軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:おっさんは神樹の秘密を読み解く

ラルズール王国の姫を背負いながら、なんとか出口にたどり着いた。

俺はお姫様を背負っているせいでまともに戦えなかった。

そのせいで、ただでさえ疲労しているルーナとティルに大きな負担をかけている。

二人はそのことに文句ひとつ言わない。

いい子たちだ。ここから出られたらご褒美をあげないとな。

出口に用意されている青い渦を見て、ルーナとティルが目を輝かせて飛び上がり、抱き合った。

青い渦は魔法の渦であり、あれに入ると外に出られるのだ。

「ユーヤ、青い渦がある。これで帰れる!」

「ほんとしんどかった。っていうか、現在進行形でしんどい。体が重すぎるよ!」

「お腹空いた。体がべとべとする」

「うんうん、帰ったら宿に戻って体拭いて、着替えて、酒場でジュースとごちそうだね!」

「じゅるり、それいい。ユーヤ、はやく帰ろ!」

二人は出口に着いたことで元気を取り戻したようだ。

足取りが軽やかになり、笑顔が戻る。

……思ったより余裕があるな。これなら、わざと遠回りしてもう少し追い詰めたほうが、限界の先の経験をさせられたかもしれない。

まあ、いいか。

今回の探索でも十分いい経験ができた。

「お姫様は目を覚まさないか」

背負っている姫は意識を取り戻さない。

無理もない。

さきほど、解毒剤を飲ませてハンティング・スパイダーの麻痺毒を解除したが、数日何も口にしていないことによる衰弱と、黒化の呪いのダブルパンチだ。

……そしてかなり匂う。

そちらも仕方ないだろう。宿に戻ったら綺麗にしてやらないと。

そして、気になることがあった。

一緒に捕らわれていたのはお姫様の護衛かと思ったが、黒化の進行具合が違いすぎた。それは星食蟲の迷宮に来たタイミングが違うことを意味する。

あの男たちはただの冒険者だろう。

そうなれば、一緒に居たはずの護衛がお姫様を見捨てたか、あるいはわざと……ということになる。

トラブルの匂いがより強くなった。

ルーナとティルが俺の顔を見ながら、早く帰ろうと繰り返す。

残念だがそれはできない。

「もう少し待ってくれ。仕事が残っている。迷宮を脱出するまえに石碑を読み解かないとな。ルーナ、ティル、出口の隣に巨大な石碑があるだろ。あれが使い魔の卵がどこに実るかを書いたヒントだ」

「これが? ぜんぜんそうは見えない」

「だよねー、ただの星図じゃん」

「まあ、普通はそう思うだろうな」

俺は苦笑し背負っているお姫様を下ろし、魔法の袋から筆記用具を取り出した。

出口である青い渦の横には俺の身長の二倍ほどある石碑が置かれてあった。

それらは無数の星が描かれており、そのうち一つの星は赤い宝石が埋め込まれ、まばゆく光っていた。

何も知らないものが見れば、とくに意味を見出せないだろう。

実はこの星の一つ一つが神樹たちだ。

この星図は神樹の森にある数百の神樹の配置を表しており、一つだけ小さな卵型の赤い宝石が埋め込まれている星がある。

そう、この卵型の赤い宝石で示された星の位置にある神樹に使い魔の卵が宿る。

……ぶっちゃけ、このヒントの出し方はどうかと思う。

星の並びを見て、『あっ、これ神樹の並びと同じじゃないか!? 卵型の赤い宝石がある位置に次の使い魔の卵が実るんだ!』なんて気付く者が何人いるというのか。

上から神樹の並びを俯瞰するなんてことはできないので、歩きながら木々の配置を頭に叩き込み、全体像をきっちりイメージができることが大前提。

そんな超人だとしても、徐々に体が重くなっていく恐怖、暗闇に覆われている迷宮で罠と魔物によって精神を削られて、ようやく出口を見つけて大喜びしているなか、そこまで頭が回るのかと疑問に感じる。

