

「うるさい!」

竜車が来たのを見たのか、ニコが飛び出してきた。確かにいつもより乱暴な物言いで、イライラしているのが伝わってくる。少し顔も赤いだろうか。いや、それだけではない。

「まりょく、いちゅもよりおおい」

ニコは普段から私よりも魔力が大きい。大きいからと言って何か問題があるとも思わなかったが、関係があるのだろうか。

「りあ、はやくこい!」

ニコがそう言って手を引っ張るので私は転んでしまった。

「殿下!」

「だって、りあがおそいから! ずっとまってたのに、こないから!」

地団太を踏むニコの前で、すぐにナタリーが私を起こそうとする。

「だいじょぶ。ひとりでできましゅ」

枯れてはいるけれど、芝生の上に転がっただけだ。驚いただけで、別に痛くもない。

「あい。いきましゅ」

私は起き上がるとニコに手を伸ばした。ニコが私の手をぎゅっとつかむ。

「しゅこしあちゅい。にこ、おでこかちて?」

「おでこ?」

ニコが不思議そうだ。

「あい、こうちて」

背伸びしておでこをごちんとする。ニコは固まっている。大人たちも、あ、という形で口を開いたまま固まっている。

「おねちゅはないでしゅね」

それならやっぱり魔力の問題だろうか。私は背伸びしてくっつけていたおでこを離すと、ニコの手を握った。とっさに対応できず、固まっていた人にちょっと一言だけ言っておこう。

「はんす、ごえいちっかくでしゅ」

「リーリア様、そりゃないですよ! ああ、ご当主が見たら絶対怒られる」

嘆くハンスの声にやっと大人も動き始めた。

「リーリア様」

「とりあえじゅ、いちゅもどおりに」

わたしがそう言うとみんなきびきび動き始めた。ニコは何かにすがるように私の手をぎゅっと握っていてちょっと痛いくらいだ。いつも遊ぶときは、一緒に動き回っているけれど別に手をつないだりはしないのに。

「にこ、べんきょうは?」

「したくない!」

確かに、こんなにイライラしていたら座っているのも嫌だろう。私は手を握りながらニコの魔力を探っていく。魔力が多すぎて、あちこちで滞っているような気がする。魔力が少なくて倒れることはあっても、多くて具合が悪くなることもあるのだろうか。それならば魔石に吸わせれば少しはよくなるのだが、ニコにできるかどうか。

本当は身内を呼ぶのがいいのだが、ニコのお母様はたぶん普通の貴族だから、魔力にそれほど詳しくない。お父様は王子だから、そうそう呼び出すわけにもいかない。それにどう説明したらいいのか。それならば仕方ない。

「はんす、おとうしゃま、よんでくだしゃい」

「リーリア様、しかしご当主は仕事です」

「だいじなことでしゅ」

私はハンスを見た。ハンスはしばらく考えていたが、やがて肩を落とした。

「わかりました。それなら、ライナス殿に頼みましょう。ライナス殿からの呼び出しなら、仕事を抜けやすい」

「私がか」

「リーリア様からの呼び出しだと言えばすぐにいらっしゃる。よろしく頼む」

「仕方がない」

ライナスが動き出した。私もニコと手をつないで階段を上がる。いつもは一人で登る階段を手をつないで二人で登るのも面白い。ニコを見上げると、やっと楽しそうな顔になった。

図書室に入ると、オッズ先生が待っていた。

「では今日も」

「しぇんせい、まってくだしゃい」

「リーリア様?」

「きょうはおやしゅみでしゅ」

「はあ?」

こんな日は勉強などできないだろう。

「そんな勝手な」

これだからオールバンスはというライナスの声が聞こえた気がしたが、ライナスは今いないので、空耳であろう。

さて、アリスターに魔力の扱いを教えた時は、魔力を押し込んでみたものだが、ただでさえ魔力の大きいニコにそれは酷だろう。ではどうするか。

吸い取る、のはどうだろう。

魔力を吸ったことなどないが、要は自分の魔力を魔石に移すように、魔石の魔力を自分に移すということだ。流れを逆にすればいいだけではないか。

私はニコの方を向いた。