軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話:おっさんはお姫様を助ける

星食蟲(せいしょくちゅう) に食われて隠しダンジョンである星食蟲の迷宮へと足を踏み入れていた。

星食蟲に食われた魔物たちがたっぷりと溢れているので獲物には困らない。

だが、いいことばかりじゃない。

地下の迷宮型特有の光源がなく視界がゼロという鬼畜仕様。

おまけに半日で体が重くなっていき、丸一日で歩くことすら困難、三日目には死に至る呪いがかけられている。

全長30メートルの星食蟲の体内のはずなのに、信じられないほど広大な迷宮だ。

一流の冒険者でも六時間程度は突破にかかる迷宮だろう。

今の俺たちなら攻略に十時間程度を見ておけば問題ない……もっともトラブルがなければだが。

ルーナがキツネ耳をぴくぴくと動かした。

「ユーヤ、その角の先で魔物が寝てる。猪の魔物」

さっそく獲物のお出ましか。

狩らせてもらおう。

「眠っているのならルーナ一人で先行しろ。起こさないように気配を殺して近づいて弱点にアサシンエッジを叩き込め。猪の魔物はほぼ全種類眉間が弱点だ」

「任せて。行ってくる!」

ルーナが走る。

石畳の上という音が鳴りやすい場所を走っているのに、まったく音がしない。

キツネの特性か、ルーナの走りは柔らかく無駄がない。

これは一種の才能だ。

ルーナは光水晶を身に着けていなかった。

ルーナには【気配感知】で敵の位置や周辺の様子がレーダのように頭に浮かぶ。だから、光源がなくても魔物は見える。光をつけないほうが不意打ちが成立しやすい。

ここにまでクリティカル特有の甲高い音が聞こえてきた。

ルーナが戻ってくる。うまくやったようだ。

「ユーヤ、お肉をドロップした。豚肉(並)」

「よくやったな。クエストに必要なアイテムだ。さあ、先に進もう」

「ん。もっともっとアサシンする」

幸先のいいスタートだ。

このまま進むとしよう。

それからはルーナとティルが大活躍していた。

二人は暗闇を苦にしない。

【気配感知】で敵が感じ取れるルーナ、エルフ特有の翡翠眼で暗闇でも視えているティルは、この暗闇がむしろアドバンテージになっている。

おかげで、俺が出る幕がない。

「ユーヤ、ティル、猪の群れがこっちに向かってきてる! 暗くて見えないけどかなり近い」

「りょーかい。群れなら弓だけじゃダメだね」

ティルが詠唱を開始し始めた。

数秒後、角を曲がって猪の群れが突っ込んできた。

ティルが矢を連射する。詠唱を続けながらだ。

これこそが、エルフに許されたエクストラクラス、精霊弓士の真骨頂。

詠唱しながら弓を使えるため後衛としての火力は二倍。

数十秒後、ティルの魔術が完成した。

上級雷撃魔法【神雷】。俺たちのパーティ唯一の広範囲攻撃。

無数の雷が降り注ぎ、猪たちをまとめて薙ぎ払う。

「「「ガアアアアアアアアアアアアア」」」

感電した猪たちが悲鳴を上げる。

ここの魔物の適正レベルは25。範囲魔術で即死とはいかない。

だが、あらかじめ弓でダメージを負っていた猪たちは倒れ、無事なものも雷撃の副次効果で動きが止まる。そこに矢が飛んできてとどめが刺される。

それでも数が多く、矢でのとどめが追いつかない。

何匹かはしびれが抜けて突進してくる。

