軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狂信者の独白

私の今の名はジル・ド・モンモランレー

生まれ持った名ではない。

任務のために与えられた名だ。

しかしながら生まれ持った時に与えられたそれよりも長いこと使っている名前である。

私の生まれは帝国貴族の五男坊だっただろうか…

あまり裕福な家では無かったと記憶している。

そして当時の自分はあまりにも愚かだった。

自分に発現した力を両親の前で晒してしまったのだ…あれは迂闊だった…

私の力を知った両親は私の力を使い貴族的地位を高めようと動いた。

結果、国に私の存在がバレてしまった。

そして私は現皇太后様の…当時はまだ皇后陛下の元へと送られた。

そこはギフテッドだけを集めて運用する国の中でも知るのは限られた一握りという特務機構だった。

ここで私のギフトを紹介しておこう。

私の力は単純で発現率が最も高い魔眼である。

ただ、私の魔眼は聖力が見えるだとか見つめれば炎を出せるとかの単純な物ではない。

私の瞳は見た物の真実を教えてくれる。

その者が何者なのか、どんな力を秘めているのかを教えてくれる。読もうと思えば思考も読める。

現皇太后様によって「心眼」と名付けられたこの力で私は同胞となるギフテッドを探しだし国へと送ると共に教会内を見張る任務に就いた。

任務地は教会で、表向きは私は教会に追いやられた哀れな貴族籍の要らない末孫という触れ込みで入り込んだ。現実、あまり立場は変わらないので何の疑問も持たれることは無かった。

