軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノルド商会(3)(エフィミア視点)

私の横で支配人が明らかに不機嫌になっています。三人の愛人は目に見えて慌て出しました。

「エーレンフロイト姫君は、孤児院への援助に熱心なのですよね。可愛いお人形が当商会にはたくさんありますの。ご覧になられませんか?」

と第一愛人が口を出して来ました。

今、私と姫君が話をしているのに無礼ではないですか⁉︎

「まあ、素敵ですね。是非、孤児院に寄付をなさってくださいませ。子供達が喜びますよ。」

やんわりとレーリヒ令嬢が言われました。

「当商会には、たくさんの香水がありまして、男性用の物も何点もありますの。大事な方へのプレゼントに是非いかがですか?」

今度は第二愛人が口を出して来ました。

『大事な方』と言えば、まず浮かぶのは婚約者。そして、エーレンフロイト姫君の婚約者は第二王子殿下です。

第二王子殿下へのプレゼントを当商会で買ってくださったとなれば、大変な話題になるでしょう。

鈴を転がすような声でレーリヒ令嬢が笑いました。

「まあ、私だったら異性から香水なんか贈られたら、『あなたは臭い』というメッセージなのではないかと不安になってしまいますわ。ベッキー様。プレゼントなんか、やめた方が良いですよ。」

先程は婉曲に断って来ましたが、今度はバッサリと切って捨てて来ました。

レーリヒ商会としては『王子殿下へのプレゼント』など、絶対譲れない事でしょう。レーリヒ令嬢の全身から不快感が噴出しています。

「エーレンフロイト様が、今一番望んでおられる物は何ですか?何でもご用意させて頂きますわ。」

第三愛人がダイレクトに聞いて来ました。不躾ではありますが、結局最も効果のある質問です。

姫君は無言で、お茶を飲んでおられます。

その横でぼそっと、ハイドフェルト令嬢が言われました。

「ジークレヒト様が無事戻って来てくれる事ですよね。」

・・・。

空気が凍りつきました。それは当然、そうに決まっているではありませんか!なのにこの愛人は何を言っているのでしょうか?

「何でも用意させて頂く」なんて。

「大変無礼な発言お許しください。本当に、お辛い事でしたわよね。あんな恐ろしい事が起こるだなんて。」

「以前わたくしはパーティーでヒルデブラント小侯爵にお会いした事があるのですが、素晴らしい若者でしたわ。あの方の身にあんな事が起こるなんて。それなのに無思慮な発言をした事お許しくださいませ。」

第一愛人と第二愛人が謝罪の 体(てい) をとって、第三愛人をディスり始めます。

それと同時に私の事も責めているのでしょう。ヒルデブラント小侯爵が亡くなったのはおまえの従妹のせいだと。

姫君がカップの中のお茶を飲みきりました。

すかさず第一愛人が言います。

「お茶のお代わりはいかがですか?」

「いりません。」

かなり強い拒絶の言葉を姫君は口から出しました。

「姫君のような方に飲んで頂きたいお茶ですの。」

「貴女方は・・・。」

姫君が不快そうな声で言いました。

「どうして、私達三人にだけ食べ物や飲み物を出すのですか?」

「え?」

「どうして、エフィミアさんに出さないのですか?どうして、彼女がいないかのように無視するのですか?アズールブラウラントから来たばかりの彼女を集団で虐めているのですか?」

「まあ、そんな事は!」

「私は今日、エフィミアさんに会って彼女の話を聞く為にここへ来ました。彼女以外の方は出て行ってくださいませんか?」

姫君は一目で、私が三愛人に虐められている事を見抜いてくださったのです。私をかばう優しい言葉に涙があふれそうになりました。

愛人達は、顔を見合わせそそくさと部屋を出て行きました。更に姫君が支配人の顔を凝視します。支配人も慌てて立ち上がり出て行きました。

「失礼な事を言って申し訳ありません。余計な事を言ってしまいました。」

「いいえ。ありがとうございます。気にかけてくださって感謝します。」

「実は、貴女にだけお伝えしておきたい事があったのです。」

「何でしょうか?」

「ミュリエラさんの御父上と御父上の正妻がシュテルンベルク騎士団に逮捕されました。」

呼吸が止まりそうになりました。

「あ・あの方はいったい何を?」

「ブランケンシュタイン公爵令嬢エリザベート様をグーで殴ろうとしたのです。」

そして、そうなるに至った経緯を話してくださり、副ギルド長が今後どうなるかを話してくださいました。

何て事でしょう!

目の前が真っ暗になるかのようでした。

フォルクと私の結婚を、フォルクの父親が許してくれたのは、私が副ギルド長と親戚だからというのもあったのです。でも、副ギルド長が失脚し犯罪者となったら、私はどうなるのでしょう?

「大丈夫ですか?」

「・・・はい。ミュラも・・可哀想に。泣いていませんでしたか?」

「自分の前からフェードアウトして行った父親なんかの事よりも、貴女の事を心配しておられましたよ。エフィミアさん。私に何かして差し上げられる事がありますか?」

商品を買ってください!

と喉まで声が上がって来ました。でも言えませんでした。それを言ってしまったら、さっきの愛人共と自分は同列になると思いました。

「お力になれる事があるなら、是非なりたいと思っています。今は何もなくてもこれから誰かの力が必要になる時があるかもしれません。その時は遠慮なく言ってください。」

「・・ありがとうございます。」

「長居をしてしまいましたね。そろそろ私は失礼します。」

仔ガモさんは帰り支度を始めました。

何か言わなきゃ。

引き止めなきゃ。

そう思うのに、声が出ません。もう、何も考えられません。

その時です。

背後に控えていた侍女の一人が言いました。

「お嬢様。」

「何、ユディ?」

「せっかく、老舗の大商会に来たのです。何か買って帰るのはいかがでしょうか?」

「別に、今欲しい物は何も無いよ。」

「本はいかがですか?」

「本?」

「アズールブラウラントで出版された本です。お嬢様は本がお好きではないですか。」