俺とルーナが前にでる。

「【バッシュ】」

「【アサシン・エッジ】」

俺が追加効果がない分、威力も高い斬り降ろしのスキルを発動し、ルーナがクリティカル時のみ大幅な威力補正がかかるスキルを放った。

お互い、ホーン・ボアの眉間に全身の力を込めた一撃を叩き込みクリティカル音が鳴る。

即座に次の得物を狙う。範囲攻撃で削れているおかげで一撃で倒せる。

すぐに、敵を全滅させることができた。

「やった。お肉がたくさん」

「ふふん、ユーヤ。褒めてくれてもいいよ! 私がほとんど倒したんだからね」

上機嫌でルーナとティルは近くにドロップした肉を魔法袋に詰め終わると、離れた距離で倒したホーン・ボアたちの肉を拾いに走っていく。

冷汗が流れた。

「止まれ!!」

大声で叫ぶ。

二人は立ち止まろうとするが、興奮のせいで反応が鈍いうえ、勢いがつきすぎてる。

このままでは……。

「はっ!」

扉を開ける。白い力が全身を強く包む。

白い力をすべて足に込め、瞬足の踏み込み【縮地】を使い超速で移動。

二人の襟を掴んで、後ろに引き倒す。

ルーナとティルが地面に叩きつけられ鈍い音がなる。

ぎりぎり過ぎて、優しく止める余裕がなかった。

即座に扉を閉じる。白い力が消える。白い力は消耗が激しい。ここで俺が動けなくなるわけにはいかない。

「ユーヤ、痛い」

「ううう、こぶできたぁぁぁ」

二人が恨めしそうに見ていた。

「……すまない。だが、止めるにはこうするしかなかった。見ていろ」

とどめを刺し損ねていたホーン・ボアを持ち上げる。

そいつを、ルーナたちの少し先にある微妙に色が変わっている床に置いた。

床がぱかっと開き瀕死のイノシシが落ちていき、肉を貫く生々しい音が聞こえた。

ルーナとティルは床を覗き込む。

槍が敷き詰められた落とし穴があり、ホーン・ボアが串刺しになっていた。

「この落とし穴は人間を狙ったものでな。重すぎても軽すぎても発動しない。ホーン・ボアたちは群れで通過したから重すぎて発動しなかったが、お前たちの体重なら間違いなく落ちてた。事前に、迷宮型ダンジョンには罠があると忠告するべきだったな」

迷宮型のダンジョンで罠を警戒するのは当たり前。

だが、二人は初心者だということを忘れていた。

ルンブルクの初級者用のダンジョンでは罠が少ないが、中級者用以降のダンジョンでは罠が増えてくる。

……ただでさえ視界の悪いダンジョンで、こういう罠は猛威を振るう。星食蟲の迷宮での生還率が低いのはこういった罠のせいでもある。

「危なかった。落ちたらルーナは死んでた」

「うわあ、なにこれ。ほんと怖いね」

二人が青い顔をしている。

そして、目の前の床が音を立てて再び閉まる。

「ユーヤ、この前レベルがあがった。スキルポイントも余ってるし【罠感知】もとっておく。怖い」

「いや、それはいい。たしかに罠は怖いし【罠感知】は便利だ。だがな、ダンジョンの罠は全部見抜けるようになっている。ルーナの盗賊スキルはほかに回すべきだ。俺が罠の見分け方を教える。だから、スキルに頼らずに罠の見分け方を覚えろ」

「わかった! ルーナにたくさん教えて」

隠し宝箱のほうはノーヒントのものも多いが、罠の場合はすべて見分け方が存在する。探索スキルがなければクリア不能なんてダンジョンばかりだとパーティメンバーの固定化を招く。