数年後、皇帝陛下の崩御による代替わりで組織の指揮権は現皇后様へと移ったが、一部の人間の指揮権は相変わらず皇太后様が握っていた。私もその中の1人だ。

時折、反乱分子の炙り出し等の為に皇城へと呼ばれていたが、代替わりしてからはそれもめっきりと減り、地方教会を回されて同胞が居ないかを探す退屈な日々となった。

そんな鬱屈とするような日々は終わりを告げる。

11年前になるだろうか…当時の私はエメンタール領のエトワール枢機卿の元で従者として仕事をしていた。

その年の夏、神の使徒が現れる。

彼女はギフテッドだった。しかしながら力はそこまで強い訳ではない。術式を読み解いたり聖力の流れを見とる事が出来る程度だった。

しかし彼女の真価はそこではない。清く澄んだ心根と高い女神との親和性…不憫な運命の揺籠から零れ落ちた星の輝きの如き奇跡を私は彼女に見た。

彼女は聖域で女神の使徒となったご当代の声を聞いた。そして願いにその小さな体で応えた。

何と素晴らしい事か…何と神々しき様か…あれはもう人の子の形をした天使だった。

彼女を手に入れたい…あの天使を地へと引き摺り下ろし私の欲で溺れさせたい…

正直、私にこんなにも人間らしい感情が残っているとは思わなかった。

それから数年はエメンタール領からテコでも動かなかった。彼女がまた訪れてくれる事を期待して、一目お会いするのを楽しみに務めに励んだ。

無論彼女の事も国に 正(・) 確(・) に報告はしている。

「エメンタール領主が息女スピカ・フォン・エメンタールに魔眼の兆しあり。しかしその力、国の欲する物となり得ない」

こんな報告でも皇太后様は見逃さなかったらしい。

彼女がデビュタントを迎えると同時に自身の孫との婚約前提での選出を行ったのだから…

最も彼女の素晴らしさと持って生まれた聖力による物や家柄なども考慮されてのことだとは思うが、本当に皇太后様は抜け目がない…

流石に5年目になると任務地を変えられた。国外で同胞探しの日々となる。

ある日訪れた農村で1人の少女を見つけた

とても勿体無い哀れな子供だった。

どんな育ち方をしたのかは知らないが自身の能力で自身の身内を呪い、結果自分を傷つける憐れな子羊だった。

彼女は自分の両養い親に「どうせ私が養女だから可愛くないんでしょ?」「どうせ私は養女だからどうなったっていいんでしょ?」と繰り返していた。

そして両親達は少女の言うように振る舞った。

私の瞳で見えた彼女のギフテッドは「自身へ好意や関心のある人物へ声を通して自身の思考に近いものへと誘導する能力」と見えた。

もっとも、微塵も思ってもいない事や知らない事には効果は無さそうではある。

私は彼女の事は直ぐには報告しなかった

しばらく私は考えていた。彼女を使えば私はあの天使をこの 腕(かいな) に 抱く(いだく) 事が出来るのではないか…

しかし、それは同時に危険な賭けである。

彼女がどうなろうと構わないが、私の天使が堕ちてただの人の子になってしまうかもしれない…

いや…それもまた一興か…

私も皇太后様に叱責される位はするやもしれないがそんなのは些末ごと

私はやらないよりやった方が確率が上がると判断して彼女に接触した。

それは初めて彼女を見かけてから半年以上過ぎてのことだった。

私の元には婚約者候補となった第三皇子が天使に気があるかの如き報告が上がっていた…

急がねば。私の天使が皇室などに掠め取られてなるものか…

少女の名はピス。

私には齢14と見える。

我が天使は御歳15の大人とも少女とも分からない神秘の成長をされている事だろうと妄想に少しばかり逃避する。我が天使よりも1つ年下とあるがそれよりもよっぽど子供に見える。思想や栄養状態の差なのだろうか…

初めて見かけた時には生きていた養母は病をえて死んだようだった。それを受けて一層「わたしのせいで…」を繰り返し今や養父は廃人に近い…

本当に哀れな娘だ。

「ピス、こんにちは。私はジルというしがない神の使いです。貴女は神からとても素晴らしい贈り物を持って生まれてきた人です。

私(・) の(・) 為(・) に(・) にその力を使ってみる気はありませんか?

私は貴女を幸せにするお手伝いが出来ますよ?」

そう言って近づけば初めこそ警戒をされたが徐々に心を開いた。

自身の能力で周りに少しずつ毒を撒き散らしていた影響もあって、彼女は村でも鼻つまみ者だったので、話を聞いてくれる私は貴重だったのだろう。

こうして私は貴重な 駒(ピス) を手に入れた。

後は細々とした細工をしながら彼女をエメンタールへと送り込む準備をした。

彼女には貴族的な事は教えなかったが読み書きや計算の最低限は指導した。

一緒に連れてきた父親は早々に処分した。

彼女の力について説明し、それを高めるように、そしてその思考を私のそれに近いようにと洗脳をした。

ピスは気付いて居ないだろう。

まるで雛鳥のように彼女は私から与えられる知識を呑み込んだ。世界を知らない幼児はそれが絶対的な正義だと錯覚する事だろう。

文字が書けるようになれば今度は魔法契約書にサインをさせる。私には逆らえないようにとの従属の魔法だ。

これでも私は神の使いを名乗るほどには慈悲深い。

彼女がもしも誤った道に進んだ時には安らかに天にお返ししてあげよう。

そして私の仕掛けに獲物が掛かった。

その頃にはピスは力の使い方をある程度習得していた。

これならば使い物になる。

私の指導で彼女の心根は変質して妬み嫉みの坩堝。

そこにあの清らかな天使を見たら正気では居られない。ピスを私はそのように仕上げた。

しかし彼女の思考其の物は勿論いじる事は出来ない。そんな事出来るのは神の領分だ。彼女には出来るが私には出来ない。

故にこの後行うであろう所業は全て 彼(・) 女(・) の(・) 業(・) だ。

そしてエメンタール家の人々が来る連絡を受け取ってから、彼女に宝具を1つ預けた。

神代の時代に作られた 聖遺物(アーティファクト) であるネックレス…相手の感情の揺れを高めるそれは感情を押し殺す事に長けた貴族達にも効果はあるだろう。

神代に造られた魔道具は現代でも効果は高い。それにこれは高めるだけである。好意はより強く感じるし悪意もまた然り。後悔の念は深く、感動は一層明るく感じる程度だろう。

まぁ、その力の対価として対象者が最も愛する者に対して悪感情を抱いたり、逆に執着したりという副作用もあるらしいが大した問題にもなるまい。

きっとピスとの相性も良い。

そしてエメンタール夫妻がピスの元へと来た。

顔立ちと瞳の色と年齢だけで彼女が自分達の娘であるように感じる程度に本物の娘への渇望があったのだろう。

2人はすんなりと彼女を信じた。

彼らは相当に本物の娘とやらに罪悪感があるようだった。この調子ならば彼女の思うように惑わされてくれる事だろう。

もっとも私もピスに「 君(・) の(・) 本(・) 当(・) の(・) 親(・) を(・) 名(・) 乗(・) る(・) 人(・) が(・) 君(・) の(・) た(・) め(・) に(・) 来(・) る(・) よ(・) 」と伝えていた。