容易に避けられる星食蟲にあえて喰われることで隠し迷宮に突入し、出口の石碑が使い魔の卵を得るためのヒントだと気付いた奴はどうかしている。

……ちなみに、ステータス上昇値最大固定の隠し部屋を最初に見つけたのも同じ奴だ。

「いかんな、思考が飛んだ。仕事だ仕事」

俺は最後の力を振り絞って、手帳に星図を写し取る。

これで使い魔の卵争奪戦時にどの神樹に卵が実るかがわかるという圧倒的なアドバンテージを得た。

次はいつ実るかだ。

ヒントは石碑だけではない。石碑の隣には巨大な振り子時計が置かれている。

その時計は止まっている。

そして振り子には、『新たな一日と新たな命は共に生まれる』と書いてあった。

こっちはまだわかりやすい。

なにせ、振り子時計の中心には卵が描かれているし、振り子に書かれている文字も直接的なヒントだ。

実は、この時計は毎日零時零分にだけ長針と短針が動く。

この振り子時計が零時零分になるタイミングこそが神樹に使い魔の卵が宿るタイミングだ。

今の時間をメモっておき、次に来たときどれだけ時計の針が動いたかを突き止めれば何日後に零時零分になるかが予想できる。

そう、使い魔の卵が実るかわかってしまうのだ。

星図の情報を合わせれば、いつ、どの神樹に卵が宿るかがわかる。

「よし、ルーナ、ティル。調べ物は終わった。使い魔獲得へ大きく近づいたぞ」

「やった! ユーヤ、ルーナはもう限界。早くでたい」

「私も一秒ごとに体が重くなってる気がする。死んじゃいそう」

「そんなことでどうする? 明日もまた来るぞ」

俺がそういった瞬間、二人がこの世の終わりのような顔をした。

可哀そうだが、二人を鍛えるには星食蟲の迷宮はもってこいだ。

罠の学習、豊富な魔物。

今日と別のルートを通ればまだまだ魔物も宝物もたくさん得られる。

第一、針の動きの幅を見るためにはもう一度くることは必須だ。

「とりあえず帰ろう。明日に備えてごちそうを食べて英気を養おうか。心配するな。今日で二人ともかなり成長した。明日はもっと楽に踏破できるさ」

ごちそうと聞いて気を取り直してくれた。

そして、三人と背負った一人で魔力の渦に飛び込んだ。

これでようやくダンジョンの外に出られる。

「空気が美味しい。体が軽い」

「外で普通に歩けるっていうのがこんなに幸せだったんだね!」

現金なもので、ルーナとティルは外に出るなり元気になった。

すでに日が暮れている。

ずいぶんと長い間、探索をしたものだ。

「ルーナ、ティル。この子を宿屋に運んでくれないか? 俺はギルドへの報告を済ませてくる。ついで体を拭いて着替えさせてやってくれ。かなり匂う」

「任せて」

「終わったら、ごちそうだよ!」

「わかってるさ。俺は嘘をつかない」

さて、さっそく報告に行ってこよう。

今回は大収穫だ。ホーン・ボアの群れのおかげで三日は覚悟していたクエストを一日で達成した。

さらには、ハンティング・スパイダーの繭にいた中堅上位の冒険者の装備とアイテム……それ以外にも迷路を突破する最中で冒険者が死に取り残された装備とアイテムを拾っている。

