軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親族会議(6)(テリュース視点)

「両方の国に伝染病の終息宣言が出た後です。ただ、お母様とは、もう少し前から会っていました。」

「セリーナ様と?今セリーナ様はどうしておられるの?」

「ヒンガリーラントの下町の食堂で料理人をしています。離婚した後、花嫁持参金を取り戻せなかったので、実家には帰れなかったそうです。デューリンガーの家にいた頃から、趣味と実益を兼ねて料理をしていたので、住み込みで働ける食堂を探して。勿論いろんな苦労はあったようですけれど、良いご店主と出会って料理を作って、新しい料理のレシピを考えるのも好きだったので新聞に『フロイライン・プラムパイ』の名前でレシピを投稿して賞金を稼いだりもしていたそうです。」

新聞に何度も投稿をしていたら、新聞記者がやって来るようになる。

セリーナは賞金を届けに来てくれるデリクやハーラルトと仲良くなった。

ある日デリクが賞金を届けに食堂へ行くと、新聞を握りしめたセリーナに新聞にのった記事の詳細を聞かれた。その新聞には、エーレンフロイト侯爵令嬢が孤児院を慰問したという記事がのっていて、同行した友人の名前も書いてあった。その友人の一人がリーシアだった。

セリーナはリーシアが自分の娘だと告白し、デリクは知っている限りのリーシアの情報を全て話した。会いたくないか?とデリクはセリーナに聞いたらしいが、あんな家にリーシアを置き去りにした自分が今更会う事はできない。と言ったそうだ。だが、その後伝染病が王都で大流行した。人間はいつ死ぬかわからない。と思ったデリクは、レーベンツァーン亭でボランティアをしていたリーシアにセリーナの事を話した。その後リーシアはセリーナに会いに行った。

「ずっと会いたいと思っていたんです。私のせいでお母様は追い出されてしまったから。」

「そうなの?」

「ベロニカ様に身一つで出て行くなら私をアカデミーに通わせてやるとお母様は言われて。本当に何一つ持たずにお母様は出て行かれました。」

ひどいな。

と僕はため息をついた。

リーシアをアカデミーに通わせる事は、僕の母が言い出した事だ。ベロニカ夫人は伯爵夫人である母の決定に逆らえない。だが、その状況を上手く利用して正妻を家から追い出したのだ。

「お母様が幸せそうでほっとしました。」

「そうか・・。良かったね。そういえばアルノー達の事だけれども。」

僕はティーカップをソーサーに戻した。

「鉱山に働きに行くそうだよ。」

「・・・。」

「勿論、肉体労働をするわけじゃなくて、経営に参加するそうだ。一応の職務は経理係だそうだけど。いろいろと人を管理するのが仕事らしい。サウス島という島にある鉱山で、不便な場所にあるけれどだからこそ給金は高給で給料は年にヒンガリーラント金貨500枚だそうだ。平民の労働者の50倍だよ。よくそんな仕事を見つけられたものだよね。向こうから誘って来たのだそうだけど。今日の朝サウス島に向けてベロニカ夫人とマレーネと一緒に出発したそうだよ。」

僕の両親の裁判の結果も聞かずに旅立った彼らの事を薄情だと思ってつい言ってしまったが、言った後後悔した。アルノーやベロニカが上手くやったという話なんかリーシアは聞きたくなかったかもしれない。

だがリーシアは怒りも悲しみもせず、ただ首をコテンと傾けた。

「サウス島ですか?サウスは北大陸公用語で、西大陸公用語のズェードと同じ意味ですよね。もしかして『アリ地獄鉱山』の事でしょうか?」

「アリ地獄鉱山?何それ?」

「ズェード商会が所有しているズェード島の鉱山なのですけれど、近いうちに新聞で特集記事を組む、とデリクさんが言っていました。複数の国で社会問題になっているそうです。」

「社会問題って、どんな?」

リーシアの説明によると。

ズェード島の鉱山は絶海の孤島にある。周辺の海にはサメがうようよいて、船が無ければ島からは絶対に出られない。その島の鉱山に破格の年収で商会は労働者を呼び集めていた。普通の鉱山の20倍から50倍という金額でだ。

