軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フェーベ街のボランティア(8)

というふうに、のんびりまったり料理を作り、子供達と遊び、問題のあるボランティアの『処理』はエリーゼ様に丸投げしていると書くと「気楽でいいな」と思われそうだが、断じてそーゆーわけではない。問題のあるボランティアもいるにはいるが、それ以上に悩ましい存在のモンペも掃いて捨てるほどいるのだ。

この場合の『モンペ』とはモンスターペアレントの事ではない。モンスターペイシェントの事である。日本語で書くと『難渋患者』である。

そう言うと「ああ、フェーベ街は貴族や富豪の平民患者の多い地域なんだっけ」と思われるかもしれない。

正直、それは関係無い!

人間、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされると本性が出る。その本性の美醜に身分や階級は関係が無いのだ。

どのような状況に遭っても親切で高潔に振る舞い、感謝を忘れない人もいる。かと思えば、どうせ死ぬのだからとワガママの限りを尽くす奴もいる。

そして、脳が悪くなりそうな程のモンペはパーセンテージとして中年から初老のおっさんに多い。身分に関係無くだ。

そういう人は延々と怒鳴り回す。大声で要求が通るまで威嚇する。何故か、自分が一番に優先されて最も優遇されるべきと思い込んでおり、後回しにされると激昂する。大声で「もう死にそうだ!」「殺すつもりなのか⁉︎この役立たずが!」と叫ぶ。

私は思うのだ。

それだけ大声出せるなら死なないよ。と。

たぶんワガママな貴族は、普段から使用人相手に威張り怒鳴り回しているのだろう。そしてワガママな平民は家族を相手に威張り散らしているのだ。家族の中で自分が最も優先され最も良いものを手にしている。自分は大声で人を怒鳴っても子供には「うるさい静かにしていろ」と言い、妻が体調が悪くて寝込んでいても「俺のメシは?」と平気で言う。そんなおっさんだ。

そんなおっさん達は、延々と怒鳴り、何とかフェードアウトしようとすると「逃げるな、話を聞け!」と怒る。そして、合間合間に「おまえの為に言ってやっているんだ。感謝しろ。」という言葉を挟む。挙句トドメとばかりにセクハラをする。

人間は死に直面すると「子孫を残さなくては」という本能が働き、性欲が強くなるという話を聞いた事がある。

そう考えると、病室は性欲の大暴風だ。体を触ってくるなんて日常チャメシだ。聞くに耐えない発言をされる事もある。一時間後に死にそうなくらい体調の悪い人に、売春婦がするような事をお願いされた事もある。

悩ましいのは、ふざけたボランティアは叩き出せても、伝染病患者は叩き出せない事だ。

だからアグネスなんかは

「アイツとアイツとアイツは、病気が治ったら後ろから刺す!」

とか言って青スジを浮かべながら笑っている。そんなアグネスをユリアは不思議そうに見つめていた。

「病気が重篤なうちに、夜中に濡れたハンカチを顔にかけておく方が良いですよね。」

良くはないな。

それでも、何とか心のデ◯ノートに名前を書きつつ耐えていた頃、ついに暴力事件が起きてしまった。

被害に遭ったのは、リーシアの侍女のエイラだ。半狂乱になった患者に鏡を投げつけられ額を切ったのだ。病室は血まみれになった。

それなのに看護師長は開口一番

「どうして、病室に鏡を持ち込んだのですか⁉︎」

とエイラを怒鳴りつけた。

「鏡を持って来るよう命令されたんです。・・駄目だと言ったのですけれど、暴れて大声を出して。」

「あの患者は若いお嬢さんです。それが、後遺症で肌がボロボロになり高熱で髪も地肌が見えるほど抜けました。そんな姿を見たらショックを受けるのは当然でしょう!なのに鏡を持ち込むなんて非常識にもほどがあります。」

「申し訳ありません!」

リーシアが泣きながらエイラを抱きしめ、看護師長に謝った。

「あの子は、私の義妹です。デューリンガー家の娘なんです。そしてエイラはデューリンガー家の使用人です。だから義妹の命令に逆らう事は出来なかったんです。だから・・。ごめんなさい。許してください。」

「怒るのはそこまでにして、エイラの治療をしてくれませんか?」

と私は言った。

マレーネとやらはリーシアの血の繋がらない妹だ。父親が後妻の連れ子と養子縁組したからだ。彼女は仮面舞踏会に出席して天然痘に感染した。発疹が出てから治療を開始したので、症状が他の患者よりも重かった。

患者の治療は医療従事者がするが、掃除や汚れ物の回収、食事の配布などボランティアも患者のいる部屋に入る機会は多い。(そして、そのタイミングでセクハラをくらう)

なので、私も病気で苦しむマレーネを何度か見たが、彼女の症状はかなりひどいなと思っていた。

ついでに言うと、エイラから聞いていた通り彼女の態度もそれはひどかった。私がリーシアの友人だから尚更ひどかったのだろう。

リーシアの全友人が彼女を嫌っていた。

命令には逆らえなかったんです。とリーシアは言っているが、エイラはむしろ「鏡を持って来い」と言われて、嬉々として持って行ったのではないかと思う。

マレーネ嬢は、元々はそれは美しい少女だったらしい。現在の容姿とのギャップにショックを受けて打ちのめされるところが見たかったのではないだろうか。

だからと言ってエイラを叱る気にはなれない。彼女は十分、罰を受けた。額の傷は深くものすごく痛そうだ。傷跡が残ってしまうかもしれない。そもそもこの件は100%、マレーネとやらが悪いのだ。

大病を患っているからといって、悪虐が許されてよいわけがない。

正直私の怒りは既に臨界点だ。罪人には罰が必要だ。私は以後お触りをして来る奴は容赦なくグーで殴る事を決めた。

そして、怒鳴り散らす患者やエロい発言を繰り返す患者の実名を日記に書き綴った。

この日記は、伝染病が沈静化したら新聞社に送りつけてやる。『個人情報』?『守秘義務』?そんな単語は理性と共に川に捨てた。

そうやって過ごす冬の日々。

私にとって、大切な人が死んだ。