作品タイトル不明
親族会議(5)(テリュース視点)
「若!」
立ち尽くしていた僕の腕をマルクがつかんだ。だが僕は咄嗟に声が出て来なかった。
「デイムが情報を回してくださったのです。すぐに離籍するべきです。どうか命を大事になさってください!」
「・・・・。」
「私共の事もお考えください。私共を見捨てないでください!それとも若はデイムが嘘をついていると思っておられるのですか⁉︎」
「・・思っていないよ。でも、親なんだ。親を簡単に見捨てるなんて。」
「貴族は常に勝者の味方をしなくてはならない。」
「え?」
「家門を繁栄させる為には、常に強い方、勝利する側につかなくてはならない。そうでなければ家門を滅ぼす事になる。負けて消え行く者に同情はいらない。それが貴族だ。かつて伯爵様が言われた言葉です。伯爵様には負ければ全てを失う覚悟があったはずです。その覚悟を元に王都に入る上で不正を犯し、13議会に手を伸ばそうとして敗北したのです。ですから同情は不要です。御父君自身がそう言われたのです。」
「・・そうだな。でも父上と母上に一応今聞いた話をして、自首を勧めてみるよ。」
そして、それをするべき時は今だろう。父の兄弟達も知っておくべき情報だった。
僕は談話室に戻った。談話室では父とアルノーが大喧嘩をしている最中だった。僕は父が黙るのを待った。やがて父は僕を振り返り
「どうして勝手な事を言った!どうしてリーシアを押さえつけてでも引き留めなかった!」
と叫んだ。
「所詮、女三人だ!押さえつければ、黙らせられたのに。」
僕はそれには返事をせず、リーシアから聞いた話を父にそのまま伝えた。
父は真っ赤になって激怒した。
「この愚か者!小娘の口車に容易に乗せられおって。王都内に短い期間で入り込んだ程度の事で、そのような罰を受けるわけがないだろうがっ!自ら名乗り出たりなどしたら、受けずとも良い罰を受ける事になってしまうわ!何という邪悪な娘なんだ。このような事を言って我等を陥れようなどと。おまえも唆されて勝手な行動をとるのではないぞ。離籍なんぞしたらおまえは貴族ではなくなるのだからな!」
たとえリーシアの発言が真っ赤な嘘でも、自分は貴族ではいられないだろうと思う。リーシアが離籍してしまったら復興貴族税が払えないのだ。
僕は目を閉じた。
リーシアの発言に従うか、それとも父の命令に従うか?それは、正しさの問題ではない。『僕』がリーシアを信じてエーレンフロイト家の側につくか、それとも両親に固くついてディッセンドルフ公爵の側につくか?という問題なのだ。
どちらの言う事に従うか。
僕の心の中で答えはもう出ていた。
翌日の新聞に『不正を犯して、二週間以内に王都内に入り込んだ者は三日以内に司法省に出頭するよう』という記事がのった。
僕はその新聞を父の書斎に見えるように置いた。しかし父も母も何もしなかった。
更に翌日、司法省から書類が届いた。父はそれを一目見て破り捨ててしまった。
次の日、僕は司法省へ行った。両親の罪を告発する為だ。そして、民部省にも行き、公証人立ち会いの元離籍届けを出した。
これで僕は貴族ではなくなった。新しい姓はカーンという姓にした。マルクの姓である。
そして二日後の朝。両親は司法省に捕らえられた。
両親には死刑判決が出た。だけど僕は離籍をしていた事から連座を免れた。両親の弟妹やその子供達、僕にとっての従兄弟達の命乞いも前もってしておいた為、彼らも死刑は免れた。そして僕はデューリンガー姓に戻り、家督を継ぐようにと指示を受けた。
ガルトゥーンダウム家のハインリヒや、エーベルリン家のゲルハルトらも捕らえられ死刑判決を受けた。
事実上死刑判決を受けた者や、その罪に連座させられる者は、ヒルデブラント卿の事件で罰を受けた者より遥かに多かった。
国王陛下は国内の膿を徹底的に出してしまわれるおつもりなのだろうと思われた。
この二つの事件で国内貴族、更に富豪の商人が激減した。
両親に死刑判決が出た日。僕は父の書斎でぼーっとしていた。今日はまたリーシアが訪ねて来る事になっている。
午後二時ぴったりに、エイラを伴いリーシアは我が家へとやって来た。
リーシアは僕に金貨の入った袋を差し出した。
「これで貴族税を払ってください。」
「そんなわけには!」
「テリュース様の為ではありません。家臣と領民の為です。あなたが権力を振るう為ではなく、家臣と領民を守る傘となる為に領主であり続けて欲しいのです。」
「・・・・。」
「あなたは立派な方です。優しくて、人の苦しみに寄り添える方です。あなたのような方が貴族であり続けるべきなんです。私はそう思います。」
「ありがとう。」
嬉しかった。こんな僕を立派だと言ってくれる人がいる。それもかつて僕が傷つけた人に。その人から許されたのだという事がとても嬉しかった。
僕は金貨を受け取った。『伯爵』という地位は、リーシアを守る傘にもなるかもしれない。エーレンフロイト家の庇護下に入るリーシアだが、今後何が起こるかはわからない。リーシアが困った状況に置かれた時、微力ながら力になれるかもしれなかった。
「このお金を使わせてもらうよ。何年、何十年かかってもきっと返すから。」
「デューリンガー家は磁器の生産に力を入れている家なのですよね。」
とリーシアが聞いて来た。僕は曖昧に微笑んだ。東大陸から輸入される、薄くて雪のように白い磁器の人気に押されデューリンガー家の磁器産業はこの数年ずっと右肩下がりだ。
「レベッカ様から聞いた話なのですけれど。」
とリーシアが言い出した。
「東大陸の磁器があんなにまでも白いのは、牛の骨灰を混ぜているからなのだそうです。」
「骨灰って、牛の骨かい!」
「はい。どのくらいの割合で混ぜているのか?とか、そういう事はよくわからないのですけれど。」
「そうなんだね。牛の骨ねえ。」
正直、動物の骨を混ぜるなどというのは不気味な話だ。それに、どういう理屈で磁器が雪のように白くなるのかわけがわからない。
だが、新しい産業をすぐには思いつかない以上、できる事は何でも試してみるべきかもしれない。自分はリーシアとエーレンフロイト家を信じて生きる。と決断したのだから。
伝染病が終息して、これからはお茶会や晩餐会が増えるはずだ。良質な磁器を作る事ができれば良い値段で売れるだろう。
そうすれば、領地の財政も何とかなるかもしれない。
「いつ頃から、御母上の実家と連絡をとり合っていたの?」
と僕は聞いてみた。