軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【46:乱戦(上)】

街道の先で、幾体かの妖魔がまともに太矢を受け、ばたばたと倒れた。数はそう多くない。それでも妖魔どもの行き脚は更に鈍った。まともな抵抗を受けなかったからこそ、ここまで追撃してきたのだろう。

それがここへ来ていきなり正面からクロスボウの斉射を浴び、少なからず混乱しているようだった。

「次射、構えぇ!!」

ベイラムの号令が響く。

できるならばもう一度引き付けて射撃し、妖魔どもを混乱させて、そのあとは討って出たいところだった。無論そんなことは不可能だ。ここにいるのは輜重兵で、相手を迎え討つところまでは訓練していても、敵の混乱に乗じて逆襲するような動きは想定していない。

そもそも、目の前の相手の規模すら見極められてはいないのだ。

粘った上で離脱・撤退しようとしている部隊には危険すぎる話でもあった。

「街道南側の敵に動き! 樹木線の際に寄ってきている!」

街道の南側を監視させていた兵から声が上がった。

飛び出してきたわけではないが、騒ぎは当然、耳に入っているだろう。前方の集団が押してくるタイミングを見計らって出てくる、くらいのことは十分にあり得る話だった。

数で押し込んで近接戦闘、というのが妖魔の狙いであり基本戦術だ。奇襲や挟撃はそういう意味で相性がいい。こちらの防御が分散したり十分機能していない状況を作れば、それだけ数の効果は高まる。

「射撃は続行!」

いま前方から来る敵に対峙している兵に動揺されては困る。敵の主力はそこにあって、南側の敵は別動隊のようなものだ。だからまず前方の敵を叩く。内心の焦燥をできる限り表に出さないようにと意識しながら、レフノールは命じた。

「狙えー!」

その命令に、ベイラムが号令でもって答える。

妖魔どもの隊列に向けられたクロスボウがわずかに動き、止まった。

「 射(て) ぇ!!」

ふたたび射撃の弦音。先ほどよりも近い位置でいくつもの悲鳴が上がる。

「装填は中止、槍を準備して近接戦闘用意!」

歯噛みするような思いで、レフノールが命令する。

射撃の速度を上げるために、再装填のための兵を配しているが、そういう贅沢はもう許されない。近接戦闘要員を用意しておかなければ、突破してきた妖魔どもに蹂躙されてしまう。

――射撃だけで優位を取れるはずもない、か。

そもそもの役回りが後方での兵站のはずなのに、なぜこんなところで優勢な敵を相手に自軍の殿を務める羽目になっているのか。そう思いながら、レフノールはこんなところで疑問を抱いたら負けだ、とも思っている。

「射手、次射構え! 射手以外は槍だ! 構えたら決して下がるな! 下がったら押し込まれて死ぬぞ!!」

がしゃがしゃと装具の音を立て、兵たちが武器を持ち替える。戦意をみなぎらせている顔もあれば、緊張で引き攣った顔もあった。

「コンラート、ゴーレムを回して正面の敵に対応してくれ。射撃で足止めしきれなかった奴を止める」

「了解。射撃後に?」

「そうだ。頼む」

頷いて、レフノールが声を張る。

「押してくる連中はゴーレムで一旦止める! 抜けてくる奴にだけ落ち着いて対応しろ!」

その言葉で兵たちの、特に前線を支える役回りの兵たちの動揺が多少なりと収まったのを見て、レフノールはひとつ息をついた。

「大尉、南側どうする?」

剣を抜いて臨戦態勢のアーデライドが尋ねる。話しかけられる機会を待っていたらしい。これから考える、とはさすがに言えなかった。状況を思い出しながらもう一度息をつき、アーデライドに尋ねる。

「アーデライド、君とヴェロニカで押し込めるか?」

街道の南側に陣取った敵は、もう2回迎撃されている。今この状況で出てこないということは、独力では押し出せなくなっている、ということだ。レフノールは、敵の状況をそのように見ていた。そうであればもう1回、こちらから主導権を取って押し込めば混乱させられるはず。少なくとも正面からの攻撃に呼応するようなことはできなくなる。

んー、とほんのわずか考えたアーデライドが頷いた。

「ゆっくり30くらい数えるだけ、時間ちょうだい。南側に対応してるのって5人だっけ? その間にこっちから2回射たせて。その時間で回り込んで叩くから。――ヴェロニカ!」

「わかった、いま行く」

装填済みのクロスボウを持ったまま、ヴェロニカがアーデライドに合流する。

「3分隊2班、射撃開始! 樹木線を目安に各個射撃!」

冒険者たちの準備が整ったと見て、レフノールが援護のための射撃を指示する。

その直後。

「狙えー!」

「警戒! 投げ斧が――!」

ベイラムの号令と、リディアの叫び声が重なった。前方――敵の主力への注意を緩めていたことを後悔しながら、レフノールは声の方へと視線を戻す。投擲された手斧が、緩く放物線を描いて飛んでくるところだった。

まともな遮蔽はなく、射撃体勢に入っていた兵たちの対応も遅れた。幾人かが斧を受けて倒れ、運よく斧の当たらなかった者も射撃ができる状態ではなくなっている。妖魔たちは突撃に移ろうとしていた。

「コンラート!」

レフノールのその一言で意図を察したコンラートが、杖で前方を指す。のそりと2体のゴーレムが動きだし、急ごしらえの隊列の前に立ちはだかった。鈍い音が響き、幾体かの妖魔が弾き飛ばされる。無論、ゴーレムも無事では済まないし、そこから抜けてくる妖魔どももいる。

「曹長!」

「槍構え! 前へ!!」

剣を抜いて前を指したレフノールの指示に、ベイラムが呼応して大音声を張り上げた。

ゴーレムの戦列を抜けた妖魔たちを、兵の構えた槍の穂先が襲う。怒号と悲鳴が連鎖し、ほどなく敵の隊列は崩れた。

アーデライドが入り込んだ南側の森の中からも、立て続けにいくつかの悲鳴が響く。前進を阻まれたところへアーデライドが斬り込んだようだった。

「3分隊2班、射撃やめ! 射撃やめ!」

視界の通りにくい森の中だけに、誤射がないとも限らない。射つことによって妖魔どもの行動を制約できる、という効果は大きいが、同時に限られた戦力を自ら損耗しかねない危険のある射撃を、続けさせるわけにはいかなかった。

「3人来い、負傷者を収容する。残る者は監視を怠るな。何かあったら声を上げろ」

は、という応答があり、3人の兵が寄ってきた。

「重傷の者から馬車に収容しろ――リオン!」

「はい」

返事は案外近くから聞こえた。

「いけるか?」

「やります」

「頼む。馬車で待っててくれ。怪我人はこっちで運ぶから」

レフノールが見る限り、重傷者が3名、軽傷者はその倍、というところだった。死にそうな傷を負ったものはいない――今のところは。現在の状況では、数少ない朗報と言えた。