それではクソゲーだと製作者もわかっている。

だからこそ、探索スキルなしでもクリアできるように配慮されていた。

盗賊の探索スキルは多岐に渡る。

経験で補えないものを優先して取るべきだ。候補としては【ドロップ率アップ】や【呼び寄せ】あたりを取ってほしいと思っていた。

一通り、ありがちな罠の内容と見破り方を教えて俺たちは再び迷宮を進み始める。

ただ……。

「さっきからルーナとティルは俺の後ろにぴったり張り付いているが。なぜだ? 動きにくいんだが」

「だって、ユーヤの前を歩くの怖いじゃん!」

「ん。ユーヤ、前を歩いて。ルーナたちには罠がわからない」

二人は今のでかなり懲りたらしい。

「今日だけだぞ、歩きながら罠を見かけたらその場で罠の見分け方をしっかり教える。次からは自分たちで罠を見抜けよ」

二人が頷く。

さて、肉をたっぷり回収しよう。

ホーン・ボアの群れのおかげでノルマまであと一歩まで来ていた。

また魔物と遭遇した。さっきから何度も魔物と戦っていた。

魔物がうようよいる。

これだけ魔物と遭遇できるということは、ここを狩場にしている冒険者がいないことに他ならない。

ティルが新たに現れた魔物めがけて矢を放つ。

しかし、その矢は外れた。

ティルが狙いを外したのを初めて見た。

二足歩行のシカという極めて気持ち悪い魔物……パンチャー・バンブーが軽やかなステップで近づいてくる。

ルーナが前にでる。

いつものように急所めがけてアサシンエッジを放つ。パンチャー・バンブーの腹に突き刺さるが、クリティカルの音が鳴らない。

これでは通常攻撃と変わらない。パンチャー・バンブーを怯ませることすらできていない。奴はグローブを嵌めた手で右フックを放った。ルーナの側頭部に当たり、小さな体が吹き飛ばされる。

「……この子たちは追い込まれた経験が少ないからな。やっぱり精神的に追い詰められるとボロが出るか」

前にでる。

パンチャー・バンブーの左ジャブが飛んでくる。

首を振って躱し、お返しに伸びきった腕の腱を切り裂くと奴は悲鳴を上げた。

そのまま距離を詰めて、突きを心臓めがけて放つ。

クリティカルの音が鳴り響く、一撃でパンチャー・バンブーが倒れて青い粒子に変わる。

「ルーナ、ティル。もう限界か?」

「まだ、やれる」

「今のは、たまたまだから。次はちゃんと当てるよ」

そうは言っているが、どう見ても限界だった。

無理もない。

あの罠で命を落としかけてから二人は過剰なまでに罠に怯えている。過剰な怯えは容赦なく精神を削る。

そして、その怯えは足を鈍らせる。

とっくに迷宮を踏破している時間になっても出口までたどり着けず、半日が経ち呪いが始まった。

俺たちの体は自分の体とは思えないほど重くなっている。

疲労と呪いのダブルパンチ。経験が少ない二人がいつもの力を発揮できないのも当然と言える。

「なら、もうひと踏ん張りだ。あと半時もしないうちに出口だ」

返事する気力もないのかこくりと頷いた。

二人には悪いがいい機会だと思っていた。

底力を鍛えるのは、限界まで追いつめられる必要がある。何分、俺が先導している上に二人は優秀だ。今まで苦労らしい苦労を経験させてやれなかった。

こんな機会は滅多にない。たっぷりとぎりぎりの探索を楽しんでもらおう。

ルーナが顔を上げ、慌てた様子で叫ぶ。

「ユーヤ、すごく強い蜘蛛! すっごい勢いで近づいてくる。上? 天井!」

ルーナが疲れている中、必死に声を上げ、怯えるほど強い蜘蛛。……その蜘蛛の魔物には心当たりがあった。

神樹の森でもっとも恐れられる魔物の一体、大食いで人肉を好む大蜘蛛、ハンティング・スパイダー。奴の糸は強靭で並みの剣では斬れず、さらに肌に触れれば麻痺毒によって冒険者を蝕む。

