作品タイトル不明
アカデミーの再開の前に
「へー、ついにか。」
嬉しいような、残念なような。アカデミーに、入学した当初のような忌避感は無いけれど、自宅はやっぱり天国だ。それに、マイ、スイートエンジェルのヘンリクに会えなくなるのが辛い。子供の成長は早いのだ。カメラの無い世界なのだから、可愛い瞬間を一秒でも多く目に焼き付けておきたいのだ。
「アカデミーも生徒がだいぶ減ってしまっているでしょうね。」
とユリアが言う。
「え?生徒に死者は出なかったでしょう?教師で亡くなった方は何人かいるらしいけれど。」
ちなみに亡くなったのは皆男性教師だ。大きな声では言えない場所で感染した人もいるので、亡くなった方についての深い話題はタブー視をされている。
「自主退学する生徒が多いのではないかと思います。破産した貴族家がたくさんありますから。」
「復興貴族税は、今年の建国祭までに払えばいいんでしょう。なのにもう破産したの?」
「王都の銀行が倒産したんですよ。」
「んええっ!そんな記事、新聞にのってた?」
「まだのってません。社会に対する影響が大き過ぎて、まだ伏せられているんだと思います。復興貴族税が発表されて、貴族たちが一斉に預金を引き上げました。その為現金が無くなり銀行は、取引の全てを凍結させました。これをやった銀行は事実上倒産したようなものです。いつまでもこのままというわけにはいかないので、数日中に発表があるでしょう。と、レーリヒ商会の王都の支店長が言っていました。」
私はグルン!っと執事を振り返った。
「うちも銀行にお金預けてるの⁉︎」
「預けておりません。」
と執事は言った。
「『王都の銀行』というのはディッセンドルフの銀行という事です。そんな所に、銅貨一枚旦那様が預けるわけがありません。」
「なら、良かった。」
「お嬢様こそ、銀行の貸金庫に豚のぬいぐるみを預けていたりされていないでしょうね?」
「預けてないよ。」
あのぬいぐるみが、隠し財産をお腹に詰め込んでいる貯金箱だって執事まで知っているのか・・・。
「私の家族は、ほぼ全財産預けていたはずです。」
リーシアがぽつりと言った。
「私のお母様もよ。まあ、預けていたお金なんてとっくに底をついているかもだけど。」
とミレイが言った。
「銀行がトーサンしたらどうなるのですか?」
とコルネが聞いた。
「銀行に預けていたお金が一切戻って来なくなるの。」
「え、それって泥棒みたいなものじゃないですか?」
「まあ、何某かの罪には問われるかもね。」
私はため息をついた。こういう事ってマジであるんだ。日本じゃ考えられないもんな。
ただ19世紀の欧米を舞台にした小説や映画では、銀行が潰れて登場人物が全財産を一夜で無くすっていうエピはけっこうあった。
銀行にお金を預けるというのは貯蓄というより投資であり、リスクも大きい物なのだ。
大銀行が倒産するなんて、経済に大激震が走るだろう。その影響は弱い者が被る事になる。貴族社会なら、まず子供だ。
なるほど。だからアカデミーの生徒が減るわけか。
「あんなに貸し剥がしをしていたくせに・・・。」
私はイライラと火の中のサツマイモをつついた。
「で、ブランケンシュタイン家の方の手紙には何て?」
まさか借金の申し込みではないだろう。
「アカデミーが始まる前に、一度お茶会を開くので参加するようにとのお誘いです。ユリアーナ様、コルネリア様、リーシア様、ヘレーネ様、ミレジーナ様もご一緒にとの事です。」
「また何を言われる事やら。」
「お願いですので、何を言われたとしても、一度は家へお戻りください。二年前は、呼び出された後半年以上戻って来られなかったので、奥様も侍女長も、それは荒れて・・じゃなくて心配されたのですから。」
「善処する。」
と言って、私は火の中から一つ棒に刺してサツマイモを取り出し、執事に「いる?」と聞いた。