作品タイトル不明
宰相室にて(2)(フランツ視点)
前述の通り、宰相閣下の妻はフリードリア内親王だ。そのフリードリア夫人との間に生まれたのがエリザベート公女である。
だが不幸にもフリードリア夫人はエリザベート公女を産んだ時難産で、二度と子供の望めない体になった。
ヒンガリーラントでは、爵位と領地は男子しか継ぐ事は出来ない。
その為、夫人は自分の侍女を夫に差し出した。信頼する侍女の産んだ男子を夫婦の養子とし、後継者とする為だ。だが、その侍女が二人連続で生んだのは女の子だった。
その為余計な事をする家臣が現れた。我が家は男系の家系だ。だから、自分の娘を側室に。と言って公爵に娘を差し出したのだ。そして、その側室は男の子を生んだ。
フリードリア夫人は激怒した。自分が認めた女の子供でなければ絶対に養子縁組はしない!と言い放った。養子縁組をしない限りその男子の身分は平民だ。公爵家の跡取りにはなれない。
混乱の中で、野心を持つ分家の人間は当主の地位を狙っている。自分の息子をどうか養子に。と夫人にすり寄る者もいる。後継者を巡り、公爵夫人と家臣団の間には緊張が走っている。
争いにウンザリしている者は、ため息をついて言うのだ。
「エリザベート様が男の子だったら良かったのに。」
エリザベート姫君が、愚かでわがままで、贅沢とおしゃべりと色事にしか興味がないような頭の軽い娘であったら、誰もそのような事は言わないだろう。なまじ賢く、分別があり、カリスマ性がある令嬢だから皆かえって肩を落とすのだ。
国王の妹である妻と家臣達に挟まれて、宰相は心痛な事だろう。多少、自業自得ではあるが。
リヒトの一人息子のコンラートと私の長男ヨーゼフは、二人共伝染病が流行っている間ボランティアに熱心に駆け回り、周囲からの評判も良い。そのうえ健康でついでに言うとなかなかの美男子だ。宰相閣下にしたら羨ましくてたまらないのだろう。
我々にだって、悩みはあるのですよ。
と心の中で思った。
リヒトはコンラートに婚約者も恋人も出来ない事を悩んでいる。・・いや。恋人はいるのだ。たぶん。ただ、そいつが謎と闇が深すぎる相手で、リヒトはそいつと手を切らせるべきか否か悩んでいる。でも、たぶん親が何を言ってもコンラートはアレとは別れないと思う。
ヨーゼフは、アンドレアス・ディックハウトという冒険家に憧れていて、最近彼のように貴族の身分を捨てて冒険の旅に出てみたい。と言っている。平民になるのはかまわないけれど、冒険家になるのは親としては賛成できない。非常に危険な仕事なのだ。冒険家になる前のアンドレアス卿は高名な騎士で医師免許も持っていた。頭も良く医療省の官僚をしていて、複数の国の言葉が話せた。そういう人だから、冒険家に転職できたのだ。
剣の腕は普通。勉強は苦手。運動神経もいまいちなヨーゼフには絶対無理だと思う。私は、控えめながら反対しているし、妻は猛反対だ。ところがヨーゼフの姉のレベッカは「あらゆる欠点を補って余りあるコミュ力があるので、けっこう向いていると思う」などと言って賛成しているのである。
私だって子供の幸福を願っている。子供が本気で何かを目指しているなら応援してやりたいと思っているのだ。
いっそ役者になりたい。とかだったら応援してやったのに、なぜ、危険な職業をわざわざ選ぶのか⁉︎
「まあ、そのようなわけでガルトゥーンダウムは13議会を辞める事になる。」
と宰相閣下は話を戻した。
「他の13議会のメンバーだが、アーレントミュラー公が陛下の御意志に反対する事はない。ディックハウト伯爵は、兄上であるアンドレアス卿が、極北の流刑地からヘンリエータ・グラハム博士を救出した功績で、男爵位と領地が下賜される事が決定している。陛下に逆らってその話が流れたらシャレにならないので、逆らう事はないだろう。騎士団長は三年前の事件で、陛下に負い目がある。故に陛下の判断には逆らえない。」
「三年前のどの事件ですか?」
と私は宰相に聞いた。
「レオンハルト殿下が母であるナディヤ妃から虐待を受けていた事件だよ。」
あったなあ、そんな事件。
うちのレベッカが気がついて、白日の 下(もと) にさらしたのだ。
「あの事件の時、騎士団長は責任をとって、騎士団長の地位と13議会のメンバーとを辞任すると陛下に言ったんだよ。しかし、陛下は『辞める事はいつでも出来る。人々に後ろ指をさされながら職務を続ける方が楽ではないはずだ。今は職を辞さず、私とレオンハルトに尽くせ』と命令された。今回の『復興貴族税』に賛成し、自ら率先して支払う事が 禊(みそぎ) となるはずだ。残るはハーゼンクレファー公爵だが、ディッセンドルフ派が二人いなくなれば残りは三人だ。例えハーゼンクレファー公がディッセンドルフに味方をしても、反対票は四票。陛下の提案は却下出来ない。
・・と、ここまで言えば分かってもらえると思うが、二人にも『賛成票』を入れて欲しい。嫌だと言うなら今理由を言ってくれ。内臓出るほど腹を割って話し合おう。」
そんなモノ出したくない。というか、別に反対じゃない。失業者が街に溢れ、食料は不足し、国民は生活苦に喘いでいる。復興の為に資金を投入する事は必要な事なのだ。立派な法案だと私は思う。
私は三年前、陛下が私に言った事を思い出していた。
『領民を守りきれなかった領主には責任を取らせるし、援助の手を差し伸べてくれた者にはそれに見合った報いを与える。必ずそうすると約束する。だから今は耐えてくれ。』(王都の攻防戦・5より)
陛下はあの日の約束を守ってくださったのだ。
「私は賛成です。」
「自分も賛成ですが・・。」
リヒトが言葉を濁した。