しかし、元々が無人島のズェード島には店が一つしかない。その店でしか買い物ができないのだが、ズェード商会が運営するその店は物価がとんでもなく高いのだ。大陸の100倍以上である。パン一切れが銀貨一枚。石鹸一つが金貨一枚といったふうに。

ズェード商会が用意する借家には風呂も手洗いも無いのに家賃が高い。公衆浴場や共用の手洗いを利用するしかないが、浴場の入湯料も高い。井戸で水を汲むのも手洗いを利用するのも金を取られる。

給料が高くても物価がそれ以上に高ければ生活できない。結局、そこで働く人達は商会に借金をする事になる。借金がある限り鉱山を出て行く事はできない。こっそり逃げ出そうにも、絶海の孤島なので逃げ出せない。劣悪な環境で働けば働くほど借金が増えていく。それに文句を言ったら、ズェード商会が雇ったならず者に痛めつけられる。病院は無く、医者にかかると年収を超える金を取られる。一度入り込めば二度と抜け出せないアリ地獄のような鉱山なのだ。

「誰が、その鉱山の情報を話したの?内部告発でもあったの?」

それがわからなければ、申し訳ないが信頼できない話だ。

「その島がある国でボランティアをしている医療団です。僻地や田舎を回って無料で治療や予防接種をしているのですが、その鉱山にも行ってあまりにも劣悪な状況に驚き、政府に告発をしたそうです。でも、ズェード商会から一部の役人に賄賂が渡っていて訴えは無視されました。というか、そもそも物価の操作は犯罪ではありません。お店で何をどれくらいの値段で売るかを決める権利はお店にありますから。」

「それはまあ、そうだが。」

「だけど、人道に反している事は間違いありません。だから、そんな所に行ったらダメだ。と複数の新聞が新聞記事をのせる事になっているんです・・・けど。」

「そんな鉱山に行ってしまったのか、アルノー達は。」

僕達は黙り込んだ。今からでも追いかければ島に着く前に追いつけるかもしれない。だけど、その鉱山が本当にアリ地獄鉱山なのかはわからない。名前がそっくりなだけの違う鉱山かもしれない。

「・・仕方ない事だと思います。誰に強制されたわけでもなく、自分達で決定した事ですから。」

とリーシアは言った。

「自分達だって散々平民を搾取して来たのです。商人から商品を奪って代金を払わなかったり、使用人を給料を払わずに働かせたり。それなのに搾取される側になった途端、可哀想っていうのは違うと思います。」

「そうだね。」

アルノー達を一族から追放したのは父だが、自分もリーシアもそれに納得したのだ。アルノー達がどれほど辛い思いをするとしても彼ら家族はもう僕らが守るべき対象ではない。伯爵となる僕が守ってあげなくてはいけない人達は他にいるのだ。

「お茶が冷めたね。淹れ直すよ。」

と僕が言うと

「もし良ければ、私に淹れさせてもらえませんか?私、お茶を淹れるのだけは上手だって家庭教師の先生達に褒められていたんです。」

とリーシアが言った。

「じゃあ、お願いしようかな。」

僕は側に控えていたマルクに目をやった。マルクが「こちらへどうぞ」と言ってリーシアとエイラを厨房に案内する。

ドアを開けると出て行くリーシアと入れ代わりに猫のリュールが入って来た。手を差し出すとその手に頬擦りしてくれる。まるで

「大丈夫?」

と聞いてくれるかのように。

「大丈夫だよ。僕は・・大丈夫だ。」

両親の事を思うと胸が苦しかった。でも、自分はリーシアやマルクと一緒に生きていく事を選んだ。犯罪者の息子である以上、これからの人生は茨の道だろう。だけどエーレンフロイト家の人々のように、範とする事のできる立派な人達がいる。彼らのように生きていきたい。

そう思って見つめる春の空は今日も青く、どこまでも澄み切っていた。