軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

司法省前の広場にて(2)

外国人留学生に続き声を張ったのは、アルト同盟に加入している商人達だった。

ジークレヒトとコンラートは、伝染病がブルーダーシュタットに蔓延していた間ずっと、ブルーダーシュタットで医療ボランティアに従事していた。商人達の家族や友人や取引先相手で、二人に救われたという者は少なくない。特に、グラハム博士の救出を主導し、『種痘』をもたらしたジークレヒトはブルーダーシュタットでは英雄だった。

そして、被害に遭った少女はヴァールブルクの出身だ。ヴァールブルクはアルト同盟の宗主都市で、アルト同盟に参加する全ての街にとって自国の王都よりも重要な街である。もしも、自国がアズールブラウラントと戦争になって、ヴァールブルクとの繋がりが絶たれたらその街は経済的に死んでしまう。

ヴァールブルクの市民を傷つけた犯人を、ブルーダーシュタットの人間は許すわけにはいかないのだった。

更に、王都在住のヒルデブラント領とシュテルンベルク領の領民達も怒りの声をあげた。両領地は、自慢の跡取りを害されたのだ。立派な将来の領主を失う事は、自分達の将来の生活に直結する。両領地の領地民の怒りは凄まじかった。

そして、最も大きな怒りの声をあげたのは、王都在住のアズールブラウラント人だった。仕事や勉強の為に王都に来ているアズールブラウラント人はたくさんいる。アズールブラウラントとヒンガリーラントが仲が悪かった時代もあったが、ヒンガリーラントの王様の妹がアズールブラウラントの王様の弟と結婚するくらいこの数十年の両国の関係は良好だった。その為、たくさんのアズールブラウラント人がヒンガリーラントの王都で暮らしていたのである。

私の乳母のユーディットはアズールブラウラント人だし、私の友人で、元遍歴商人のエリフとエンヤの兄妹もアズールブラウラント人だ。

伝染病が流行っていた間、ものすごくお世話になった農学科生のリーバイもアズールブラウラント人である。

私の周囲だけでもアズールブラウラント人がこれだけいる。王都全体ではものすごい数だというのも容易に予想できた。

数百人。もしかしたら一千人近くの人々が正義を求めて、司法省の前で声を張った。

その声に押され、「子供達を解放しろ!」と苦情を申し立てていた王妃派貴族の使者達は、風の前の塵のように消えたという。

だが王妃派も何もしないでいたわけではない。

王妃派は新聞に続報を出した。

寄宿舎にいた少女は間違いなく売春婦であり『誤解』をしたジークレヒトが勝手に暴れ、挙句パニックを起こして飛び降りたのだ。という記事を載せた。

猛り狂った群衆は、その新聞を買い漁り司法省の前に積み上げ火をつけたそうだ。

「正義の裁きを!」

と叫ぶ群衆に誰が情報を流したのか?

一部の学生達は、『カバのぬいぐるみ』を手に持って叫び声をあげた。

「そんな中で、違う勇気を奮い起こしている人もいるようよ。」

とエリーゼが教えてくれた。

「若様が、そのような事をするわけがありません!」

とある家門の侍女が、司法省の門に立つ門番に必死になって訴えた。

「どうか、公正な取り調べを行って欲しいとお伝えください!」

まだ10代の侍女は石畳の上で 叩頭(ぬかず) き、請願をしたという。

周囲には、興奮した群衆が一千人。興奮して火までつけている。

そんな中でそのような事を言えば、石を投げられ、引きずり回され、ひどい私刑にかけられてもおかしくない。

「素晴らしい勇気よ。」

エリーゼは無表情でお茶を飲んでいたが、声には尊敬の響きがあった。

「どちらの家門の侍女さんなんですか?」

「オズワルド男爵家の侍女。」

私は知らない家門だった。

「『公正な取り調べ』の結果、アウレール・フォン・オズワルドの無実が証明されたわ。」

「えっ⁉︎」

私はお茶菓子が喉に詰まりかけた。

「誤認逮捕って事ですか?」

「言っておくけど、まだ聴取をとっている段階で誰も逮捕はされていないわよ。エーベルリンが『共犯者』呼ばわりした生徒を、一応司法省に連れて行って話を公平に聞いただけ。オズワルドは、その一人。」

「ちなみに『公正な取り調べ』って具体的に何をやるんですか?」

「一人一人を別室に呼び出して拷問にかけるのよ。」

「!」

「というのは冗談だけど。」

「冗談なんですか⁉︎びっくりしましたよ!やめてくださいよ。悪趣味な。」

「実際のところ、ほとんど大差ない事をしていると思うけどね。フェルディナンド叔父様は、司法省に着くや否や、椅子の上でだらけて暴言を繰り返していたヴィンターニッツを『この痴れ者がー!』と叫んで拳で殴りつけたらしいわよ。」

「・・・。」

「更に、腕に関節技を決めて動けないようにした後、質問に正直に答えないと手の指を一本ずつ折ると言って・・・。」

「それは拷問です!まごう事なき拷問ですっ!」

「一人一人を別室に呼び出してはいないから。で、ヴィンターニッツが泡を吹いて失神したので、隣のイシドールの部屋に行って以下同文。」

「アウレールさんとやらも殴られたんですか?」

「オズワルドの名前を出していたのはエーベルリンだけだったので、司法大臣が怪しいと思って別エリアで話を聞いていたらしいの。ただ、現場不在証明を自分でしないといけないのは他の人と同じだけどね。なかなか難しいわよ。『いた』という証明は比較的簡単だけど『いなかった』事を証明するってのはね。」

「現場不在証明・・アリバイですか。」

「結局潔白の証明に三日もかかってしまって、その間に婚約者には婚約破棄されたって。それを考えると尚更無実を訴えた侍女というのはすごいわよね。演劇の題材になりそうだわ。」

関わってないのが本当ならば、潔白が証明されて良かった。ただエリーゼが「別エリアで話を聞いていたの」と言っただけで、一言もゴーモンは受けていない。と言わなかったのが気になるけれど。ただ、アーレントミュラー公爵は王族だ。批判するわけにはいかない。

そうして、日々が過ぎ事件から五日経った。

この日大きな動きがあった。