軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仕返し

薄明かりの中でお互いに見つめ合った、その黄色い目だけ覚えている。脅して、私を連れ去った人。乱暴に放り投げた人。弱っても、死体でもいいから探し出せと冷たく言った人。

その人の口の端がほんの少し上がった。間違いない。こいつは悪い人。

「リア、どうした?」

バートの声に返事もせず、私は肩にかけていたラグ竜のポシェットを外した。ひもを短く持つ。そのまますたすたと黄色い目の男のほうへ歩いて行った。男の眉が上がる。

私は男の前で立ち止まると、男を見上げた。しばらく目が合う。周りは何が起きているのかとざわざわしている。私は男との距離を測り、横を向いてポシェットをぶらぶらさせた。

「リア、何を」

あわてたような兄さまの声とともに、思いっきり体をひねった。

ゴン。ポスっと当たるかと思ったラグ竜は重い音をたてて男の脛に当たった。

「っつ!」

男は思わず声を漏らすと、しゃがみこんで脛を抑えた。

どう? 魔石入りのラグ竜は、結構重いのだ。

しゃがみこんだ男と間近で目が合う。

「お前……」

「わりゅいやちゅ。りあ、わしゅれにゃい」

にらみつける私に、男は顔をゆがめて手を伸ばしたが、その前に私はぐっと後ろに抱きとられた。バートだ。そしてその前に兄さまがすっと出てきた。

「なんということだ。赤子のこととはいえ、妹が失礼を。申し訳ない」

両手を広げて皆に聞こえるように大仰に謝罪した。

「大丈夫ですか」

「なに、ぬいぐるみが当たっただけのこと。妹御は、ご機嫌が悪かったと見える。ははは」

男は空々しく笑った。

「リーリア、謝罪を」

兄さまの言葉に、私はプイと横を向いた。私をさらったことを先に謝るべきでしょ。

「リア」

「あい。ごめなしゃい」

しかし二回言われたら、そこは意地を張ってはいけない。私はすぐに謝った。これで私は、ちょっとわがままだけれど、かわいらしい普通の幼児として皆に認識されたはずだ。

それに、こんなにみんなのいる前で、私になにかする訳にもいかないはずだ。私は悪いやつから顔を背けると、王様の方を向いた。

「おりりゅ」

「もうやんちゃするなよ」

降りると言った私に、バートは念を押して下ろしてくれた。兄さまに連れられてアリスターと並ぶ。

「アリスター・リスバーンです」

「りーりあ・おーるばんすでしゅ」

私達は堅苦しい挨拶などできない。これでいいのだ。それにしても、アリスターがリスバーンを名乗るとは思わなかった。

挨拶を聞いた王は、鷹揚に頷き、まずアリスターに話しかけた。

「親を亡くし大変な思いをしたと聞く。領都シーベルで、こちらの庇護のもとこれからは伸び伸びと暮らすがよい」

「はい。ありがとうございます」

そして私をちょっと厳しい目で見た。いたずらな子どもを見る目だ。

「そなたは」

「まあ、なんと愛らしい」

隣にいた王妃が王をさえぎると立ち上がって段を下りてきた。波打つ茶色の髪、優しい茶色の瞳。私は思わず手を伸ばした。王妃は私をさっと抱き上げると、慣れたように左の腰に乗せ私の顔を覗き込んだ。

「まだ小さいのに、よく頑張ったわね。あなた、まったく男の人たちときたら! 大きな人たちが怖い顔をして見下ろしていたら、身を守りたくもなるでしょう。もっと優しい顔をしてくださらないと」

結構無茶な注文をする。しかしこれで私の失礼な態度はうやむやになり、謁見はそのまま終わるとそのままざわざわと別室に流れ、そのまま貴族たちとの簡単な会食となったのだった。

私達はそのすきにほんの少しだけ会場を抜け出した。ヒュー王子も合流する。

「リア、まさか」

「りあたち、おしょった。わりゅいひと」

「まさか! 確かに目の色は黄色だが、あれはイースターの第三王子だぞ! そんな立場の者が、なぜそんな危険なことをする」

「りあだけじゃにゃい。ひゅーもおしょった」

「しかし」

ヒューは信じられないようだ。私だって信じられない。なぜ一国の王子が私を襲う?