彼女が間違えるのは無理もないが私は正確な情報を語っただけだ。間違えたのは彼女達だ。

しかし、本当にあの聖人ともなられる天使の両親かと思う程に、この2人は愚かで浅はかだ。

いや、外交官ならいざ知らず、結界という微温湯に浸かっている内政貴族などこんな物なのかもしれない。

契約書にかけられた魔法刻印も確認せずに書類にサインするとは何たる迂闊さだろうか…

名前を決めさせたのも魔術的な意味合いがあったのだがこの様子では気付いて居ないだろう。

これで彼等はピス…もうステラでしたか。彼女を優先しなければ気が済まない。

彼等にとって ス(・) テ(・) ラ(・) が(・) 本(・) 物(・) の(・) 娘(・) だと宣誓したのだから…

私はこの後、私の元に天使が転がり込むのを夢見て3人を送り出した。

しばらくすればあの純粋で清らかな天使は苦しみに耐えかねて自ら教会へとやって来る、と私は考えて帝国内の教会へと戻った。

教会へくれば私と婚姻を結ばせよう…そして私の腕の中で堕ち行く天使を存分に愛でよう。

堕ちないならばそれでよし。その時は存分にその純潔を味わおう。

しかし、事はそう予想通りには運ばない。

やはり我が天使はとても高潔であったのだ。まるで蓮花の如く苦しみの泥の中でも、冷遇の水の中でも凛と咲いてみせる!

あぁ、やはり我が天使は至上の至宝なのだと心が高鳴る。

しばらくすれば皇太后様より第3皇子の正式な婚約者として打診する話が聞こえてきた。

その頃には中々家を出て行かない妹に憤るステラからの相談も舞い込んでいた。

私は屋敷に行けば我が天使と会えるやもと喜び勇んで向かったが、残念ながら我が天使との目通りは叶わなかった。

しかしながら収穫もあった。

ギフテッドは 創造(イマジナリー) の力であると私は思っている。故に成長をする事もある。

彼女が正にそれだった。彼女の力は本質は変わらないが範囲が大きくなっていた。

その分の制約も増えていた。彼女が直接目を見て口を開き語らねば思考を誘導は出来ないし、他者に忠誠を誓った者や彼女に悪感情を抱く者には効果は著しく薄いようだった。

彼女も効果が無いと嘆いていたがきっと我が天使も効きの悪い使用人達にもその毒は効いている。そもそも我が天使もギフテッドだ。効果が薄いのは当然である。

故に本能的に学園へと逃げたのだろう。

全く我が天使は本当に一筋縄では捕まっては下さらない。

しかし彼女は大分と思考が偏っている。どうやら市井の物語に感化されたのか己こそが主人公で世界は物語の舞台と思っているようだ。

多分私も彼女の物語の演者なのだろう…

まぁ、彼女の人生だ。彼女の選択に任せよう。

彼女の 業(カルマ) なのだから…

一応、彼女の要望に応えて学園内の下級貴族の何人かには金を握らせて噂雀をさせた。

我が天使が夏は旅行に行くと聞けば彼女は私に賊の手配を頼んできた。

私はそれに従って賊を手配した。どうせ捕えられるのは既定路線。我が天使は万が一に男に穢されたとて気高き心を失わない。

冬に教会でお過ごし頂いた際には我が天使はとても疲れていらっしゃった。お労しやと自身に与えられる範囲の権限で面会謝絶にしたり、我が天使が心を砕く孤児院の子供達を招いた。

