軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジークルーネの出立

「えーーー!」

とジーク様は言った。

「嫌ですよ。シュテルンベルク領ってめっちゃ熊が出るんでしょう?」

「めっちゃ、は出ません!時々です。でも、時々出るからこそお二人の側にいて力になってあげて欲しいんです!」

もしジーク様に「あなたが心配なの。私達にあなたを守らせて。一緒にシュテルンベルク領へ行きましょう」とか言ったら絶対「余計なお世話」とこの人は言うだろう。

だから、シュテルンベルク領へノエル伯母様とリナさんが行くから護衛をしてあげて、というふうに言おう、と前もって決めておいたのだ。

この人は何だかんだ言ってもお人よしなので、ぐいぐい頼めばたぶん首を縦にふるだろう。

「何しに行くんですか?先祖の墓があるわけでもないのに。」

シュテルンベルク伯爵家の先祖代々の墓は王都にあるのである。

「シュテルンベルク領でいろいろ問題が起きているらしくて、領民や役人から訴えがあったの。それでお姉様達に確認に行ってもらうの。」

「危険な匂いがぷんぷんしますね。」

「だから、あなたに一緒に行ってと言っているのではないの。」

「ベッキーが行けばいいのではないですか?ベッキーは強いですよ。」

「駄目よ、あの子爪はあるけど能の無いタカだから。あなたの口の上手さには敵わないわ。聞いたわよ。門番を口先で丸め込んでハーゲンベックの領都内に入り込んだ、って。」

「領都内に入り込めたのは金の力ですよ。」

ディスカッションをする母と、黙っている私達にカリンがお茶を出してくれた。

「そもそも、領地内で問題があった時解決する努力を払うべきなのは領主でしょう。伯爵閣下が行くべきではないのですか?」

「リヒトには王都でやる事があるの。だから、あなたがどうしても無理と言うのならまだ怪我が治りきっていないコンラートに行ってもらう事になるけれど。」

「・・・・。」

お母様が早々に切り札を切ってきた。

『コンラートの為』

というワードには、ジーク様にとってラピ◯タの滅びの呪文くらいのインパクトがある。

「わかりましたよ。」

と結局ジーク様は言った。

「ジークルーネ様がご一緒してくださるなんてとても心強いわ。では、ジークルーネ様の支度が出来次第出発しましょう。」

とノエル伯母様が言われた。

「・・そんなすぐ、出発なんですか?」

ジーク様が新聞をたたみながら言う。

「問題が起きていて苦しんでいる領民がいるのです。一秒でも早く出発してちょうだい。」

とお母様が言った。

「どんな問題が起きているのかだけ教えてもらえますか?」

「先入観を持たずに行って、自分の肌で感じてちょうだい。」

お母様はジーク様の問いをはぐらかした。

よくよく考えてみたらすごい無理ゲーだ。冷静に考えてみるとジーク様、可哀想である。侯爵令嬢に対する行いではない。

昨日の親族会議。

コンラートは、親族や家臣達の前で断言した。

「ジークルーネの側にいてあげたい。生涯、彼女を支えていきたい。彼女を守り続けていきたい。」

と。

それを教えてあげようかな。と思った。そこまで自分を大事に思ってくれている人がいるのだ。と知ればきっと嬉しい、と思うだろうし、自分で自分の事を大事にしよう、って気持ちになるかもしれない。

・・いや、待て。でも、こういう事って本人の口から直接聞いた方がいいよね。余計な事は言わんでおこう。

私の口がうずうずしている事にお母様は気がついたようだ。

「何?言いたい事でもあるの?」

「いやー、ジーク様はやっぱ良い人だな。と思って。」

私はしみじみと言った。

「あなたは素晴らしい人です。あなたに会えて良かった。と今際の際には言ってあげたいと思っているの。」

「今、言ってあげたらどうですか。」

とリナさんに言われた。

そうして、午後にはノエル伯母様とジーク様達は旅立って行った。

昼に別邸に食事を届けに行ったのだが、カトライン殿下はうちしおれていた。

ジークルーネがいなくなったのが寂しいみたいで、自分が無理なお願いをしたせいでジークルーネが王都にいられなくなった、と思っているようだった。当たらずとも遠からずなので、慰めようがない。

スマホやパソコンどころか、郵便制度さえない世界だ。一度、離れ離れになった相手とは二度と会えないかもしれないし、連絡も取り合えない世界なのである。

時と場合と展開によっては、ジークルーネはヴァイスネーヴェルラントに亡命してしまうかもしれないので、きっとまた会えますよ。と適当な事は言えないしなー。

そう考えているうちに思った。

パソコンやスマホはどう考えても無理だが、郵便制度なら私でも作れるんじゃね。

ヒンガリーラントは識字率がそこまで低い国じゃないし、商売として成り立つかも。今、ブラウンツヴァイクラントから難民がどんどん流入して来ていて、新しい雇用が必要とされている。新しい産業が今の王都には必要なのだ。

しかも、郵便制度にはお金の儲かる別の要素がある。切手コレクターが切手の収集をしてくれるのだ。人気の絵柄や記念切手は信じられない高値で取引される事もある。オードリー・ヘップバーン主演の某映画はそれがストーリーの 肝(きも) になっているくらいだ。

切手や絵葉書を作る事になったら、ロートブルクラントから来てくれた画家の人達の仕事になるし。

来てくださった画家の方達には『紙芝居』の製作を依頼しているのだが、永遠にその仕事ばかりしてもらい続けるわけにはいかない。違う仕事を斡旋していく必要性があるのである。

だけど。

『お菓子の学校』も作らなきゃだし、観光産業にも興味がある。やってみたい事はいろいろあるが、そう考える度に思う事がある。

私が殺されるまで、もう一年を切っているのだ。

それを考える度、何かを始めたい、と考える事に葛藤を感じるのだった。