「にーに、いーしゅた、きんぐだむ、なかわりゅい?」

「まったく。関係はきわめて良好です。私もにわかには信じられませんが」

兄さまは仲が悪いかという私の質問をすぐさま否定した。しかし、何か思うところがあるようだ。

「しかし、なんとなく態度が嫌な感じではあるんですよ。殿下、バート、襲撃に遭ったものたちとして、サイラス王子を犯人として追及できますか」

「無理だ。直接顔を見て目の色まで確認したのはリアだけなんだ。今からケアリーまで使いを出し、本当に彼らが商売していたのかは確認するつもりだが、リアの証言だけでは弱い」

「弱いどころか、国際問題になりかねませんね」

ヒューも兄さまも難しい顔をしている。

「そもそも彼らがリアをさらった犯人なのか、事件に便乗しただけなのかもわからないし、今騒ぎ立てられるのはまずい。それにしても、リアの言うことが本当なら、私たちを襲ったうえで何喰わぬ顔をしてウェスターの城に滞在しているということか」

本当に、もしそうだとしたら、あまりの悪人ぶりにめまいがしそうだ。

「さすがにキングダム内で、公に行動している四侯の身内を襲うものはいないでしょうし、やはり私たちは早く帰りましょう。それより殿下、むしろ大変なのはウェスターです」

「ああ、他国の王族にかき回されるのはまずい。私がきちんと話をして、警戒を強めよう」

「それがいいでしょう。失礼な話かもしれませんが、ウェスターは辺境だというのに、キングダムよりその、理想主義的で」

ヒューは兄さまの言葉に何とも言えない顔をした。父と兄の性格をわかっているのだろう。

「それにしてもリア、本当に驚きました。なぜあんなことを」

「りあをしゃらって、ぽいっとちた。わりゅいひと。やっちゅける」

「リア」

兄さまだけではなく、みんなが肩を落とした。

「リアをさらった悪い人なら、リアは怖がって逃げるべきです。見つけた途端に反撃に行くなんて、まったく」

「ブッフォ」

ついにキャロが噴き出した。そろそろかと思ってたよ、まったく。

「お前、ぬいぐるみで叩くとか、いや、そもそも一歳児に反撃されてもまったく応えないだろうよ、意味ないだろ」

私はにやりと笑った。

「まあ、そうでもないよなあ、リア」

「あい」

私はミルの言葉に頷き、キャロにぬいぐるみを手渡した。

「お前これ、ごつごつ、あ!」

キャロはいぶかしげな兄さまにぬいぐるみを手渡した。

「このふわふわしたものが何か、え?」

兄さまはラグ竜をぎゅっぎゅっとつぶしてみている。ああ、大事にしてね?

「中に何が?」

「魔石さあ」

ミルもにやりとした。

「いい音してたなあ、リア」

「あい。ごん、てちた」

「これ、これは痛いですよ。リアは知ってて、ああ、まったくもう」

ちょっとは復讐になっただろうか。その後兄さまにはぎゅうぎゅう抱きしめられたが。

会食に戻った時には、イースターの王子はもういなくて、国元から連絡があり急遽帰ることになったと知らされた。きっと都合が悪くなったから逃げたのに違いない。

「まさか、幼児が自分を覚えているとは思わなかったのでしょうね。覚えていても何とかなると」

誰が一歳児の話を信じるというのか。でもその一歳児は私だった。そして、周りには信頼できる人がたくさんいた。とりあえず逃げる以外になかったのだろう。

「課題は残りましたが、明日には帰りますよ。国境はすぐですからね」

「あい」

そうしたらもうすぐお父様に会えるのだ。