「このまま教会へと身を寄せてもよろしいのですよ? 主も私も貴女様を歓迎いたします」

そう問いかけましたが、我が天使は

「お気遣いありがとうございます。

しかし私には想う人も、想う場所もまだこの帝国に御座います。今しばらくは俗世に在りたいと思います」

と儚げに笑われたのだ。

なんと健気な事か…

このまま俗世を離れると言ってくれれば、そのまま囲い込み即座に私の身元で私の欲に溺れさせる事が出来ると言うのに…

そしてこの方を煩わせる想い人は多分第三皇子…

私はステラへ皇子と婚約するのはどうだろうかと話した。

彼女が皇子と結婚すれば我が天使の身は自由だ。

そして我が天使が他所に取られぬ策も授けておく。

彼女は全て己が考えのように感化され動いてくれた。

労しい事に我が天使は独居房にまで入れられてしまった。夜な夜な訪ねたが招き入れてはもらえなかった。

ステラに頼まれたのか素行の悪そうな若い男も何人か訪ねていたが結果は同じだった。

我が天使を堕とさんとすると若者達は腹いせに処分したが憂いは晴れない。

皇太后様に私が報告を故意に遅らせていた事がバレてしまった。

その後私は暫く報告義務違反の罰としてまた地方へと飛ばされてしまっていた。

報告は正確に行なっていたのだが、皇太后様の元ではなく皇后陛下の所に遅れて届くように細工したのが気に障ったらしい。

自分の思惑通りに事が進まなかった腹いせはやめて頂きたいものだが…

そうしている間に我が天使は女神の使徒となられてしまった…

知らせを聞いて私はエメンタールへと飛んだ。

その後無理矢理に聖域への転移陣までは入ったが結界によって阻まれてしまった…

忌々しい? とんでも無い‼︎ 何と素晴らしき事か‼︎

あぁ、私めはまだ貴女様に御目通り叶う程の徳を積んでいないと言う事なのですね!

私は歓喜に打ち震えた。

私の目には結界が書き換えられていく様がありありと見えるのだ!

こんな偉業を成せるのは我が天使をおいて他にはいまい

私の目は結界が国境線が現在のものに書き変わったと告げている。

悪しきものの排出の為に手間取っている地区もあるようだ。

更に驚かされるのは効率化だろう。

古い術式で非効率な部分が改められて今までの半分程の力で結界が維持できるようになったと記されている。

そして我が天使の慈愛が滲む契約が追加されてゆく。

これは結界の乙女のシステムの価値観と常識を大きく覆す変革だと歓喜に体から震える!

素晴らしい! こんなにも世界を変える力をお持ちとは…何と尊い‼︎ 何と高潔! 何と神々しいのだ

やはり私の目に狂いはなかったのだ! 早くこの偉業を伝えねばと滲む涙を拭えばまた一つ結界に新たな情報が加えられる…

「結界内で人の心を相手の同意無く動かすギフテッドの効力を無効化する」

私は笑いが漏れる。神の使徒となった我が天使も人間らしく彼女に憤っていたのだと思うと嬉しくなった。

そのまま私は帝都へと飛ぶ。途中で国中に新たなる神の使徒の誕生と偉業を伝え讃える為に噂雀や吟遊詩人に我が天使の成し遂げた事を歌わせた。

数日中にはこの国中に我が天使の話は伝わるだろう。

そして誰しもが我が天使の事を思い神に感謝するのだ。

皇城へと向かい報告を己の口ですれば皇太后陛下にはまた叱責を受けた。そして自分の蒔いた種なのだからしっかりと刈り取るようにとステラの後始末を任された。

そして彼女に新しい名前と居場所を与えて国外へと向かう。

フランソワ・ペローという私の新しい名前と共に。

彼女の今の身分は私の従者。

今の私は外交官の1人として諸国を巡り我が天使の偉業の布教と共に国に有益な交渉を進める一助を担っている。

無論彼女にもその栄えある栄誉を賜っていると言うのに中々仕事に真摯的では無いので、体で覚えてもらう方針で今はバシバシと鍛えておりますよ。

私にとって必要なのは健全な体で無く従順な心と能力だけなのですから

それに彼女を更生させる事が出来れば我が天使もきっと私をお認めになる!

聖域に招かれるその日を夢見て私は国のため、そして我が天使の為に身を粉にして務めるのです。

―外交官の記録―

帝国にはとても素晴らしい外交官がいた。

大聖女の誕生以降に現れたその外交官は人の心を読み、操るかの如く諸外国との交渉を進めた。

その辣腕振りから出世欲の高い俗世な人間かとも誤解されがちだが、決して私欲では動かず国を立てる姿勢は外交官の鑑のような人だったと伝わっている。

その生まれも私生活も謎のままではある。これと言って特徴もない彼が語られるのはその偉業の多さと国、聖女への敬虔なる献身ゆえ。はたまた、いつも傍に酷い火傷を負った従者を従えていた彼の博愛の精神故だろうか…

最後は教会の枢機卿の地位にまで登った男は一部の外交官達から神の如く崇められている。

しかしながら彼を知る者は口を揃えてこう言った。

「彼はまさに狂っている」と…

誰も彼の真実を知る者はいない。