軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイヒベッカー邸

お父様も私と同意見だった。

「エーレンフロイト家は全面的に君とジークルーネ嬢の味方だ。そもそも人をレイプして、その相手を脅迫し、金をゆすり取るなどハーゲンベックの連中は万死に値する。そんな者に味方をするゲオルギーネ夫人の事も許せない。僕は司法大臣だ。性犯罪も脅迫も許す事はできない!」

私はうんうんと、うなずいた。

ハーゲンベック家には、今後王室と司法省の捜査が入る事になるだろう。

ゲオルギーネ夫人とはリヒャルト様が話をつける事になった。どう話をつけるのかはわからないが、ここは全面的にお任せをするべきだ。

そして私とお母様。ノエル伯母様とリナさんの女性陣は、明日王都の城門が開くと同時にアイヒベッカー家に行く事になった。

ジークルーネには、シュテルンベルク領へ行く事を勧める予定だ。一連の騒動が収まるまでジークルーネは王都を離れていた方が良いのでは、という事になったのだ。

正直に言うと。

私はあの人がハーゲンベック領にとって返して、領館の焼き討ちとかしたらどうしようと心配している。

だから、ジークルーネには自然豊かなど田舎のシュテルンベルク領に引っ込んどいて欲しいと思っている。

そうして、親族会議は終了した。シュテルンベルク邸に帰る人達がゆっくりと立ち上がったが、コンラート以外の全員の顔が青かった。ヨハンナさんは足がもつれてしまったみたいで、オイゲンさんに支えられていた。

お母様は途中から号泣していた。幼い時からよく知っている子供達の悲劇が相当ショックだったようだ。ヨーゼフに手を貸されてうつむきながら部屋を出て行った。どうやら『説教』は流れたらしい。ちょっとだけラッキー!と思った。

ゾフィーとユーディットが茶器を片付けている。ユリアは?と思ってキョロキョロしたら、部屋の隅の方でうずくまって泣いていた。

何故、そんな場所で?と思いつつそっとハンカチを差し出してみた。

「ず・・ずびません。」

と目を真っ赤にしてユリアが言う。

「な・泣いてたら、カレナやコルネ様が戻って来た時、変に思うってわかっているから泣いてちゃダメだってわかっているんですけど。・・でも・・・。」

「いいよ。今は泣いていても。真珠宮妃様と珊瑚姫様の再会した時の様子をリナさんから詳しく聞いて泣けた。って事にしときな。だけど、明日からは泣いちゃダメだよ。これからの人生でジーク様と顔を合わす事は何度もあるだろうけれど、今日コンラートお兄様から真実を聞いたって事はあの人には秘密だからね。」

「はい。今日聞いた話は忘れます。忘れられなかったとしても忘れたフリをして生きていきます。」

私もそうしよう。と思った。

大切なのはあの人達の過去じゃない。今とこれからなのだから。

私は伸びをした。

明日は早起きしなくてはならない。今日は早く寝ようと思った。

翌朝。夜明け前に私とお母様とノエル伯母様とリナさんは出発をした。

さすがお母様は淑女だな。と思ったのは、昨日あんなに泣いていたのに、今日は 毅然(きぜん) とした態度で馬車に座っている事だ。ノエル伯母様も同様である。リナさんはものすごく哀愁を漂わせた表情をしているが、この人は普段からそうなので別に問題はない。

開門の時間と同時に城門をくぐり、馬車は10分ほどで昨日ジーク様と別れた道にたどり着いた。ここで一旦アイヒベッカー家に先触れを出した。基本、農業人は早起きなものだが、もしかしたらまだ寝ている。という可能性もあるからだ。そもそもいきなり押しかけるには非常識な時間なのである。

先触れにはアーベラが騎馬で向かったのだが、帰りは馬が二頭になっていた。目を凝らしてみると、侯爵夫人であるカリンが馬に乗ってやって来たのだ。私達は道の上で久々の再会を喜び合った。

「ジークルーネ様は昨日、うちに泊まられました。」

とカリンは言った。

カリンは『ジークルーネ』とは初対面だったが、ジークレヒトとは面識がある。カリンは、伝染病が流行していた間、城壁外でパンを配るボランティアをずっとしていたし、ジークレヒトは港町ブルーダーシュタットでボランティアをしていた。だけどジークレヒトは時々王都に戻っていたので、その時には二週間城壁外で隔離生活を送っていたからだ。

そのジークレヒトと顔が瓜二つなわけだから、すぐに妹のジークルーネだとわかったらしい。

「事情は一応ジークルーネ様にお聞きしたのですが、これはもっと詳しい話をベッキー様にお聞きした方がいいな、と思って誰かをエーレンフロイト邸に送ろうと思っていたところだったんです。」

「いろいろとありがとう。ジークルーネ様はまだいる?夜中にどっか抜け出したりとかしなかった?」

「はい。ベッキー様に事情を聞くまで家から出さない方がいいと思って、家の外に出ようという気が無くなるように『私の最近のお気に入りです』と言ってホラー小説を読むよう熱くお勧めしてみました。」

可愛い顔して、やる事がエグい!

ジークルーネはもう起きて朝ごはんを食べているとの事だったので、私達はアイヒベッカー邸に向かった。

着いてすぐ食堂に通された。食堂ではジークルーネが蜂蜜バタートーストを食べながら新聞を読んでいた。

「おやま、皆様お揃いで。」

「ジークルーネ。」

とつぶやいて、お母様がほろほろと泣き出した。ちょっと、ちょっと、お母様!

「心配したのよ。ナタで切り殺されかけた。という話を聞いて。」

「切り殺されかけたのは私じゃなくてベッキーですよ。」

「あの子は一回頭をナタで割られたらいいのよ。」

ちょっと、ちょっと、お母様・・・。

ふと、私はジーク様の目の下にクマができている事が気になった。昨日はこんなもの無かったと思う。

失礼を承知で聞いてみたら。

「昨日の夜よく眠れなかったんだよ。『私のお勧めなの。ぜひ読んでみて。感想を一緒に語り合いましょう』と言われてカーテローゼ夫人に渡された本がホラー物でさ。窓が風でガタッと音がする度にドキッとして。」

なんと!ホラー小説の威力は絶大であったらしい。いったいどれほど怖い話だったのであろうか⁉︎

「何て題の本?」

「『振り返れば熊がいる』。」

それは怖いな!でも、あらすじがちょっと気になるな!

「それよりあなたのこれからの事なのですけれど。」

お母様が涙をハンカチで押さえながら言った。

「お姉様とリナさんが、シュテルンベルク領へ行かれる事になったの。あなた、お二人に同伴してくれないかしら?」