軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ボランティアの記録(3)

バーベンブルク領にやって来たのは、天然痘が発生したからだが、実は他にも依頼された事がある。バーベンブルク領はイノシシの被害がひどかった。なのでイノシシを駆除して数を減らしてもらえないだろうか。と依頼されたのである。

というわけで、私はこの地に15人のエーレンフロイト騎士団の騎士を連れて来た。

バーベンブルク領は土地が痩せているとはいえ、ソバやイモなどをそれなりに育てている。なのにイノシシがソバ畑を縦横無尽に走り回り、イモを掘り返して食べてしまうのだ。

今まであまり獣害被害の無い土地だったので、領地には猟師がほとんどいない。農民達は木の柵を立てたり罠を仕掛けたり自分達でも努力はしたが、まるで効果がなかったようだ。

今まで無かった地域で動物災害が起こる、という事例がヒンガリーラントラントの至る所で起きているらしい。

おそらく、伝染病の影響が巡り巡って自然界のバランスが崩れているのだろう。

「ブラウンツヴァイクラントでは蝗害が起きたそうですよ。」

とアグネスに教えられてぞわっとした。あらゆる動物災害で最悪なもの。それが蝗害だ。『西大陸の食糧庫』と呼ばれるブラウンツヴァイクラントで、それが起こるなんてどれほどの数の人が飢える事になるだろう?風向きによっては、ヒンガリーラントにもイナゴはやって来るかもしれない。そう思うと恐ろしかった。

ボランティアの合間合間には王都に戻り、私は畑で農作業をして、孤児院の子供達と一緒に困窮している人達に収穫した野菜を配った。

だけど私は、ニンジンやカブ、 芋(ジャガイモ) は配ったが、 南海芋(サツマイモ) は配らなかった。

畑でサツマイモも大量に収穫できたのだが、私はそれを孤児院の子供や友人達の実家にしか渡さなかった。

サツマイモに『貧者の食べ物』というイメージをつけたくなかったからだ。

サツマイモは究極の救荒作物だ。そのせいで既に東大陸では『貧乏人の食べ物』というイメージが染みついている。

実は20世紀の日本でもそうだった。

文子の親友のひいおばあちゃんは、サツマイモが大嫌いだった。第二次世界大戦中、毎日のように食べていたのでもう二度と食べたくないと言っていた。当時の貧しく辛い生活を思い出すからだそうだ。

ヒンガリーラントでそういうふうになって欲しくなかった。サツマイモを食べると伝染病を思い出す。なんて事になったらサツマイモに申し訳がない。

私とお父様は、世の中が落ち着いたら『お菓子の学校』を作りたいと思っている。その時サツマイモは重要な素材になる予定なのだ。なのに『貧者の食べ物』なんてイメージが世の中についていたら絶対に困る。

食べ物は『不幸の記憶』を呼び覚ます事がある。

驚いたのは、親友のひいおばあちゃんは、炊き込みご飯も嫌いだった事だ。戦争中、米が手に入らなくて、芋や豆、カボチャや野菜で傘増しをして食べていたらしい。炊き込みご飯を食べると当時の事を思い出すから食べたくない、と言っていた。サツマイモご飯や栗ご飯は見るのも嫌だと言っていた。

びっくりした。

文子にとっては、炊き込みご飯や栗ご飯はごちそうだったからだ。

「今日の夕ご飯は炊き込みご飯。」

と言われたらテンションがあがったものだ。子供の日とか運動会など特別な日には、いつも炊き込みご飯を作ってもらった。

文子にとってはごちそうの炊き込みご飯が、戦争を生き延びた人にとっては『貧者の食べ物』だったのだ。

サツマイモにしろピーナッツにしろ、栄養豊かで甘い食材が不幸の記憶と結びついては欲しくない。私はそう願っていた。

そう思いつつ私自身も、イノシシ肉を食べたら天然痘を思い出すだろうなあ。と思う。それくらい、バーベンブルク領でたくさんイノシシ肉を食べたのである。あの領地。本当にイノシシが多かった・・・。

そうして日々は過ぎ、大陸歴317年の春が来た。

赤ん坊だったヘンリクとカメリアもすっかり幼児となり、最近はおしゃべりも達者になって来た。カメリアはまだ素直で愛くるしいのにヘンリクの方は『イヤイヤ期』が始まってしまったらしい。最近では、私が何をしても『イヤイヤ』というのである。

抱き上げて頬擦りしようとしたら

「頬擦り、めーなのっ!」

と叫び、キスしようとしたら

「ちゅっちゅ、やなのー!」

と暴れる。

「えー!いいじゃん。」

と言いつつ頬擦りしていたら、お母様に

「いいかげんにしなさーい!」

と叱られる。最近の毎日のローテーションだ。

どうやら、家にほとんどいなかった私には懐いていないらしい。と思って、ヘンリクにかまうのを諦めてカメリアと楽しく遊んでいたら、恨みがましい目をして柱の影からヘンリクがジーッと私達を見ている。

ヨーゼフがとにかく素直な弟で、14歳になった今でも反抗期のカケラもない天真爛漫な子だから、私としてはヘンリクへの接し方には少し悩んでしまう。

ヘンリクの乳母のラヴェンデルには

「ヘンリク様はレベッカ様が大好きで、照れていらっしゃるのですよ。」

と言われ、私の乳母のユーディットには

「お嬢様もあんな子供でしたよ。」

と言われた。

ヨーゼフの方は14歳になって、私よりも背が高くなった。声変わりもして、すっかり大人っぽくなって来ている。一周目では大きくなったヨーゼフを見る事ができなかったので、私としては感無量だ。

そんなヨーゼフには最近降るように縁談話が舞い込んでくる。

だけど、当人はまだ婚約など全然考えていないみたいだ。

お父様は、

「親が決めるつもりはない。自分で選びなさい。」

と言っているし、お母様は

「それより、コンラートをどうにかしなくては!」

と言っている。

そういえば、ブルーダーシュタットにいたコンラートとジークも王都に帰って来るはずだ。

二人にはこの三年間一度も会っていない。王都に戻って来た事もあったようだが、その時に私が王都にいなかったのだ。

コンラートは20歳。ジークは19歳(本当は18歳)になっているはずだ。

今更背は伸びてはないだろうけれど、大人っぽくなっただろうな。

一周目のコンラートの事は覚えていないが、ジークの事ははっきり覚えている。あの人はめちゃくちゃカッコ良かった。

まずいな。うっかり惚れ直してしまったらどうしよう。(二章の『手紙・2』の話です。)

それでも、二人と再会するのはとても楽しみだった。