作品タイトル不明
18
窓から差し込んだ日を浴びて、手入れをされた庭園の花を眺める。目の前のテーブルには、高級なお茶やお菓子が並んでいて、とてもいい香りがしている。
「……昼間から贅沢よね。」
私の言葉に苦笑した使用人は、私が屋敷から出ないようにと命じられている。
「お父様もシリウスも過保護なんだから。」
ため息をついて出た言葉に、ヴェルディア領まで着いてきたリリーは呆れたように言う。
「無茶をしたので当然ですよ。」
誘拐事件の後、お父様の執務室でこっぴどく怒られた私は、しばらく謹慎していろと言われた。
そして、お父様はそのまま私をシリウスに託し、ヴェルディア領まで連れてこられた。私は領主の屋敷で、シリウスが執務の間監視付きとなったのだ。
別に特に文句は無いのだが、じゃじゃ馬のような扱いには納得がいかない。とは言っても、こんなにのんびり花を眺めるのは久しぶりで、監視付きとはいえ気分は上がる。ヒラヒラと舞う蝶を眺めながら、花の香りがする紅茶を口に含んだ。
「リア。」
私に与えられた、日当たりの良い部屋のドアから、顔を覗かせたシリウスは、ニコニコと笑っている。
「あら、お仕事お疲れ様。」
「ありがとう。いい子にしていた?」
使用人を数人だけ控えさせ、休憩をとるというシリウスは、私の正面に腰かける。
「そんな子供じゃないのよ。」
昔のように頬を膨らませた私を、シリウスは苦笑しながら見ている。
「公爵様からリアのこと任されたからね。退屈かもしれないけど、大人しくしててね。……あ、明日は視察があるんだけど、一緒に来るかい?とは言っても、領民の話を聞いたりするだけなんだけど。」
「え、いいの?だったら行きたいわ。」
一度、長閑な自然の中を歩いてみたかったのだ。前世では、映像でしか見ることが出来なかった空気を、感じてみたい。公爵家に生まれてしまった私には、なかなか経験できないことだった。
ついつい楽しみでニコニコとしてしまう私へ、シリウスは「手を繋いでおけばいいか」と呟いていた。
翌日、紫と黒ジャケットに白のパンツを身につけ、シリウスの待つ玄関ホールへ向かう。歩きやすい、ブーツの音で振り返ったシリウスは、私を見ると固まってしまう。
「おはよう。シリウス。……どうかしら?……今日はあなたの色で纏めてみたの。」
視察先に迷惑にならないよう、動きやすいパンツスタイルではあるが、男性的にならないようにデザインされている。
「……リア。とても綺麗だよ。……君が、僕の色を纏っているのが、こんなに嬉しいなんて思わなかった。」
「ふふ。大袈裟ね。」
私の手を引いて呟くシリウスに苦笑してしまう。
「それにしても珍しいね。」
「うん。歩きやすい靴は、これしか持ってきてなかったみたい。だから服もそれに合わせたの。」
「そっか。どんな服も似合ってるよ。」
きゅっと、私の手を握ったシリウスにエスコートされ、馬車に乗り込む。ウキウキと車窓から見える景色を眺めながら、シリウスと他愛もない話をしていた。
馬車が止まり、御者によって開かれたドアから、シリウスの手を借りて降りる。
「……わぁ、綺麗ね。」
辺り一面が金色で染まり、風でゆらゆらと揺れる麦の香りがする。シリウスと私を見た領民は、手を止めて挨拶に来てくれる。
「ようこそおいでくださいました。シリウス様。……そちらのお方は……?」
声をかけてくれた五十代くらいの男性は、シリウスに手を引かれた私へ目を向ける。その視線を受けて、私はニコッと微笑んだ。
「ああ、彼女は、アメリア・エルヴァン公爵令嬢だよ。」
「えっ。」
シリウスの言葉に驚いた領民達が、私へ頭を下げ始める。それに慌てて声を上げた。
「やだわ。そんなに畏まらないで!……今日は私がお邪魔するのだから、頭を下げないといけないのは私の方だわ。……それに、楽しみにしていたの。ぜひ貴方たちのお話を聞かせて。」
そう言って顔を上げるように声を掛けると、恐る恐る顔を上げる。
「……そうでしたか。何もありませんが、ゆっくり見ていってください。」
そう言った男性に微笑みかけ、そうするわと答えるとぎゅっと手を握った。汚れると言われたが、私はそんなことは気にしないと言うと、困ったように笑っていた。
「……リア。そんなつもりは無いのは知ってるけど、妬けるなぁ。」
パッと手を離した私の腰を引き寄せて、耳元で囁くシリウスを見上げると、拗ねたように眉間に皺を寄せた。その様子を見た男性は、オロオロと私とシリウスを見比べた。
「……えっと、お二人の関係は……?」
恐る恐る尋ねた男性へ、シリウスはニコニコと笑って答える。
「恋人。まだ整っていないけど、僕が家を継ぐ時は、隣にいてくれる人だよ。」
男性は、私が苦笑するだけで否定しないため、理解したようだった。「そうでしたか」と穏やかに笑ったあと、案内をすると説明を始めた。