思ったより、冒険者たちは星食蟲に喰われているようだ。

そして、ほぼ全員が迷宮内で命を落としている。

魔法の袋を持たない冒険者は、わざわざ明るい神樹の森に光源なんてもっていかない。

視界がゼロで魔物と罠が溢れる広大な迷宮を突破なんて不可能だろう。

帰還石があれば助かるが、希少で高価な帰還石は中堅冒険者程度では普通は持っていない。

ゲーム時代から思っていたが、この世界はひどく不親切で悪意に満ちている。

周囲に人がいないかを確かめて、お姫様を背負って宿に向かう二人に声をかける。

「二人とも、絶対に使い魔の卵のヒントを得たことを人に言ってはダメだ」

「わかった!」

「りょーかい、後を付けられたら横取りされちゃうもんね!」

いい返事だ。

ただ、少しずれている。

後をつけられる程度で済みはしない。

使い魔の卵はとんでもない値段でやり取りされる。

……もし、使い魔の卵の情報を得たことを人に知られれば、人質を取ったり、拷問をしたりしてでも情報を聞き出そうとする連中が現れる。

加えて言うと使い魔の卵を得た後も大変だ。

欲深い人間は魔物よりよほど怖い。

ギルドで受付嬢と向かい合っていた。

俺はいつも受付嬢とは一人で話をする。

秘密が漏れないようにするためだ。

あの子たちを信用していないわけではないが、話していいことと、ダメなことを取捨選択ができない。

クエストの達成報告と素材の換金手続きを行う。

「あの、今は再配置直前で一番魔物が少ない時期ですよね」

「そうだな」

「今日は冒険者が山ほどいる神樹の森で狩りをしていたんですよね? 徹底的に魔物が狩りつくされたあとの」

「そうだな」

「どうして、一日で肉の収集クエストが終わってるんですか!? というか、この換金素材の量と質はなんですか」

「パーティのみんなが頑張ってくれたし、運が良かった」

受付嬢はひどく驚き、息を荒くしている。

無理もない。

再配置は明後日、この時期は狩りの効率は最悪だ。

魔物も宝箱もろくに残っていない。

冒険者たちも店じまいしているのが普通だが、神樹の森だけは使い魔の卵につられてうじゃうじゃやってきて、少ない獲物を取り合い、さらに悲惨なことになる。

驚きつつもさすがはプロ。てきぱきと換金とギルドポイントの付与をやってくれる。

受付嬢の覚えがよくなるといいクエストを斡旋してもらいやすい。初日にインパクトを与えておくのは悪くない。

それに財布が随分とあったまったし、もうすぐギルド階級の昇格間近まで来た。昇格すれば換金率が上がるほか、いいことづくめだ。

そうだ、大事なことを忘れていた。

「依頼していたパーティ募集の件はどうだ?」

「一件も応募がないですね……僧侶は人気があるので、なかなかフリーの方がいらっしゃらないんですよ」

クエストを受注した段階で、パーティ募集の手続きをしておいた。

金を払ってパーティ募集の依頼をすると、ギルドの掲示板に求人情報が張り出されるほか、条件に合う冒険者がクエストの手続きをする際にそれとなく受付嬢が紹介してくれる。

個人で探すよりずっと仲間が見つかりやすい。

ただ、僧侶はパーティに必須のクラスということもあり引っ張りだこだ。募集しても厳しいことはわかっていた。

「厳しいことはわかっていた。気長に待つさ」

「見つかりにくい原因がほかにあって、あなたともめた冒険者の方が、悪い噂を流しているようで、それも影響しています」

ルーナとティルに強引な勧誘をかけた連中か。

振られた腹いせに嫌がらせをするとはなんてせこい連中だ。

「……そういうことか。状況はわかった。もう少し待つよ。明日も来る。いいクエストがあれば紹介してくれ」

「お待ちしております。優秀な冒険者はギルドとしても大歓迎ですから」

ギルドを後にする。

悪いうわさか……。面倒なことをしてくれる。

おそらく、この街で新たな仲間を普通に得るのは難しいだろう。

帰り道に、体力回復ポーションと消化に良さそうな食べ物をたっぷり買っておく。

お姫様は相当弱っている。こういったものが必要だ。

歩きながら、一人ごとを漏らしてしまう。

「フィルが来る前に四人目を見つけて連携を強めておきたかったが、どうしたものか。いっそのこと、あのお姫様を味方に引き入れるか?」

俺は苦笑する。そんなこと無理に決まっている。

「バカだな、お姫様だぞ。冒険なんてするわけない。にしても、まさかあの子と再会できるとはな」

……ふと、十年前にお姫様とした約束を思い出した。

ラルズール王国からの指名クエストの際、次々に騎士たちは命を落としていった。

そして、俺たちのような外の人間が王族の護衛なんてものまで任されるようになった。

当時、お姫様……ルトラは六歳だった。

彼女は人見知りが激しく、まったく懐かずに護衛の俺たちにすら怯えていた。これでは仕事にならない。

だから、俺はこう言ったのだ。

『俺のことが怖いか? 信用できないか? 無理もない。おまえの言うところの野蛮な冒険者だからな。……だけどな、俺たちはプロだ。依頼は必ず達成する。言葉だけで信じられないなら、俺はルトラ姫の騎士になろう。騎士の誇りにかけておまえを守り抜く。だから、信じてもらえないか?』

そのとき、ルトラ姫は初めて柔らかな表情を見せてくれた。

そして、偉そうに騎士に任命すると言って見よう見まねで騎士の誓いの儀を行ってくれた。

六歳だったルトラ姫はそんな約束なんて忘れているだろう。

忘れていなかろうと、とっくに時効だ。

それでも、その約束があったから面倒に巻き込まれるとわかっていてルトラ姫を連れ帰ってきた。

一応、俺はあの子の騎士だ。お姫様を守るのは当然と言える。

不思議な縁だと思う。俺があの子を救えた可能性なんて、一億分の一もないだろう。

さて、お姫様の顔を見に行くとしよう。

あのおてんばで泣き虫な姫がどう成長したのかが楽しみだった。