あいつは腹が減っているときはその場で倒した冒険者を喰らい、腹が膨れているときには麻痺毒付きの糸でぐるぐる巻きにして巣まで運び保存する。

一度捕まると悲惨だ。拘束する糸そのものに麻痺毒があるので、麻痺の自然回復ができない。

神樹のダンジョンは適正レベル25のダンジョンだが、あいつの強さはレベル30並みであり、犠牲になる冒険者が後を絶たない。

そして奴がきた。

ルーナの【気配感知】がなければ気付かなかっただろう。無音で天井を走っている。

そして、尻から出した糸を天井に張り付け落ちてくる。

強敵との戦いはルーナとティルに経験してほしいが、今はそんなことを言ってられないな。

振り返らずに音と勘を頼りに剣を投げる。

やつをつるす蜘蛛の糸を剣が断ち切った。……こいつは俺の相棒だ。並みの剣ではない。

予想外のタイミングで糸が切れ、ハンティング・スパイダーが頭から地面に落ち、着地にも失敗し隙を晒した。

「【爆熱神掌】!」

俺の左手が光って唸る。

狙うは頭だ。

余裕がない以上、最高火力で即死させなければ、こちらが敗北する。

ハンティング・スパイダーは炎に弱く頭部が弱点だ。

超火力の炎の一撃を頭部に受ければ一たまりもないだろう。

捉えた! 炎の掌が奴の頭を焼き尽くした。

頭部が消失してもぴくぴくとのたうちまわる。

二本目の剣、黒い魔剣を抜き、胴体に突き刺し、ようやく死んでくれた。

「ルーナの忠告のおかげで気付けた。ありがとう」

「……お礼なんていらない、ルーナは気付くことしかできなかった」

ハンティング・スパイダーの体が青い粒子となって消えていく。

ドロップアイテムは魔蜘蛛の邪眼と魔蜘蛛の絹糸。錬金術の素材としてなかなか有用なアイテムだ。

それから……。

「これはアイテムじゃないんだろうな」

ハンティング・スパイダーの糸で包まれた人型の繭が三つ残されていた。

おそらく、ハンティング・スパイダーは巣に餌を運ぶ途中だったのだろう。

あいつは繭で包んだ獲物を胴体に巻き付けて巣まで移動する。

間抜けにも星食蟲に喰われて迷宮をさまよっているところを襲われたのか、あるいはもともと狩りを終えたハンティング・スパイダーが星食蟲に喰われたのか……。

麻痺毒にやられないように皮手袋をつけて糸を切り裂き繭から中身を取り出す。

三つあったうち二つは中身が死んでしまっていた。

炭のように真っ黒だ。迷宮の呪いによるものだ。

……ハンディング・スパイダーは繭でとらえた獲物を鮮度を保つために殺さない。死因は迷宮の呪いだ。

中堅上位の冒険者たちらしく、装備もアイテムもなかなかいい品ぞろえだ。ありがたくいただいておく。

残り一つを開き、絶句した。

「まさか、お姫様とはな」

「ユーヤ、きれーな人」

「すっごい、美人さんだね。でも、ちょっと黒くなってる」

それは、ルンブルクのレストランで偶然再会した銀髪のお姫様だった。

ラルズール王国の姫が星食蟲に食われた。

どうしてお姫様が神樹の森に来たのか? どうして護衛がついているはずなのに星食蟲に喰われたのか? 疑問は尽きない。

陰謀の匂いがする。たぶん、この子を助ければ俺たちも巻き込まれる。

だが、知らない仲でもないし、ここで放置するほど俺も非道ではない。……それにこの子とは昔、”とある約束”をしたからな。俺は約束を破らない。

半日が過ぎて呪いで重くなった体で、姫を背負う。

「見殺しにはできないな。連れていくぞ」

ラルズール王国の依頼で受けたクエスト、そんな中、この子の護衛をしていた。その際に、一つの約束を交わした。

この子は忘れているだろうが、俺は覚えている。

だから、救う。

……お姫様は全身の黒化が始まっている。

この進行具合からして後三時間程度で命を落とすだろう。それまでに迷宮を出ないといけない。

「ルーナ、テイル、急ごう。もう少しで出口だ。最後の力を振り絞れ!」

「ん。がんばる」

「あはは、ちょっと辛いけど、もう少しならね」

そうして、出口を目指す。

最悪は俺以外の三人に帰還石を使わせて先に脱出させよう。

そんなことを考えながら足に力を込めた。